確定給付企業年金のニュースを読んでいると、よく出てくる言葉が予定利率です。
今回の企業年金の国内債券回帰でも、予定利率が重要なポイントになっています。
企業年金の予定利率は2%台に設定されているケースが多く、国内の長期金利が3%台まで上昇すると、国債など比較的安全性の高い資産でも予定利率を上回る利回りを確保できる可能性が出てきます。
では、そもそも予定利率とは何でしょうか。
単純に企業年金が目標とする運用利回りなのでしょうか。
実際には、予定利率は将来必要になる年金資金と現在準備すべき掛金を結びつける重要な数字です。
予定利率とは何か
確定給付企業年金では、従業員が将来受け取る年金給付について、あらかじめ一定のルールを定めています。
企業はその年金を将来支払うため、現役時代から掛金を積み立てて運用します。
ここで問題になるのが、
将来100万円を支払うために、現在いくら準備しておけばよいのか
ということです。
現在100万円をそのまま準備する必要があるとは限りません。
積み立てた資金を運用できるからです。
例えば一定の利回りで長期間運用できると想定すれば、現在準備する金額は将来支払う金額より少なくてもよいことになります。
この将来の運用収益を見込んで年金財政を計算するときに使われる利率の一つが予定利率です。
予定利率は実際の運用利回りではない
予定利率について最も注意したいのが、実際の運用利回りとの違いです。
例えば予定利率を2.5%に設定している企業年金があるとします。
これは、
毎年必ず2.5%で運用できる
という意味ではありません。
実際の運用成績は市場環境によって変わります。
株式市場が好調なら5%や10%を超える運用益が出る年もあるでしょう。
反対に株価が急落すればマイナスになることもあります。
予定利率は毎年の実績ではなく、長期的な年金財政を設計するときに使用する前提の一つです。
そのため実際の運用利回りとは区別して考える必要があります。
なぜ年2%台が重要になるのか
今回の企業年金の国内債券回帰を理解するうえでは、予定利率の水準が重要です。
参考記事によると、回答した企業年金の2026年度の予定利率は、2%以上2.5%未満が37%、2.5%以上3%未満が51%となっています。
平均は2.28%です。
つまり多くの企業年金が、おおむね2%台の予定利率を設定していることになります。
一方、長期金利の代表的な指標となる10年国債利回りは3%台まで上昇しました。
ここに大きな変化があります。
予定利率が2%台なのに対して、国債利回りが3%程度になれば、安全性の高い国債だけでも予定利率を上回る利回りを得られる可能性が出てくるからです。
超低金利時代には予定利率を確保するのが難しかった
以前はまったく違う状況でした。
長期間続いた超低金利によって、日本国債の利回りは非常に低い水準にありました。
例えば予定利率が2.5%なのに、安全性の高い国内債券ではほとんど利回りを得られないとします。
それでも企業年金は将来の年金給付を準備しなければなりません。
そこで、
国内株式
外国株式
外国債券
不動産
インフラ
オルタナティブ資産
などへ運用対象を広げてきました。
つまり企業年金がリスク資産を増やしてきた背景には、単純に高い収益を追求したというより、国内債券だけでは必要な利回りを確保することが難しかったという事情があります。
予定利率と掛金には深い関係がある
予定利率は企業が支払う掛金にも関係します。
考え方を単純化すると、
予定利率が高い
将来の運用収益を多く見込める
現在準備するお金を少なくできる
という関係になります。
反対に、
予定利率が低い
将来の運用収益をあまり見込まない
現在から多くのお金を積み立てる必要がある
という関係になります。
例えば30年後に一定額の年金資金を準備するとします。
年3%で運用できる前提と、年1%でしか運用できない前提では、現在必要になる資金は違います。
高い利回りを見込めるほど、現在準備する金額は少なくて済みます。
このため予定利率は企業年金の掛金水準にも影響する重要な数字なのです。
予定利率を高くすれば企業の負担を減らせるのか
ここまで読むと、
予定利率を高く設定すれば掛金を減らせるのではないか
と思うかもしれません。
しかし、そう単純ではありません。
例えば実際には年2%程度しか運用できないのに、年5%で運用できるという前提で年金財政を設計したとします。
当初は少ない掛金で済むかもしれません。
しかし実際の運用収益が予定を下回り続ければ、将来必要な年金資産が不足します。
確定給付企業年金では、約束した給付を支払う必要があります。
そのため積立不足が発生すれば、企業が追加で掛金を負担しなければならなくなる可能性があります。
予定利率を高く設定することは、将来の高い運用収益を前提にすることでもあります。
その前提が現実的かどうかが重要なのです。
予定利率が低すぎれば企業の負担が重くなる
逆に予定利率を極端に低く設定すれば安全なのでしょうか。
これにも問題があります。
予定利率を低く設定すると、将来の運用収益をほとんど見込まないことになります。
その分、企業は現在から多くの掛金を積み立てる必要があります。
企業年金の財政は安定しやすくなりますが、企業の現在の負担は重くなります。
したがって予定利率は、
高ければよい
低ければよい
という数字ではありません。
将来の運用環境や資産構成などを考えながら、現実的な水準を設定することが重要になります。
金利上昇によって予定利率の意味が変わってきた
超低金利時代には、予定利率2%台を確保するだけでも一定のリスクを取る必要がありました。
ところが国内金利が上昇すると状況が変わります。
国債などの国内債券から2%から3%程度の利回りを得られるようになれば、企業年金は以前ほど株式や外国資産などへ依存しなくてもよくなる可能性があります。
企業年金にとって重要なのは、できるだけ高い収益を上げることではありません。
将来約束した年金を安定して支払えるようにすることです。
必要な利回りを低いリスクで確保できるのであれば、その方が企業年金にとって望ましい場合があります。
国内債券への回帰は、この運用環境の変化を表しています。
予定利率の引き上げも始まっている
金利環境の変化を受け、予定利率を見直す企業年金も出てきています。
参考記事によると、予定利率の引き上げについて8%がすでに実施し、5%が検討中と回答しています。
長期的に低下してきた予定利率にも変化の兆しが出ているわけです。
ただし、市場金利が上昇したからといって、予定利率をすぐに同じ水準まで引き上げられるわけではありません。
国債利回りが一時的に3%になったとしても、その水準が何十年も続く保証はありません。
企業年金は数十年単位で将来の給付を考える制度です。
短期的な金利水準ではなく、長期的にどの程度の運用収益を期待できるのかを慎重に判断する必要があります。
予定利率を見ると企業年金の運用が理解できる
企業年金の記事では、
国内債券を増やした
株式を減らした
オルタナティブ投資を増やした
といった資産配分の変化が注目されます。
しかし、その背景を理解するには予定利率を見ることが重要です。
企業年金は単純に相場を予想して投資しているわけではありません。
将来支払う年金から逆算して、どの程度の運用収益が必要なのかを考えています。
その必要利回りと市場で得られる利回りを比較しながら、資産配分を決めているのです。
予定利率を理解すると、なぜ金利3%という数字が企業年金にとって大きな意味を持つのかが見えてきます。
結論
予定利率とは、確定給付企業年金が将来の年金給付に必要な資金や掛金を計算するときに使う重要な前提の一つです。
実際の運用利回りそのものではありません。
予定利率が高ければ将来の運用収益を多く見込むことになるため、現在必要な掛金を抑えやすくなります。
一方、予定利率を高く設定しすぎて実際の運用が追いつかなければ、将来の積立不足につながる可能性があります。
超低金利時代には、予定利率2%台を確保するために株式や外国債券、オルタナティブ資産などへ投資を広げる必要がありました。
しかし国内の長期金利が3%台まで上昇すると、国債など比較的安全性の高い資産でも必要な利回りを確保できる可能性が高まります。
企業年金の国内債券回帰を理解するうえで、予定利率は中心となる数字です。
金利のある世界への転換は、企業年金にとって単なる債券利回りの上昇ではありません。
将来の年金をどのような資産で準備するのかという、企業年金運用そのものを変える可能性があるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 企業年金、国内債に回帰 配分増加意向、過去最大 利回り回復で投資妙味