経理には、会社のお金を守る役割があります。
経費の内容を確認する。証憑がそろっているかを見る。必要な承認が行われているかを確認する。問題があれば差し戻す。
こうしたチェックは、経理にとって欠かすことのできない仕事です。
ところが、同じように厳しくチェックしていても、営業から「仕事を止める経理」と思われる人と、「仕事を支えてくれる経理」と思われる人がいます。
違いは、チェックの厳しさではありません。
フロントの仕事を理解し、そのうえで経理としての役割を果たそうとしているかどうかにあります。
経理には会社の資産を守る役割がある
経理が営業から提出された書類を確認するのは、細かいことを指摘するためではありません。
会社のお金が適切に使われているかを確認するためです。
必要な証憑がなければ確認を求めます。
社内ルールに合わなければ修正を求めます。
不明な支出があれば内容を確認します。
こうしたチェックを曖昧にしてしまえば、経理としての役割を果たせません。
元資料でも、フロントに敬意を払うからといってバックオフィスが卑屈になる必要はなく、会社の資産を守るために締めるべきところは締めるという考え方が示されています。
営業を支える経理とは、何でも認める経理ではありません。
営業から見れば同じチェックでも印象が違う
例えば、営業担当者から経費精算が提出されたとします。
必要な情報が不足していました。
経理が、
「記載漏れです。修正してください」
と差し戻すことはできます。
間違った対応ではありません。
しかし、営業担当者には、なぜその情報が必要なのか分からないかもしれません。
一方で、
「この支出の内容を確認するために必要ですので、この部分を追記してください」
と伝えれば、同じ差し戻しでも意味が分かります。
経理が求めている結果は同じです。
違うのは、相手が理解できるように伝えているかどうかです。
「正しいか」だけを見れば現場との距離が広がる
経理では正確性が重要です。
そのため、
「規程に合っているか」
「証憑があるか」
「承認されているか」
という視点で書類を見ることになります。
しかし、それだけに集中すると、書類が生まれた背景が見えなくなることがあります。
元資料では、申請書だけで判断するのではなく、フロントのメンバーとの会話や稟議などを通じて、背景にある現場の動きを理解することが勧められています。
経費精算書の前には営業活動があります。
出張費の前には顧客訪問があります。
会食費の前には取引先とのやり取りがあります。
数字と書類だけでは、その全体を見ることはできません。
営業を止める経理は結果だけを見る
提出期限を過ぎている。
領収書が足りない。
申請内容に不備がある。
営業を止める経理になってしまうと、こうした「結果」だけに目が向きやすくなります。
すると、
「また遅れています」
「ルールを守ってください」
「この申請では認められません」
というコミュニケーションが増えていきます。
もちろん、指摘自体は必要です。
問題は、その背景を知ろうとしなくなることです。
なぜ遅れたのか。
なぜ通常とは違う処理が必要なのか。
現場では何が起きているのか。
そこまで確認すれば、単なるルール違反とは違う事情が見えてくることがあります。
営業を支える経理は背景を見る
元資料では、実際に営業の商談やマーケティングの地方イベント、経営陣の会食などへ同行したことで、フロントに対する認識が変わった経験が紹介されています。
外から見れば華やかに見える出張や会食でも、実際には生活リズムが崩れ、食事を楽しむ余裕もなく、緊張感のあるやり取りが続くことがあります。
こうした現場を知れば、営業から提出された書類の見え方も変わります。
だからといって、不備を見逃すわけではありません。
必要な修正は求める。
ただし、その前に相手が置かれている状況を想像する。
この違いが、営業を支える経理につながります。
経理から営業への説明も必要になる
営業に経理の事情を理解してもらうことも重要です。
営業担当者からすれば、
「領収書を数日遅れて出したくらいで、なぜそこまで言われるのか」
と感じることがあるかもしれません。
しかし、経理にはその後の処理があります。
内容を確認し、必要な会計処理を行い、決算へ反映しなければなりません。
1人の遅れだけなら小さくても、多くの社員が遅れれば経理全体の業務に影響します。
その背景を説明しなければ、営業には単に経理が細かいことを要求しているように見えてしまいます。
フロントを理解するだけでなく、バックオフィスの事情も理解してもらう。
相互理解が必要です。
相手への敬意は一言に表れる
元資料では、書類を求める際にも、
「大変な交渉をお疲れさまでした」
と相手の仕事を認めたうえで、必要な書類への協力を求めるという考え方が示されています。
これは小さな違いに見えます。
しかし、受け取る側の印象は大きく違います。
「経理は自分たちの事情しか考えていない」
と思われるのか。
「経理もこちらの仕事を理解しようとしてくれている」
と思われるのか。
その積み重ねが部門間の信頼関係をつくります。
支える経理は何でも引き受ける経理ではない
営業を支えるという言葉から、営業の要望にできるだけ応えることだと考える必要はありません。
認められないものは認めない。
必要な証憑は提出してもらう。
期限は守ってもらう。
会社の資産を守るために必要なチェックは行う。
ここを曖昧にすれば、経理としての信頼を失います。
大切なのは、相手の仕事を理解したうえで必要なことを求めることです。
厳しくチェックすることと、相手に敬意を払うことは両立します。
チェックする目的を忘れない
経理がチェックする最終的な目的は、営業を管理することではありません。
会社の事業活動を適切に支えることです。
営業が売上をつくる。
経理がその活動から生まれる取引を正確に記録し、会社の資産を守る。
役割は違っても、会社を支えるという目的は共通しています。
この目的を忘れなければ、
「どうすれば営業にルールを守らせられるか」
だけではなく、
「どうすれば営業が仕事を進めながら、必要なルールも守れるか」
という発想が生まれてきます。
この違いは大きいでしょう。
結論
営業を止める経理と営業を支える経理の違いは、チェックが厳しいか優しいかではありません。
どちらも必要なチェックは行います。
違うのは、その書類の向こう側にある現場を見ようとしているかどうかです。
相手の仕事を理解する。
必要な理由を説明する。
敬意を持って修正や協力を求める。
そして、締めるべきところはきちんと締める。
経理がこの姿勢を持てば、チェックは営業活動を妨げるものではなく、会社を安全に前へ進めるための仕組みになります。
「止める経理」から「支える経理」へ。
その違いを生むのは、高度な制度や特別な仕組みよりも、まず相手の仕事を想像しようとする姿勢なのではないでしょうか。
参考
企業実務 2026年10月号
松岡俊「フロントへの想像力と敬意が、バックオフィスの信頼をつくる」