人口減少と人手不足が進む日本では、多くの企業が「量より利益」を重視する経営へと転換しています。
実際に、建設業や外食業では受注や顧客数を無理に増やさず、利益率の高い仕事に集中することで過去最高益を更新する企業が増えています。これは一見すると理想的な経営に見えます。
しかし、利益率の改善だけで本当に企業は成長し続けられるのでしょうか。
人口減少社会において企業が生き残るためには、利益率向上と同時に生産性向上によって供給能力そのものを高める必要があります。
これからの時代は「量か質か」の二者択一ではなく、「質を高めながら量も維持する経営」が求められるのです。
利益率改善が最高益を生み出した時代
近年の企業業績を支えてきた最大の要因は利益率の向上です。
デフレ時代の日本企業は、価格を上げられない環境の中でコスト削減を徹底してきました。しかしインフレ環境へ移行したことで、値上げが受け入れられやすくなり、企業は採算重視の経営へ転換しました。
建設業界はその代表例です。
建築着工面積は大幅に減少しているにもかかわらず、大手ゼネコン各社は過去最高益を達成しています。
背景には深刻な人手不足があります。
以前のように仕事を大量に受注するのではなく、利益率の高い案件だけを選別する経営へ変わったのです。
限られた人材を最も利益が出る場所へ集中投下することで収益性を高めています。
これは建設業だけではありません。
鉄道、バス、食品業界なども運賃改定や価格改定によって利益率を改善しています。
まさに「量より質」の経営が成果を上げているのです。
利益率向上だけでは成長が止まる理由
しかし利益率改善には限界があります。
価格転嫁には上限がありますし、顧客が受け入れられる値上げ幅にも限界があります。
さらに人口減少が続く日本では市場そのものが縮小する可能性があります。
利益率だけを追い続けると、企業は徐々に守りの経営になってしまいます。
利益率向上は重要ですが、それだけでは持続的な成長は難しいのです。
例えば受注を厳選し続ければ、競争力を高める機会や新たな市場を開拓する機会を失う可能性があります。
企業が将来も成長を続けるためには、生産性を高めながら事業規模も維持・拡大する視点が欠かせません。
利益率向上は守りの戦略であり、生産性向上は攻めの戦略ともいえます。
AIとロボットが生産性革命を起こす
今後の成長の鍵を握るのがAIとロボットの活用です。
外食大手のすかいらーくでは、数千台規模の配膳ロボットを導入しています。
単なる人件費削減ではありません。
従業員が接客や店舗運営に集中できるようになり、サービス品質の向上にもつながっています。
結果として従業員一人当たりの売上高は大きく向上しました。
これは今後あらゆる業界で起こる変化です。
税理士業界も例外ではありません。
記帳や集計などの定型業務はAIが担い、人間は相談業務や提案業務へ集中する時代が到来しています。
製造業では工場の自動化、物流では配送ロボット、医療では診断支援AIなど、生産性向上の余地はまだ数多く残されています。
人が不足する社会だからこそ、人以外の力を活用することが重要なのです。
技術革新は新しい需要を生み出す
企業成長のもう一つの原動力は技術革新です。
既存市場の奪い合いではなく、新しい市場を創り出すことです。
富士フイルムが開発した液体ヘリウムを使わないMRIはその好例です。
従来は設置が難しかった医療機関でも導入できるようになり、新たな需要を生み出しています。
さらに中東情勢による資源調達リスクも回避できます。
これは単なるコスト削減ではありません。
新しい価値を提供することで市場そのものを広げているのです。
企業が本当に成長するのは、既存需要を取り合うときではなく、新しい需要を創造したときです。
AI、量子技術、ロボット、医療技術などの進歩は、今後も多くの新市場を生み出していくでしょう。
人生100年時代にも必要な生産性思考
この考え方は企業だけの話ではありません。
人生100年時代を生きる個人にも当てはまります。
年齢を重ねると、どうしても時間や体力という資源が限られてきます。
そこで重要になるのが生産性です。
同じ1時間でも価値の高い活動へ集中することが必要になります。
また、AIやデジタル技術を活用して自分自身の能力を拡張することも大切です。
さらに、自ら新しい価値を発信し、新しい需要を生み出すことも重要になります。
知識を発信する人、学び続ける人、変化を受け入れる人は、年齢に関係なく活躍し続けることができます。
企業も個人も、生産性向上と価値創造が未来を決める時代になったのです。
結論
日本企業はインフレ環境への転換によって利益率を高め、過去最高益を更新する企業が増えています。
しかし、利益率改善だけでは持続的な成長は実現できません。
人口減少と人手不足が進む中で求められるのは、AIやロボットによる生産性向上と技術革新による新たな需要創造です。
これからの時代は「量を捨てて利益を追う経営」ではなく、「生産性を高めながら量も創り出す経営」が勝者になります。
人生100年時代を生きる私たち自身も同じです。
限られた時間を最大限活かし、新しい価値を生み出し続けることが、長く豊かな人生への近道なのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年6月17日朝刊)
「最高益決算の持続力(中) 高まる利益率に死角 生産性上げて『量』を追え」