2026年度の公的年金額が改定され、国民年金の満額受給額が初めて月7万円を超えました。年金生活者にとっては朗報のように見えますが、その一方で「マクロ経済スライド」による給付抑制も続いています。
また、在職老齢年金制度の見直しにより、高齢者が働きながら年金を受け取りやすくなるなど、人生100年時代を見据えた制度改革も進んでいます。
今回は、年金額の増額が意味するものと、これからのシニア世代が考えるべき年金戦略について考えてみます。
初めて月7万円を超えた国民年金
2026年度の国民年金(老齢基礎年金)は満額で月7万608円となりました。
前年度より約1.9%増加し、金額では月1300円の引き上げです。厚生年金も2.0%増額され、夫婦2人の標準的なモデル世帯では月23万7279円となりました。
賃金や物価の上昇が続く中で、年金額も増加しています。しかし、この数字だけを見て安心することはできません。
なぜなら、物価上昇率の方が高ければ、実質的な購買力はむしろ低下する可能性があるからです。
年金額が増えても、食料品や光熱費などの生活コストがそれ以上に上昇すれば、生活は決して楽になりません。
マクロ経済スライドの現実
2026年度も4年連続でマクロ経済スライドが発動されました。
これは少子高齢化による年金財政悪化を防ぐため、年金の伸びを一定程度抑制する仕組みです。
現役世代の保険料負担だけでは高齢者人口の増加を支えきれないため、将来世代との公平性を確保する目的があります。
制度としては合理的ですが、受給者から見れば「物価ほど年金が増えない」という状況になります。
今後も人口減少が続く限り、この仕組みが長期間続く可能性があります。
つまり、「年金は毎年増えるから安心」という考え方は危険なのです。
働きながら年金を受け取る時代へ
今回の改正で注目されるのが在職老齢年金制度です。
これまで給与と厚生年金の合計額が月51万円を超えると年金が減額されていました。
しかし2026年4月からは基準額が65万円へ引き上げられました。
これは高齢者の働き控えを防ぐことが目的です。
企業側も深刻な人手不足に直面しており、経験豊富なシニア人材への期待は高まっています。
従来は「働くと年金が減るからほどほどにする」という選択をした人も少なくありませんでした。
しかし今後は、働ける人はできるだけ長く働き、収入を確保しながら年金も受け取るという考え方が主流になっていくでしょう。
65歳以降の収入設計が重要になる
人生100年時代では、65歳から先の人生が35年以上続く可能性があります。
仮に夫婦で月24万円程度の年金を受け取れたとしても、住宅修繕費や医療費、介護費用などの大型支出が発生する可能性があります。
そのため、年金だけに依存した生活設計には限界があります。
重要なのは年金を土台と考え、その上に働く収入や金融資産収入を組み合わせることです。
近年はNISAやiDeCoの普及も進み、自助努力による資産形成環境も整ってきました。
年金は老後生活の基礎ですが、それだけで全てを賄う時代ではなくなっています。
知識が最大の年金になる時代
もう一つ見逃せないのは、高齢者自身の知識や経験の価値です。
AIが普及しても、長年培った経験や判断力の価値は簡単には失われません。
企業は即戦力となるシニア人材を求めています。
講師、コンサルタント、執筆、オンライン相談など、身体的負担が比較的小さい働き方も増えています。
これからは「何歳まで働けるか」ではなく、「何歳になっても価値を提供できるか」が問われる時代です。
知識や経験を蓄積し続ける人にとって、第二の人生はむしろ長く豊かなものになる可能性があります。
結論
国民年金が初めて月7万円を超えたことは明るいニュースです。しかし、その裏ではマクロ経済スライドによる給付抑制が続いており、年金だけで豊かな老後を送れるとは言い切れません。
一方で、在職老齢年金の見直しによって、高齢者が働きながら年金を受け取る環境は整いつつあります。
人生100年時代の老後戦略は、「年金を待つ」ことではなく、「年金を土台に収入源を複数持つ」ことです。
そして最大の資産は、働き続けるための健康と、価値を生み出し続ける知識です。
年金額の増減に一喜一憂するのではなく、自分自身を長期的な収入資産として育て続けることが、これからの時代の最も確実な年金対策なのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年6月16日朝刊
「国民年金、月7万円超 今年度、賃金の上昇を反映」