有事に金は本当に強いのか――「キャッシュ・イズ・キング」が示す金融市場の現実

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世界情勢が緊迫すると、しばしば「有事の金」という言葉が語られます。戦争や金融危機などの不確実性が高まる局面では、金(ゴールド)が安全資産として買われるという考え方です。

しかし実際の金融市場では、必ずしもその通りには動きません。むしろ、危機が現実化した直後には金価格が下落する場面がしばしば見られます。最近の中東情勢をめぐる市場の動きも、その典型的な例といえます。

本稿では、有事における金価格の動きと「現金が王様」と言われる市場メカニズムについて整理します。


有事の発生直後に金が下がる理由

一般的なイメージでは、戦争や危機が起きれば金は上昇すると思われがちです。確かに、危機が「懸念されている段階」では金は買われやすくなります。

しかし、実際に軍事衝突や金融ショックが発生すると、短期的には金が売られるケースが少なくありません。

その理由の一つが、投資家による利益確定です。
市場では危機の可能性が高まる段階で投機的な資金が流入し、価格が上昇することがあります。そして危機が現実になると、これまでのポジションを解消する売りが出ることがあります。

つまり、

危機の「予想」では買われ
危機の「発生」では売られる

という動きが起こることがあります。

今回の中東情勢でも、金価格は一時的に上昇した後に下落する展開となりました。


金融危機では「現金化」が起きる

もう一つ重要な理由は、投資家が資産を現金化する必要に迫られることです。

金融市場が混乱すると、株式や債券など幅広い資産価格が同時に下落することがあります。このとき投資家は次のような事情で現金を確保する必要が生じます。

  • 株式投資の損失を補うため
  • 追加証拠金(追い証)への対応
  • 流動性確保のため

このような場面では、金も例外ではありません。
むしろ換金しやすい資産であるため、売却されやすい側面があります。

その結果、金融市場では

「キャッシュ・イズ・キング(現金は王様)」

という現象が起こります。


リーマン・ショックでも金は一時急落した

この現象は過去の危機でも繰り返し確認されています。

2008年のリーマン・ショックでは、金融市場が混乱する中で金価格は一時的に急落しました。市場参加者が資産を売却して現金を確保する動きが広がったためです。

同様の動きは、2020年のコロナショックでも見られました。株式市場が急落する中で、金価格も一時的に大きく下落しています。

このように、金は長期的には安全資産として評価されることが多いものの、危機の初期段階では売られる可能性がある資産でもあります。


危機時に強いのは米ドル

危機の際に強くなる資産として、もう一つ重要なのが米ドルです。

米ドルは世界の貿易決済や金融取引で広く使われる基軸通貨です。
そのため市場が不安定になると、投資家はドルを手元に確保しようとする傾向があります。

実際に過去の危機では

  • コロナショック
  • ロシアによるウクライナ侵攻
  • 金融市場の混乱

といった局面でドル高が進む場面が多く見られました。

地政学リスクが高まる局面では、
「安全資産」としての金と同時に
「流動性資産」としてのドルが買われる構図が生まれます。

そして危機の直後には、流動性の高さからドルが優先されることが多いのです。


長期では金が再び買われる可能性

もっとも、金が安全資産としての役割を失ったわけではありません。

危機の初期段階では現金化の売りが出やすいものの、緊張状態が長期化すると再び金が買われるケースも多く見られます。

その理由としては、

  • インフレリスク
  • 通貨価値への不信
  • 地政学リスクの長期化

などが挙げられます。

つまり、金の価格は

短期では流動性
長期では安全資産

という二つの要因の間で動くことになります。


結論

「有事の金」という言葉は広く知られていますが、金融市場の実際の動きはもう少し複雑です。

危機が発生した直後の市場では、資産の現金化が進み、「キャッシュ・イズ・キング」という現象が起こることがあります。その結果、金を含めた多くの資産が一時的に売られることがあります。

一方で、危機が長期化する場合には、安全資産として金が再び買われる可能性もあります。

金は常に上がる資産でも、常に安全な資産でもありません。
金融市場では、流動性・通貨・リスク回避といった複数の要因が絡み合いながら価格が形成されているのです。


参考

日本経済新聞
有事には「現金が王様」 金はイラン攻撃後3%下落(2026年3月6日)

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