国税庁は2027年度の定員要求で730人の増員を要求しています。
その中で最も目立つ項目の一つが、消費税不正還付への対応です。
この分野だけで185人の増員が要求されています。
なぜ消費税の不正還付にこれほど多くの人員が必要なのでしょうか。
その理由を理解するには、まず消費税には税金を納めるだけでなく、条件によって税金が還付される仕組みがあることを理解する必要があります。
消費税は売上だけで計算するわけではない
消費税の基本的な仕組みは、売上にかかる消費税から仕入れや経費などにかかる消費税を差し引いて納税額を計算するというものです。
この差し引く仕組みが仕入税額控除です。
例えば、売上にかかる消費税が100万円あり、仕入れなどにかかる消費税が60万円だったとします。
単純化すると、差額の40万円を納めることになります。
消費税は事業者が売上時に受け取った消費税をそのまま全額納める制度ではありません。
仕入れなどの段階で負担した消費税を調整しながら納税額を計算する仕組みになっています。
消費税が還付されることもある
仕入れなどにかかる消費税の方が、売上にかかる消費税より大きくなることがあります。
一定の要件を満たせば、その差額について還付を受けられる場合があります。
代表的なのが輸出取引です。
輸出取引には消費税が免税となる仕組みがあります。
一方、輸出する商品を国内で仕入れる段階では消費税を負担している場合があります。
その結果、売上側の消費税より仕入れ側で控除する消費税の方が大きくなり、還付が生じることがあります。
また、大規模な設備投資などによって仕入れや設備にかかる消費税が大きくなる場合にも、条件によって還付が発生することがあります。
つまり、消費税の還付そのものは異常なものではありません。
制度上、正当に発生するものです。
問題は架空の取引による還付
問題になるのが、実際には存在しない取引などを使って還付を受けようとするケースです。
例えば、実際には商品を仕入れていないにもかかわらず、仕入れがあったように装うケースが考えられます。
仕入れが大きくなれば、それに伴って控除する消費税も大きくなります。
その結果、本来なら受け取れない還付金を受け取ることにつながる可能性があります。
実際には行われていない輸出取引を装ったり、架空の仕入れを組み合わせたりすれば、還付制度が悪用されることになります。
こうした行為が消費税の不正還付として問題になります。
なぜ還付は狙われやすいのか
所得税や法人税の不正では、本来納めるべき税金を少なくするという形が一般的です。
一方、消費税の不正還付では性質が少し異なります。
不正な申告によって、国から実際にお金を受け取ることにつながる可能性があるからです。
例えば、1000万円の税金を本来納めるべき人が不正によって500万円しか納めなかった場合、国の税収は500万円減ります。
これに対して、本来還付を受ける権利がない人が1000万円の還付を受ければ、国庫から1000万円が流出します。
還付制度を悪用した不正は、税収を減らすだけではなく公金を不正に受け取るという側面を持っています。
そのため税務当局にとって重要な監視対象になります。
インボイス制度とも関係する
仕入税額控除では、インボイス制度も重要です。
インボイス制度では、原則として一定の事項が記載された適格請求書などの保存が仕入税額控除の要件になります。
誰から何を仕入れたのか。
どの程度の金額なのか。
どの税率が適用されているのか。
こうした取引情報を確認しやすくすることは、適正な仕入税額控除を確保するうえでも重要です。
ただし、書類が存在するだけで取引の実態まで自動的に証明されるわけではありません。
取引そのものが実際に行われているのかを確認する必要があるケースもあります。
不正還付の調査には取引先の確認も必要になる
消費税の不正還付を調べる場合、申告書だけを見れば判断できるとは限りません。
本当に商品を仕入れたのか。
その商品は実際に存在するのか。
代金は支払われているのか。
取引先は実在するのか。
輸出したのであれば、本当に国外へ商品が出ているのか。
こうした事実関係を確認する必要があります。
さらに複数の法人が取引に関与していれば、一社だけを調査しても全体像が分からないことがあります。
取引の流れをたどる作業が必要になるため、調査には相応の人員と時間が必要になります。
185人の増員要求が意味するもの
国税庁は2027年度の定員要求で、消費税不正還付への対応として185人の増員を要求しています。
租税回避スキームへの対応として要求している57人と比べても大きな人数です。
この数字からも、国税庁が消費税の不正還付対策を重要課題として位置付けていることが分かります。
税務行政では限られた職員をどこへ配置するかが重要です。
増員要求を見ることによって、国税庁が今後どの分野に重点的に対応しようとしているのかを知ることができます。
飲食料品の税率引下げも影響する
2027年度には、飲食料品に係る消費税率の引下げへの対応も予定されています。
国税庁はこれとは別に74人の時限定員を要求しています。
個別相談窓口の設置や説明会への講師派遣だけでなく、増加が見込まれる還付申告への対応も理由とされています。
税率が変われば、事業者の申告計算も変化します。
特に複数税率が存在する制度では、売上と仕入れに適用される税率を正しく区分することが重要になります。
制度変更によって還付申告が増えれば、正当な還付を迅速に処理する一方、不正な還付を防ぐという二つの課題に対応する必要があります。
正当な還付まで疑えばよいわけではない
不正還付対策を考える際に忘れてはいけないのが、正当な還付を受ける納税者の存在です。
輸出企業や大規模な設備投資をした企業などでは、制度上、消費税の還付が正当に発生することがあります。
不正を防ぐためにすべての還付を過度に疑えば、正当な事業者への還付が遅れる可能性があります。
したがって税務当局には、不正な申告を的確に見つけながら、正当な還付は適切に処理することが求められます。
ここでも情報分析や調査対象の適切な選定が重要になります。
結論
消費税には、売上にかかる消費税から仕入れなどにかかる消費税を差し引く仕入税額控除の仕組みがあります。
その結果、一定の場合には消費税が還付されます。
還付そのものは制度上認められた正常な仕組みです。
問題になるのは、架空の仕入れや取引などを利用して、本来受け取ることのできない還付金を得ようとする行為です。
こうした不正を確認するには、申告書を見るだけではなく、取引先や資金、商品の流れなどを確認する必要があります。
国税庁が2027年度に消費税不正還付への対応として185人もの増員を要求していることからも、この問題を税務行政上の重要課題として位置付けていることが分かります。
これからの消費税行政では、正しい申告を支援することと、不正な還付を防ぐことの両方がますます重要になっていきます。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を