近年、贈与税をめぐる制度は大きく変化しています。特に令和5年度税制改正以降は、従来の常識がそのまま通用しなくなりつつあります。
贈与は相続対策の基本手段の一つですが、制度の理解が不十分なまま進めると、想定外の課税や税負担の増加につながる可能性があります。
本シリーズでは、みなし贈与と事業承継税制を中心に、制度の構造と実務上の判断ポイントを体系的に整理していきます。第1回は、その前提となる贈与税の基本構造と改正の影響を整理します。
贈与税の申告状況から見える制度の変化
贈与税の申告状況を見ると、制度の変化が数字として現れています。
令和6年分の申告では、全体の申告件数は減少している一方で、申告税額は増加しています。また、特に注目すべきは、相続時精算課税の利用が大きく増加している点です。
相続時精算課税の申告件数は前年比で大幅に増加しており、制度改正により使い勝手が向上したことが影響していると考えられます。
この動きは、贈与の意思決定が単なる節税ではなく、制度選択の問題へと変化していることを示しています。
贈与税の2つの課税方式
贈与税には大きく分けて2つの課税方式があります。
- 暦年課税
- 相続時精算課税
この2つは単なる税率の違いではなく、課税の考え方そのものが異なります。
暦年課税は、毎年の贈与に対してその都度課税する方式です。一方、相続時精算課税は、贈与時には一定の枠まで課税を繰り延べ、最終的に相続時に精算する仕組みです。
つまり、前者は分散課税、後者は一体課税という構造を持っています。
令和5年度改正の本質
今回の制度改正で最も重要なポイントは、暦年課税の前提が変わったことです。
従来は、相続開始前3年以内の贈与のみが相続財産に加算されていましたが、改正によりこの期間が延長されました。さらに、一定の控除が設けられるなど、制度はより複雑になっています。
この改正により、毎年110万円の贈与を続ければ安全という単純な考え方は通用しにくくなっています。
一方で、相続時精算課税については基礎控除の創設などにより、使いやすさが向上しています。この結果、制度選択の重要性がこれまで以上に高まっています。
税負担の考え方はどう変わったのか
改正前は、暦年課税をベースに贈与を積み重ねる方法が広く採用されていました。
しかし現在は、以下のような視点が必要になっています。
- 長期的な相続税まで含めた総合判断
- 財産の種類ごとの最適な移転方法
- 価格変動リスクの考慮
例えば、値上がりが見込まれる資産については、早期に移転することで課税ベースを抑える効果があります。一方で、値下がりリスクがある資産については、逆に不利になる可能性もあります。
このように、贈与は単なる税務手続ではなく、資産移転の戦略として考える必要があります。
なぜ「みなし贈与」が重要になるのか
贈与税の議論において、見落とされがちなのがみなし贈与です。
これは、形式上は贈与でなくても、実質的に経済的利益が移転している場合に課税される仕組みです。
例えば以下のようなケースです。
- 時価より著しく低い価額での売買
- 債務の免除
- 無償での利益提供
これらは本人に贈与の意思がなくても課税対象となります。
つまり、贈与税は契約の形式ではなく経済的実態で判断される税目です。この点が理解されていないと、意図しない課税が発生するリスクが高まります。
事業承継と贈与税の関係
事業承継においても、贈与税は極めて重要な論点です。
特に非上場株式の移転は、評価額が高額になりやすく、贈与税負担が大きくなる傾向があります。このため、事業承継税制による納税猶予制度が設けられています。
ただし、この制度は要件が非常に厳格であり、形式的なミスでも適用が否認される可能性があります。
そのため、制度の理解と実務対応は不可分の関係にあります。
結論
贈与税の制度は、単なる節税手段ではなく、相続・資産移転・事業承継を一体で考えるための枠組みへと変化しています。
特に令和5年度改正以降は、制度選択そのものが重要な意思決定となっています。
今後は、暦年課税か相続時精算課税かという二者択一ではなく、資産の性質や家族構成、事業の状況を踏まえた総合的な設計が求められます。
次回は、暦年課税と相続時精算課税の違いを、より具体的に比較しながら整理していきます。
参考
東京税理士協同組合 教育情報事業 全国統一研修会資料
みなし贈与と事業承継税制(令和8年)
国税庁 公表資料
財務省 公表資料