税務調査というと、申告漏れを見つけて追加の税金を納めてもらう仕事というイメージが強いかもしれません。
しかし、税務調査の現場で得られる情報には、もう一つ重要な役割があります。
現行の税制では十分に対応できない新しい取引や租税回避スキームを発見することです。
国税庁は2027年度の機構要求で租税回避対策企画官の新設を要求し、必要に応じて財務省主税局とも連携して税制改正による規制強化を図るとしています。
税務行政の現場と税制改正は、実は密接につながっています。
国税庁は税法を執行する組織
まず理解しておきたいのが国税庁の役割です。
所得税や法人税、相続税、消費税などについて法律に基づいて申告や納付を受け、必要に応じて税務調査を行います。
つまり、すでに存在する税法を実際の納税者や取引に適用する立場です。
税務署や国税局が日々、多くの申告や取引に接するため、制度が実際にどのように利用されているのかを把握しやすい立場でもあります。
法律を作った時点では想定されていなかった取引が、実務の現場から見つかることもあります。
財務省主税局は税制を企画する
これに対して、税制の企画や立案を担うのが財務省主税局です。
社会や経済の変化に応じて、税制をどのように見直す必要があるのかを検討します。
毎年度行われる税制改正でも中心的な役割を担います。
国税庁が税法を執行する組織だとすれば、主税局は税法の制度設計を担う組織と考えると分かりやすいでしょう。
この二つの役割は異なりますが、租税回避への対応では両者の連携が重要になります。
新しい取引は現場から見えてくる
税制を作る段階で、将来登場するすべての取引を予測することは困難です。
金融商品が進化することもあります。
企業再編の方法が変化することもあります。
デジタル技術によって新しい資産や取引が登場することもあります。
さらに複数の制度を組み合わせることで、法律を制定した時点では想定されていなかった税負担の軽減方法が考案される可能性もあります。
こうした取引に最初に接する可能性が高いのが、税務行政の現場です。
税務調査で制度の隙間が見えることがある
例えば、ある税務調査で特殊な取引が見つかったとします。
最初は一社だけの特殊な事例に見えるかもしれません。
ところが別の地域でも同じような取引が見つかり、さらに調べると同じスキームが複数の納税者へ提供されていることが分かる場合があります。
そこで現行の税法を確認します。
既存の規定で対応できるのであれば、その法律に基づいて適切な課税関係を判断します。
問題になるのは、現行法では十分に対応できない場合です。
ここで制度上の隙間が明らかになります。
国税庁は自由に課税ルールを作れない
税務当局が租税回避的だと考えたからといって、自由に新しい税金を課せるわけではありません。
税金は法律に基づいて課されます。
税務行政は、あくまで法律に従って行われなければなりません。
そのため、現行法では対応できない取引について、国税庁が独自に新しい課税ルールを作ることはできません。
この点は非常に重要です。
租税回避への対策を強化することと、法律に基づいて課税することは両立させなければなりません。
そこで税制改正が必要になる
現行法で対応することが難しく、同様の取引が今後も広がる可能性がある場合には、法律そのものを見直すという選択肢が出てきます。
ここで財務省主税局との連携が重要になります。
国税庁が税務執行を通じて取引の実態を把握する。
どのようなスキームなのかを分析する。
現行制度のどこに問題があるのかを整理する。
その情報を税制を企画する側へつなぐ。
そして必要性が認められれば、税制改正が検討されることになります。
税務調査で得られた情報が、将来の法律を考える材料になるわけです。
税制改正後は再び国税庁が執行する
税制改正が行われれば、それで終わりではありません。
新しい制度を実際に執行するのは再び国税庁です。
新しい法律や制度について納税者へ周知する。
申告書やシステムを変更する。
相談に対応する。
必要に応じて税務調査で適用状況を確認する。
そして、その過程で新たな問題が見つかれば再び制度改正の材料になります。
税務執行と税制改正は、一方向ではなく循環する関係にあります。
租税回避対策企画官が橋渡し役になる
2027年度に新設が要求されている租税回避対策企画官は、この流れの中で重要な存在になると考えられます。
全国から租税回避スキームに関する情報を集める。
その仕組みや広がりを分析する。
現行税制で対応できるのかを検討する。
必要に応じて財務省主税局と連携する。
こうした一連の対応の司令塔となることが想定されています。
単なる税務調査の強化ではなく、税務執行から制度改正までをつなぐ機能が強化される点に注目する必要があります。
納税者にとっても重要な変化
この仕組みは企業や個人にとっても無関係ではありません。
現在は法律上可能に見える取引でも、同じ方法が広く利用され、制度上の問題が明らかになれば、将来の税制改正によって取扱いが変わる可能性があります。
特に税負担の軽減だけを目的として複雑な取引を組み合わせる場合には、現在の税務上の取扱いだけでなく、その制度がなぜ存在しているのかという趣旨を見ることも重要になります。
税制は固定されたものではありません。
経済活動や取引方法が変われば、それに合わせて税制も変化していきます。
結論
国税庁と財務省主税局は、税金に関わる組織であっても役割が異なります。
国税庁は税法を実際に執行し、税務調査や申告、徴収などを通じて現実の取引と向き合います。
財務省主税局は税制の企画や立案を担います。
そして租税回避対策では、この二つの機能をつなぐことが重要になります。
税務調査などから新しい租税回避スキームを把握する。
国税庁が情報を集約して分析する。
現行法で対応できるものは既存の法律に基づいて対応する。
現行法では十分に対応できない問題については、必要に応じて税制改正を検討する。
改正された制度を再び国税庁が執行する。
この循環によって、税制は新しい取引や経済環境の変化に対応していきます。
租税回避対策企画官の新設要求は、税務調査の現場で得られる情報を税制全体の改善へつなげる動きを強化するものとして注目されます。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を