日本には、すでに400万戸以上の空き家があるといわれています。人口減少と都市集中の影響で、今後も空き家は増え続けると予測されています。
一方で、「高齢者が賃貸住宅を借りられない」「外国人が部屋を紹介してもらえない」といった声は絶えません。空き家はあるのに、住みたい人が住めない――。ここには深刻なマッチングの壁が存在します。
今回は、この「空き家問題と住宅弱者支援のミスマッチ」について掘り下げます。
空き家400万戸という現実
総務省の住宅・土地統計調査によれば、日本の空き家は年々増加し、現在は400万戸を優に超えています。地方だけでなく都市部にも空き家は存在しており、社会問題化しています。
空き家増加の背景には、
- 少子高齢化で相続した家を使わないまま放置
- 地方から都市への人口流出
- 建物の老朽化で貸し出しが困難
といった事情があります。
つまり、「貸す側にとってリスクが大きい」「使い道が分からない」という理由で、空き家は眠ったままになっているのです。
なぜ借りたい人とつながらないのか
一方で、住宅を借りたい人たちは確実に存在します。特に高齢者、低所得者、外国人、ひとり親世帯など「住宅弱者」と呼ばれる層です。
しかし、この両者が結びつかないのはなぜでしょうか。主な要因は以下の通りです。
- 老朽化による安全性の問題
古い木造住宅などは耐震性や防火性に不安があり、入居を勧められない。 - 修繕費用の負担
貸し出すにはリフォームが必要だが、費用をかけても採算が合わない。 - オーナーの不安感
高齢者や外国人への入居に伴うトラブル(孤独死、家賃滞納、近隣摩擦)を懸念して貸し出さない。 - 情報の非対称性
借りたい人が空き家の情報にアクセスできない。オーナーも支援制度を知らない。
この「情報と信頼のギャップ」が、マッチングを阻んでいるのです。
セーフティネット住宅の登録は伸び悩み
住宅セーフティネット法では、大家が「入居制限をしない」と登録した物件を「セーフティネット住宅」として紹介する仕組みがあります。
しかし、登録件数は期待ほど伸びていません。理由は、
- オーナー側のメリットが分かりづらい
- 行政手続きが煩雑
- 入居者のトラブルリスクをカバーする制度が弱い
このため、登録が進まず「借りたい人に物件が届かない」状況が続いています。
空き家と高齢者をつなぐ試み
それでも各地でユニークな取り組みが始まっています。
- 自治体による空き家バンク
→ 地域の空き家をリスト化し、移住希望者や住宅弱者に紹介。 - NPOの仲介支援
→ 高齢者の入居を前提にリフォームを行い、見守りサービスをセットで提供。 - 保証会社との連携
→ 孤独死や家賃滞納のリスクをカバーする保険商品を導入。
これらはまだ一部の地域に限られますが、成功例として注目されています。
マッチングが進まないことの社会的損失
空き家が活用されないことは、単なる不動産の問題にとどまりません。
- 治安や景観の悪化
放置された空き家は防犯上のリスクや景観悪化につながる。 - 資源の浪費
使える住宅が眠っているのに、新築需要が続くのは非効率。 - 高齢者の住居不安の拡大
借りられる住宅が限られれば、住まいを失うリスクが高まる。
結果として、医療費や介護費の増大、地域コミュニティの崩壊など、社会全体に悪影響を及ぼすのです。
ICTとデータベースの可能性
マッチングを進めるためには、データの可視化が不可欠です。
- 全国規模での空き家データベース整備
- 入居希望者の条件(年齢・収入・生活支援の必要性)と照合できる仕組み
- 見守りサービスや保証制度とセットでの紹介
ICTを駆使することで「空き家」と「借りたい人」を効率的につなげることができます。
税理士・FPの視点から
空き家問題は税務や資産管理とも密接に関わります。
- 相続税対策としての空き家活用
空き家を放置すれば固定資産税の負担が重くなる一方、適切に活用すれば資産価値を維持できる。 - 不動産収入の確保
高齢者向け賃貸として整備すれば、安定収入源になる可能性。 - 家計プランにおける住まいの確保
将来賃貸に住み替える場合、家賃負担をどう組み込むか。
つまり、空き家と高齢者の住まい問題は「家計設計」「相続」「地域経済」と密接につながっており、専門家が果たす役割は大きいといえます。
まとめ
- 日本には400万戸を超える空き家がある。
- しかし住宅弱者と結びつかないのは、老朽化・費用・不安・情報不足といった壁があるため。
- 成功例も出てきており、ICTや保証制度の導入がカギとなる。
- 税制や家計の観点からも、空き家活用と住宅弱者支援は重要テーマ。
次回は「第4回 地域で支える仕組み ― 居住支援法人と協議会」を取り上げ、支援の担い手がどのように広がっているかを解説します。
📌参考:日本経済新聞「改正住宅セーフティネット法施行」(2025年9月14日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
