中小企業税制の見直しと実務への影響 ― 使える制度か、使いにくい制度か

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

令和8年度税制改正大綱では、「成長促進」「賃上げ支援」「公平性確保」といった大きな理念が掲げられています。しかし、中小企業の現場で問われるのは、理念ではなく実務です。

制度が存在しても、活用できなければ意味がありません。本稿では、賃上げ税制、設備投資減税、交際費課税などの主要論点を整理し、実務への影響を検討します。


賃上げ税制の実務的ハードル

賃上げ促進税制は、物価高対応と成長戦略を兼ねた柱の一つです。

一定割合以上の賃上げを実施した場合に税額控除が認められる仕組みですが、実務上は以下の点が重要になります。

第一に、対象となる給与の範囲です。継続雇用者給与等の定義や、計算基礎の取り方を誤れば適用が否認される可能性があります。

第二に、利益水準との関係です。税額控除は法人税額があって初めて効果を持ちます。赤字企業や税額が小さい企業にとっては恩恵が限定的です。

第三に、将来負担です。一度引き上げた賃金は固定費となります。税制優遇が期限付きである場合、優遇終了後の人件費負担をどう吸収するかが経営課題になります。

賃上げ税制は、単なる減税措置ではなく、長期的な人件費戦略と一体で検討すべき制度です。


設備投資減税と投資判断

設備投資関連税制は、生産性向上や成長促進を目的としています。

特別償却や税額控除の拡充は、投資回収期間を短縮する効果があります。しかし、税制はあくまで投資の後押しに過ぎません。

中小企業にとっては、資金繰り、借入金利、補助金制度との併用可否など、総合的な資金計画が重要です。税制メリットのみを理由に投資を決定することは現実的ではありません。

また、適用要件の確認や証憑保存など、税務調査を見据えた対応も不可欠です。制度活用には事前のシミュレーションが求められます。


交際費課税の見直しと営業活動

交際費課税の在り方も、中小企業にとって重要な論点です。

交際費は営業活動に直結しますが、損金算入限度額や飲食費の区分など、細かな要件が存在します。制度改正によって限度額や定義が変われば、実務処理の見直しが必要になります。

特に飲食費の取扱いは、帳簿・証憑の整備状況によって税務リスクが左右されます。インボイス制度の定着により、形式要件の確認がこれまで以上に重要になっています。

営業政策と税務処理を分断せず、一体的に管理する体制が求められます。


事業承継と資産評価の動向

事業承継税制や資産評価の見直しも、中長期的な経営に影響を及ぼします。

貸付用不動産の評価の適正化や課税ベースの見直しは、資産管理会社や不動産保有戦略に影響します。評価方法の変更は、相続税や贈与税の負担水準を左右します。

中小企業経営者にとって、事業承継は単なる税務問題ではありません。後継者育成、株式移転方法、資金調達手段など、多面的な検討が必要です。

税制改正は、その設計に微妙な修正を加える要素となります。早期の情報収集と長期計画の見直しが不可欠です。


制度活用の前提となる経理体制

いかに優遇制度が整備されても、経理体制が整っていなければ活用は困難です。

電子帳簿保存法やインボイス制度への対応状況は、税制優遇の適用可否にも影響します。証憑管理、給与台帳の整備、固定資産管理台帳の正確性など、基礎的な体制整備が前提となります。

税制改正は、経理部門の役割をより重要なものにしています。単なる記帳業務ではなく、経営意思決定を支える情報基盤としての機能が求められます。


結論

令和8年度税制改正大綱における中小企業税制は、成長促進と負担の適正化を同時に追求する設計となっています。

しかし、制度の実効性は、企業の利益水準、資金繰り、経理体制に大きく依存します。使える制度かどうかは、制度そのものだけでなく、企業側の準備状況によって決まります。

税制改正を単なる「減税の有無」として捉えるのではなく、自社の経営戦略にどう組み込むかという視点が重要です。

次回は、「納税環境のデジタル化と中小企業の対応」をテーマに、税務行政の変化と実務体制の再構築について検討します。


参考

・自由民主党・公明党「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月公表)
・税理士界 第1457号(令和8年2月15日発行)特集「令和8年度税制改正大綱を検証」

タイトルとURLをコピーしました