事業承継というと、多くの経営者は後継者選びや相続税対策、自社株評価などを思い浮かべます。
もちろん、それらは非常に重要です。
しかし、実務の現場では、それ以前に確認しなければならないものがあります。
それが「株券」です。
現在では株券を発行しない会社が原則となっていますが、昔から続く中小企業では、株券発行会社のままであるケースも少なくありません。
もし株券発行会社であるにもかかわらず、株券の所在が分からなかったり、適切な管理が行われていなかったりすると、事業承継そのものが予定どおり進まなくなる可能性があります。
今回は、事業承継の第一歩として確認すべき株券の重要性について考えてみます。
株券発行会社かどうかを最初に確認する
まず確認したいのは、自社が株券発行会社なのか、それとも株券不発行会社なのかです。
2006年の会社法施行以降に設立された会社の多くは株券不発行会社ですが、それ以前から存在する会社では、定款を変更していないため株券発行会社のままであることがあります。
経営者自身がその事実を知らないケースも珍しくありません。
事業承継を始める前に、会社の登記事項や定款を確認することが重要です。
株券が見つからないと承継が止まることもある
株券発行会社では、株式を譲渡する際に株券の交付が必要になります。
ところが、
「どこへ保管したか分からない」
「先代しか保管場所を知らない」
というケースは意外に多くあります。
株券が見つからなければ、株式の譲渡手続きが予定どおり進まない可能性があります。
後継者への承継日程が決まっていても、株券問題によって延期を余儀なくされることもあります。
事業承継では、株券も重要な経営資産として管理しなければなりません。
株主が誰なのか証明できなくなる危険
事業承継では、現在の株主が誰なのかを明確にする必要があります。
過去に株式を譲渡したものの、株券の交付が適切に行われていなかった場合、
「現在の株主は誰なのか」
という問題が生じることがあります。
普段は問題にならなくても、事業承継やM&Aでは必ず確認される事項です。
株主名簿だけでは十分とは言えず、株券発行会社では株券の存在も重要な意味を持ちます。
M&Aでは最初に確認される資料の一つ
会社を第三者へ売却する場合も同様です。
買い手企業や専門家は、株式が適法に承継されているかを慎重に確認します。
株券が紛失していたり、交付の経緯が不明だったりすると、デューデリジェンスで問題となる可能性があります。
その結果、企業価値そのものには問題がなくても、法務リスクによって取引が延期されることもあります。
事業承継だけでなく、将来のM&Aまで考えるのであれば、株券管理は経営課題の一つといえるでしょう。
事前準備が円滑な承継を実現する
事業承継は突然始まるものではありません。
経営者が元気なうちに、
・株券の有無
・定款の内容
・株主名簿
・株式譲渡の履歴
などを確認しておくことで、多くのトラブルは未然に防ぐことができます。
必要に応じて株券不発行会社への移行を検討することも、有効な選択肢になります。
早めの準備こそが、円滑な事業承継につながります。
税理士は最初の確認者になれる
事業承継の相談は、多くの場合、税理士から始まります。
相続税や自社株評価を検討する前に、
「御社は株券発行会社ですか」
という一つの質問が、将来の大きなリスクを防ぐことがあります。
会社法上の手続きは司法書士や弁護士と連携する必要がありますが、最初に問題へ気付くのは顧問税理士であることも少なくありません。
税理士が会社法の基礎知識を持つことで、顧問先への支援の幅はさらに広がるでしょう。
結論
事業承継では、税金や後継者選びに注目が集まりがちですが、その前提となる株式の管理が適切でなければ、承継そのものが進まなくなることがあります。
特に株券発行会社では、株券の所在や管理状況が重要な意味を持ちます。
長年見直していない会社ほど、一度確認する価値があります。
円滑な事業承継を実現するためにも、「株券」という基本事項を見落とさないことが、未来の会社を守る第一歩になるのではないでしょうか。
参考
企業実務 2026年7月号
株券発行会社であることのリスク