保育園に空いている保育室がある。
それなら、子どもをもっと受け入れればよい。
そう考えたくなりますが、保育では建物の広さだけで受け入れ人数を決めることはできません。
子どもの人数や年齢などに応じて、必要な保育士を配置しなければならないからです。
この最低限必要となる職員配置の基準が保育士の配置基準です。
特に年齢の低い子どもほど手厚い保育が必要になります。
そのため保育士不足が深刻になると、保育園という施設があっても子どもを十分に受け入れられないという問題が起こります。
保育士の配置基準とは何か
保育士の配置基準とは、保育施設が子どもを預かる際に、子どもの人数や年齢などに応じて必要となる保育士数を定めた基準です。
保育園が自由に、
今日は職員が少ないから1人で多くの子どもを見てもらおう
と決められるわけではありません。
保育では子どもの安全を確保しながら、食事や睡眠、着替え、遊びなどを支援する必要があります。
そのため一定の職員数を確保することが、保育サービスを提供する前提になります。
配置基準は保育の安全と質を支える基本的なルールなのです。
子どもの年齢によって必要な保育士数が違う
保育士の配置を考えるうえで重要なのが子どもの年齢です。
0歳の子どもと5歳の子どもでは、必要となる支援の程度が違います。
0歳児の場合、自分で食事や着替えをすることは難しく、睡眠中を含めて細かな安全確認も必要になります。
歩き始めたばかりの子どもについても、事故を防ぐために注意深く見守らなければなりません。
年齢が上がるにつれて自分でできることは増えていきます。
そのため低年齢児ほど、少人数の子どもに対して保育士を配置する必要があります。
同じ10人でも必要な人員は同じではない
例えば保育園に10人の子どもが増えたとします。
単純に10人増えたという数字だけでは、何人の保育士を追加すべきか判断できません。
増えたのが低年齢児なのか、年齢の高い子どもなのかによって必要な職員数が変わるからです。
低年齢児が増えれば、より多くの保育士が必要になります。
つまり保育需要を考える場合には、
子どもが何人いるか
だけではなく、
何歳の子どもが何人いるか
を見る必要があります。
この年齢構成が保育施設の人員配置や運営費に大きく影響します。
配置基準は最低限の基準である
配置基準で注意したいのは、基本的に必要な最低限の職員配置を示すものだという点です。
基準を満たしていれば、それ以上の職員を配置してはいけないという意味ではありません。
施設によっては、より手厚い保育を行うために基準を上回る職員を配置することがあります。
職員数に余裕があれば、保育士1人あたりの負担を軽減できます。
急な欠勤にも対応しやすくなります。
研修や休暇の時間を確保しやすくなる可能性もあります。
配置基準を満たすことと、余裕を持った職員体制をつくることは別の問題なのです。
保育士が不足すると受け入れ人数が制約される
配置基準があるため、保育士不足はそのまま子どもの受け入れ人数に影響します。
例えば施設には100人を受け入れられるだけのスペースがあるとします。
しかし、必要となる保育士を80人分しか確保できないとすれば、施設の物理的な定員を十分に活用できない可能性があります。
建物には余裕がある。
保育を希望する家庭もいる。
それでも人材が足りない。
こうした状態が起こり得ます。
保育サービスの供給能力は建物だけでは決まりません。
そこで働く人材によっても決まります。
新しい保育園をつくるだけでは解決しない
待機児童が増えれば、新しい保育園を整備するという対策が考えられます。
施設そのものが不足している地域では重要な政策です。
しかし、人材不足が原因で受け入れ人数が足りない地域では、施設だけ増やしても問題は解決しません。
新しい保育園にも保育士が必要だからです。
既存の保育園から新しい保育園へ保育士が転職すれば、地域全体の保育士数は変わりません。
新しい施設の人員は確保できても、既存施設が人手不足になる可能性があります。
保育の受け皿を増やす政策では、施設整備と人材確保を一体で考える必要があります。
保育士は短期間では増やせない
保育士不足への対応が難しい理由の一つは、人材をすぐには増やせないことです。
建物なら予算を確保し、工事を進めることで増設できます。
しかし、保育士には資格が必要です。
人材を育成するには時間がかかります。
さらに資格を持っているだけでは、実際の保育現場で働く人数は増えません。
保育士として就職してもらい、長く働いてもらう必要があります。
そのため保育士不足では、
資格取得者を増やす
保育現場への就職を促す
離職を防ぐ
復職を促す
という複数の政策が必要になります。
配置基準を下げればよいとは限らない
人手不足なら、1人の保育士が担当できる子どもの人数を増やせばよいと思うかもしれません。
そうすれば同じ保育士数でも多くの子どもを受け入れられます。
しかし、配置基準は単なる人数調整のために設けられているわけではありません。
子どもの安全や保育の質を確保する目的があります。
保育士1人が担当する子どもの数が多くなれば、一人ひとりに目を配ることが難しくなる可能性があります。
さらに保育士の業務負担が増えれば、離職につながることも考えられます。
人手不足を配置基準の緩和だけで解決しようとすると、別の問題を生む可能性があります。
配置を手厚くすると人材確保の問題が大きくなる
反対に、保育の質を高めるため配置基準を手厚くすれば、必要となる保育士数は増えます。
これは望ましい面があります。
保育士1人あたりが担当する子どもの数を減らせば、より丁寧な保育を行いやすくなります。
職員の負担軽減にもつながります。
一方、必要となる保育士の総数は増えます。
すでに保育士不足の地域では、新しい基準を満たすための人材確保が課題になります。
配置改善を進める場合には、そのための人件費と人材を同時に確保する必要があります。
配置基準と公定価格はつながっている
保育士を多く配置すれば、それだけ人件費が必要になります。
そのため配置基準と公定価格は切り離して考えることができません。
国が必要な保育士数を増やしても、それに対応する財源が公定価格に反映されなければ施設の負担が増えます。
保育士を採用するには給与を支払う必要があるからです。
つまり、
何人配置するのか
その人件費を誰が負担するのか
をセットで考える必要があります。
保育の質を改善する政策は、同時に財源の問題でもあるのです。
地域間の給与差も配置基準に影響する
配置基準そのものが同じでも、保育士を確保できるかどうかは地域によって違います。
特に大都市圏では、隣接自治体との給与差が人材確保に影響します。
東京23区と埼玉県南部のように、簡単に県境を越えて通勤できる地域では、待遇の良い地域へ保育士が流れる可能性があります。
すると給与水準で不利な自治体では、配置基準を満たすための保育士確保が難しくなります。
配置基準は全国共通でも、それを満たす難しさは地域によって違うわけです。
だからこそ公定価格の地域加算が重要になります。
子育て世帯の郊外移動が問題を複雑にする
住宅価格や家賃が上昇すると、子育て世帯が大都市中心部から周辺地域へ移ることがあります。
すると周辺自治体では保育を必要とする子どもが増えます。
子どもが増えれば、その人数と年齢に応じて必要な保育士数も増えます。
しかし、周辺地域の保育士が給与の高い中心都市へ流れていれば、人材確保はさらに難しくなります。
保育需要は増えている。
配置基準によって必要な保育士数も増える。
しかし働く保育士を確保できない。
この状態になると、施設を増やすだけでは対応できません。
保育政策では子どもの数と職員数を同時に見る
保育需要を考えるとき、子どもの数だけを見るのでは十分ではありません。
保育を提供する側の人材も見る必要があります。
子どもが何人増えるのか。
何歳の子どもが増えるのか。
必要な保育士は何人なのか。
その地域で採用できるのか。
給与の原資を確保できるのか。
これらを一体として考えて初めて、実際に必要な保育サービスを整備できます。
保育士の配置基準は、子育て政策と労働政策、財政政策をつなぐ仕組みでもあるのです。
結論
保育士の配置基準とは、子どもの人数や年齢などに応じて、保育施設に必要となる保育士数を定める基準です。
特に年齢の低い子どもほど手厚い対応が必要になるため、多くの保育士を配置する必要があります。
このため保育園に空いている保育室があっても、必要な保育士を確保できなければ子どもの受け入れ人数を増やせない可能性があります。
待機児童問題を解決するために保育園を増やしても、そこで働く人材がいなければ十分な効果は得られません。
一方、人手不足を理由に配置基準を単純に緩和すれば、子どもの安全や保育の質、保育士の負担に影響する可能性があります。
必要なのは、配置基準と人材確保、処遇改善、公定価格を一体として考えることです。
保育サービスの本当の供給力は、保育園という建物の数だけでは決まりません。
必要な人数の保育士が配置され、実際に子どもを受け入れられて初めて、保育の受け皿になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 こども家庭庁、保育士給与の地域差是正