研究開発税制とイノベーションボックス税制を別々に理解するだけでは、企業が利用できる税制の全体像は見えてきません。
重要なのは、研究開発を始めるところから、その成果を知的財産にし、最終的に収益化するところまでを一つの流れとして考えることです。
資料では、この流れを大きく4つの段階に分けて整理しています。
基礎研究や応用研究。
実用化や製品開発。
特許などの知的財産化。
ライセンスなどによる収益化です。
それぞれの段階で利用できる税制や必要となる管理が異なります。
研究開発税制とイノベーションボックス税制を最大限に活用するには、この4段階を最初からつなげて管理することが重要になります。
第1段階は基礎研究と応用研究
最初の段階が、基礎研究や応用研究です。
企業がすべての研究を自社だけで行うとは限りません。
資料では、この段階で大学やベンチャー企業などとの共同研究を行うことが示されています。
研究開発税制には、通常の一般型だけではなく、外部との共同研究や委託研究を対象とするオープンイノベーション型があります。
資料では、オープンイノベーション型の控除率として20%、25%、30%が示されています。
研究の初期段階から外部の研究機関などと連携する場合には、その研究費についてどの研究開発税制が利用できるのかを確認することが重要です。
大学などとの共同研究を最初から意識する
大学などとの共同研究では、研究が終わってから税制を確認するのではなく、研究を始める段階から税制との関係を考えることが重要です。
誰と共同研究するのか。
どのような研究を行うのか。
どの費用を誰が負担するのか。
研究成果をどのように取り扱うのか。
こうした事項を研究開始時から整理しておく必要があります。
特に研究開発税制では、通常の試験研究費と特別試験研究費では適用される仕組みが異なります。
研究相手によっても税制上の取り扱いが変わる可能性があるため、共同研究先を決める段階から確認する意味があります。
第2段階は実用化と製品開発
基礎研究や応用研究によって得られた知識を、実際の商品や技術につなげていくのが第2段階です。
資料では、この段階について研究開発税制の一般型を利用しながら、人件費や外注費などを収集することが示されています。
ここで重要になるのが、これまでの記事でも取り上げてきた試験研究費の管理です。
研究者の人件費。
研究に使用する材料費。
外部企業への研究委託費。
その他の研究に必要な費用。
こうした費用を通常の事業活動にかかる費用と区別して管理する必要があります。
人件費と外注費を研究ごとに管理する
研究開発税制では、決算書の研究開発費という勘定科目だけを見れば計算できるわけではありません。
税務上の試験研究費に該当するかを確認する必要があります。
特に人件費については、専門的知識を持ち、試験研究に専ら従事する者に関する要件があります。
外注費についても、単なる業務委託なのか、試験研究を委託しているのかを確認する必要があります。
そのため、実用化や製品開発の段階では、研究プロジェクトごとに人件費や外注費を把握できる仕組みが重要になります。
この管理は研究開発税制のためだけではありません。
後に研究成果を知的財産化したとき、その知的財産がどの研究から生まれたのかを把握するためにも役立ちます。
第3段階は特許などの知的財産化
研究開発が成功したら、次に考えるのが研究成果の知的財産化です。
資料では、第3段階として特許登録を挙げています。
また、イノベーションボックス税制では、一定のAI関連プログラムの著作権も対象となります。
この段階から、研究開発税制だけを考えていたときとは管理の目的が変わってきます。
どの研究開発から、どの特許が生まれたのか。
どの研究開発から、どのAI関連プログラムが生まれたのか。
研究開発と知的財産を結び付けて管理する必要があります。
知的財産が生まれた段階から開発費を追跡する
資料では、特許登録などの段階から、イノベーションボックス税制を見据えて開発費を追跡することが示されています。
これは非常に重要なポイントです。
特許からライセンス収入が生まれた後になって、
この特許はどの研究から生まれたのか。
どの費用がこの特許に関係していたのか。
と過去にさかのぼって調べるのは容易ではありません。
研究プロジェクトと知的財産を最初から結び付けておけば、その後の税制計算に必要な情報を把握しやすくなります。
研究成果を知的財産にした段階で、税務上の管理も次の段階へ移行する必要があります。
第4段階はライセンスによる収益化
最後が知的財産から所得を得る段階です。
企業が取得した特許などを他社へライセンスし、その対価を受け取ることがあります。
ここでイノベーションボックス税制が関係します。
資料では、一定の特許権やAI関連プログラムの著作権から生じる対象所得について、30%の所得控除を行う仕組みが示されています。
研究開発税制が研究への投資を支援するのに対し、イノベーションボックス税制は研究成果を収益化する段階を支援します。
研究開始から見れば、ようやくここで研究成果が所得へ変わることになります。
4段階を分断すると必要な情報が残らない
企業では、この4段階を別々の部門が担当していることがあります。
研究開発部門が研究します。
知的財産部門が特許を管理します。
法務部門がライセンス契約を担当します。
経理部門が費用や収入を記録します。
税務部門が研究開発税制やイノベーションボックス税制を計算します。
それぞれが独立して管理していると、研究から所得までのつながりが分からなくなる可能性があります。
どの研究がどの知的財産を生み、その知的財産がどの所得を生み出したのかを追跡できることが重要です。
研究開発税制とイノベーションボックス税制をつなげる
4段階を税制から見ると、制度の役割が明確になります。
基礎研究や応用研究では、大学などとの共同研究を含めたオープンイノベーション型などを検討します。
実用化や製品開発では、一般型などの研究開発税制を利用するため、試験研究費を管理します。
研究成果が生まれたら、特許や一定のAI関連プログラムの著作権などの知的財産との関係を管理します。
そして、その知的財産をライセンスして所得を得る段階では、イノベーションボックス税制を検討します。
研究開発への投資から知的財産による収益まで、税制を連続して考えることができます。
税務部門が研究の後から登場するのでは遅い
従来の税務実務では、事業年度が終わった後に研究開発費を集計し、税額控除を計算するという対応も考えられました。
しかし、研究開発税制とイノベーションボックス税制を一体で考えると、税務部門が最後に登場するだけでは十分ではありません。
共同研究を始める段階。
研究費を支出する段階。
特許を取得する段階。
ライセンス契約を結ぶ段階。
それぞれの時点で必要な情報を残しておく必要があります。
税制を研究開発終了後の計算問題として扱うのではなく、研究開発のライフサイクル全体の管理に組み込むことが重要になります。
結論
研究開発税制とイノベーションボックス税制を活用するには、研究開発から知的財産の収益化までを4段階で管理することが重要です。
第1段階では基礎研究や応用研究を行い、大学やベンチャー企業などとの共同研究ではオープンイノベーション型などを検討します。
第2段階では実用化や製品開発を進め、研究開発税制を利用するために人件費や外注費などの試験研究費を管理します。
第3段階では研究成果を特許や一定のAI関連プログラムの著作権などの知的財産につなげ、研究開発と知的財産の関係を追跡します。
第4段階では、その知的財産をライセンスするなどして所得を生み出し、イノベーションボックス税制による30%の所得控除を検討します。
研究開発税制は研究するとき、イノベーションボックス税制は研究成果から稼ぐときの制度です。
2つを別々に考えるのではなく、研究開発から知的財産、そして収益化までを一つのライフサイクルとして管理することが、これからの研究開発税制を考えるうえで重要になります。
参考
第33回青山学院大学同窓祭公開講座 2026年9月23日 R&D税制とイノベーションボックス税制 会計プロフェッショナルによるイノベーション・コンサルテーション