会社が赤字になれば、法人税の負担は基本的に小さくなります。
そのため、会社が赤字なら税金もほとんどかからないと思われることがあります。
しかし、企業が負担する税金のすべてが利益を基準としているわけではありません。
その代表例の一つが事業所税です。
事業所税には、事業所床面積を基準とする資産割と、従業者給与総額を基準とする従業者割があります。
どちらも会社の利益を直接の課税標準としていません。
そのため、会社が赤字になって法人税が発生しない場合でも、一定規模以上の事業所を使用していれば事業所税が発生することがあります。
事業所税は、企業にとって利益の有無にかかわらず発生する固定費に近い性格を持つ税金なのです。
法人税は利益を基準として課税される
法人税は、基本的には会社の所得に対して課税される税金です。
会計上の利益に税務上の調整を行って課税所得を計算し、その課税所得を基準として法人税額を求めます。
したがって、事業が好調で課税所得が大きくなれば、基本的には法人税負担も大きくなります。
反対に、業績が悪化して税務上の所得がなくなれば、所得に対する法人税は発生しません。
もちろん、赤字企業でも法人住民税の均等割など別の税負担はあります。
それでも法人税については、基本的に所得と税負担が連動するという特徴があります。
事業所税は、この法人税とは課税の考え方が大きく異なります。
事業所税は企業利益を基準としていない
事業所税は、一定の都市で事業を行う事業者に負担を求める地方税です。
企業などが都市へ集中すると、道路、上下水道などの都市インフラを整備し、維持するための行政需要が生じます。
こうした都市環境の整備などに必要な費用について、事業者にも一定の負担を求めるのが事業所税です。
そのため、会社がどれだけ利益を上げたのかではなく、都市でどの程度の規模の事業活動を行っているのかに着目しています。
その規模を測るために使われるのが、事業所の床面積と従業者給与総額です。
会社が赤字であっても、大規模なオフィスや工場を使用し、多くの従業者が働いていれば、都市インフラを利用して事業を行っていることに変わりはありません。
この考え方が、赤字でも事業所税が発生する理由です。
資産割は床面積で決まる
資産割は、事業所床面積を基準として課税されます。
税率は1平方メートルにつき600円です。
例えば、課税対象となる事業所床面積が5000平方メートルであれば、単純計算で資産割は300万円となります。
この会社が10億円の利益を出していても、1億円の赤字であっても、床面積そのものが変わらなければ、利益の増減が直接資産割の計算に反映されるわけではありません。
つまり、売上が減少して赤字になっても、同じ規模のオフィスや工場を維持していれば資産割の負担は残る可能性があります。
ここが法人税との大きな違いです。
赤字でも大規模な工場があれば資産割が発生する
製造業を例にすると分かりやすくなります。
あるメーカーが大規模な工場を所有しているとします。
景気悪化によって製品が売れなくなり、会社全体では赤字になりました。
法人税の課税所得がなければ、所得に対する法人税は基本的には発生しません。
しかし、工場そのものは引き続き使用しています。
課税団体に所在し、事業所税の免税点を超える規模であれば、資産割については課税される可能性があります。
工場が赤字を生み出しているから床面積がゼロになるわけではないからです。
企業にとって厳しいのは、業績が悪化して資金繰りが苦しいときでも、こうした税負担が残ることです。
従業者割も利益ではなく給与総額で決まる
従業者割も会社の利益を基準としていません。
課税対象となる従業者給与総額に0.25%を掛けて計算します。
例えば、課税対象となる給与総額が20億円であれば、単純計算で従業者割は500万円です。
会社が赤字であっても、従業者へ給与を支払って事業を継続していれば、従業者割が発生する可能性があります。
もちろん、従業者割には100人という免税点があります。
しかし、免税点を超える規模で事業を行っていれば、会社の損益とは別に従業者割を考える必要があります。
赤字だから従業者割もゼロになるという仕組みではありません。
法人事業税とは課税の仕組みが違う
名前が似ているため、事業所税と法人事業税が混同されることがあります。
法人事業税は都道府県が法人の事業に対して課税する地方税で、法人の規模などによって課税の仕組みが異なります。
一般的な所得割では、法人の所得が課税標準となります。
一方、一定規模以上の法人に適用される外形標準課税では、所得だけではなく付加価値額や資本金等の額を基準とする部分があります。
そのため、一定の法人では赤字であっても法人事業税が発生することがあります。
これに対して事業所税は、資産割では床面積、従業者割では給与総額という別の基準を使います。
事業所税と法人事業税は、名称は似ていますが別の税金です。
赤字企業でも複数の地方税負担が残ることがある
会社が赤字になった場合でも、税負担がすべてなくなるわけではありません。
例えば、法人住民税には所得の有無にかかわらず一定額を負担する均等割があります。
一定の法人では、法人事業税の外形標準課税による負担が残ることもあります。
さらに、事業所税の課税団体で一定規模以上の事業所を使用していれば、資産割や従業者割が発生する可能性があります。
固定資産を所有していれば固定資産税もあります。
つまり、企業の税負担には利益と連動する税金と、利益だけでは決まらない税金が存在します。
経営が赤字になった場合には、この違いが資金繰りに大きく影響します。
事業所税は固定費に近い性格を持つ
企業経営では、売上の増減に応じて変わる費用を変動費、売上が減っても一定程度発生する費用を固定費と考えることがあります。
税金を会計上そのまま固定費と分類するという意味ではありませんが、事業所税の資産割は経営感覚として固定費に近い性格があります。
事業所の床面積を縮小しない限り、業績が悪化しても負担が残りやすいからです。
従業者割についても、従業者数や給与総額を維持していれば負担が続きます。
売上が減少しているにもかかわらず、オフィス、工場、人員を従来と同じ規模で維持していれば、事業所税も簡単には減りません。
この点は、企業の固定費管理を考えるうえでも重要です。
オフィス縮小が事業所税の減少につながることもある
反対に、企業が事業所の規模を縮小すれば資産割の負担も変化します。
例えば、テレワークの普及によって本社オフィスを縮小したとします。
課税対象となる床面積が減れば、資産割も減少します。
さらに、課税団体内の事業所床面積が1000平方メートル以下になれば、原則として資産割の免税点以下になる可能性があります。
従業者割についても、人員構成などが変化し、事業所税上の従業者数が100人以下になれば免税点との関係が変わります。
つまり、事業所税は利益には直接連動しませんが、事業規模そのものを縮小すれば負担が変わる税金です。
赤字になってから初めて確認するのでは遅い
事業所税は、法人税と比べると日常的に意識されにくい税金です。
しかし、赤字になったときほど、その存在が経営上の負担として見えやすくなります。
利益が出ているときには数百万円の事業所税を吸収できても、赤字で資金繰りが悪化すると同じ税額でも負担感は大きくなります。
そのため、事業所税は決算時に税額を確認するだけではなく、事業所を新設、増床、移転、統廃合するときにも考慮する必要があります。
オフィスや工場の維持コストを計算するときには、賃料、光熱費、人件費だけではなく、事業所税も含めて考えることが重要です。
結論
事業所税は、会社が赤字であっても課税される可能性があります。
法人税が基本的に企業の所得を基準として課税されるのに対し、事業所税は企業利益を直接の課税標準としていないからです。
資産割は事業所床面積を基準として1平方メートルにつき600円、従業者割は従業者給与総額を基準として0.25%で計算します。
そのため、赤字になっても大規模なオフィスや工場を維持し、多くの従業者に給与を支払い続けていれば、事業所税の負担が残る可能性があります。
事業所税は、企業にとって固定費に近い性格を持つ税金と考えることができます。
業績が悪化したときに初めてその存在を確認するのではなく、事業所の新設、増床、移転、統廃合などを検討する段階から、将来の税負担に含めて考えておくことが重要です。
参考
税のしるべ 2026年8月10日 事業所税の課税団体が減少、人口減で30万人以上の要件を満たせず