こども家庭庁の2027年度予算と税制を巡る動きから、これからのこども政策の方向性が見えてきました。
2027年度の概算要求額は7兆7436億円となり、2026年度の7兆4956億円から2480億円増加します。一方で、単純に予算を積み増すだけではありません。
保育士の給与につながる公定価格の地域差を見直す一方、利用実績の少ない贈与税の優遇措置は廃止を要求します。さらに、所得に連動した新しい給付制度については、地方自治体に生じる負担を国が地方交付税で補う仕組みも検討されています。
つまり、こども政策は予算の総額だけを見るのではなく、限られた財源をどこからどこへ動かすのかを見ることが重要になってきています。
保育士の給与はなぜ地域によって違うのか
保育所の収入は、一般企業のように自由にサービス価格を決める仕組みとは大きく異なります。
政府が子ども1人あたりの保育費について公定価格を定めています。
公定価格は、保護者が支払う保育料と国や自治体が負担する公費を合わせたもので、保育施設を運営するための重要な収入源です。
保育士の給与も基本的には、この公定価格を原資として支払われます。
そのため、公定価格に地域差があれば、保育施設が支払える給与にも地域差が生じやすくなります。
特に問題になるのが、県境を越えて一つの生活圏が形成されている大都市周辺です。
東京23区で働く場合と、川を渡った埼玉県や千葉県で働く場合では、実際の生活圏はかなり重なっています。
ところが、公定価格の人件費に関する地域加算には大きな差があります。
新しい区分をそのまま適用すると、東京23区は20パーセントの上乗せとなる一方、埼玉県の川口市や戸田市などは4パーセント、千葉県の市川市や浦安市などは8パーセントとなります。
距離は近いのに、制度上の人件費水準には大きな差が生じるわけです。
給与格差は保育士の移動を引き起こす
働く人の立場から考えれば、通勤可能な範囲で給与が高い職場があれば、そちらを選択するのは自然です。
2025年の賃金構造基本統計調査では、保育士の平均月収は東京都31万円、埼玉県27万2000円、千葉県30万4000円でした。
もちろん、給与差のすべてが公定価格によって生じているわけではありません。
しかし、保育施設の収入が公定価格に大きく依存している以上、制度上の地域加算は給与を決める重要な要素になります。
ここで問題になるのが、行政区域と労働市場が一致していないことです。
東京と埼玉という行政上の境界があっても、保育士にとっては同じ通勤圏かもしれません。
東京都内の保育園へ通勤できる埼玉県南部の保育士に対して、県境は労働市場の壁にはなりません。
その結果、給与水準の高い地域へ人材が流れる可能性があります。
自治体の財政力によって保育サービスに差が出る問題
一部の自治体は独自の財源を使って保育士の待遇を改善しています。
しかし、この方法には限界があります。
財政力の強い自治体なら独自の上乗せができますが、財政力の弱い自治体では同じことができないからです。
すると、
公定価格が低い
自治体独自の上乗せも難しい
保育士が近隣の高待遇地域へ移る
人手不足になる
保育サービスを十分に提供できなくなる
という流れが生じる可能性があります。
さらに住宅価格や家賃の上昇によって、大都市中心部から周辺地域へ子育て世帯が移動すれば、郊外では保育需要が増えます。
子どもは増えているのに保育士は中心都市へ流れるという逆方向の動きが起これば、保育サービスの需給が一段と崩れます。
待機児童問題にもつながりかねません。
都道府県ではなく生活圏で考える方向へ
そこで、こども家庭庁が検討しているのが、生活圏や経済圏を考慮した新しい補正ルールです。
大都市への通勤率が高い周辺自治体について、公定価格の加算率を引き上げることなどが検討されています。
重要なのは、行政区域ではなく実際の人の移動を基準に制度を考えるという発想です。
例えば東京23区と埼玉県南部では、都県は違っても通勤圏としては一体化しています。
保育士の労働市場も同様です。
従来の制度が都道府県や市区町村という行政区域を前提としていたのに対して、今後は実際の生活圏や労働市場に制度を近づけようとしていると考えられます。
2027年4月からの適用が目指されています。
一方で利用されない税制優遇は廃止する
こども政策のもう一つの変化が、既存制度の整理です。
こども家庭庁は、結婚や子育て資金を子や孫へ一括贈与した場合の贈与税非課税制度について廃止を求めています。
この制度では、親や祖父母が結婚や子育てに使う資金を子や孫へ一括で渡す場合、1人につき1000万円まで非課税とする仕組みがあります。
一見すると子育て支援として有効に思えます。
しかし、問題は利用実績です。
2025年度の利用件数は219件にとどまりました。
資金用途が限定され、手続きも複雑であるため、制度を維持しても幅広い子育て世帯への支援にはつながりにくい状況になっています。
そこで政府が進める日本版DOGEによる歳出や制度の見直しも踏まえ、廃止を要求することになりました。
こども政策でも選択と集中が始まる
ここで興味深いのは、こども家庭庁の予算全体は増えていることです。
2027年度概算要求は7兆7436億円です。
主なものだけでも、保育所や放課後児童クラブなどの運営費が2兆7000億円、児童手当が2兆円、育児休業への給付金が1兆1000億円あります。
その一方で、利用の少ない税制優遇などは整理します。
つまり、
こども政策だから既存制度をすべて残す
という考え方ではありません。
効果の低い制度を見直し、その財源や行政資源を必要性の高い政策へ振り向けるという考え方です。
政策を見るときには予算が増えたか減ったかだけではなく、予算や税制の中身がどう入れ替わっているのかを見る必要があります。
新しい給付制度では国と地方の負担も問題になる
さらに2027年度からは、所得に連動した新しい給付制度も始まる予定です。
政府は2027年度から2年間、食料品の消費税減税1パーセント相当となる年間6000億円程度を原資として制度を先行実施し、2029年度の本格導入を予定しています。
ここで問題になるのが、誰がお金を負担するのかです。
給付事務を実際に担うのは自治体になる可能性が高く、制度をつくる国だけでなく地方にも財政負担が発生します。
国は国と地方の負担割合について、1対1や2対1といった参考数値を地方側に示しています。
ただし地方が負担する部分についても、地方交付税などを通じて国が財源を補う案が示されています。
形式上は地方負担であっても、その財源を国が手当てするという仕組みです。
地方交付税が新制度を支える
地方交付税は、自治体間の財政力の差を調整し、全国どこでも一定水準の行政サービスを提供できるようにする仕組みです。
新しい給付制度によって自治体の支出が増えるのであれば、その負担を地方財政計画に反映し、必要な財源を確保します。
さらに地方交付税を計算するときにも各自治体の負担を反映させる方向です。
ただし、地方交付税を受け取っていない不交付団体をどう扱うかという問題もあります。
地方負担を地方交付税で補うだけでは、不交付団体には財源が届かないからです。
全国一律の給付制度をつくる場合、制度内容だけではなく、国と地方の財源調整まで設計する必要があります。
2027年度はこども政策の再設計が進む
今回の一連の動きを見ると、2027年度のこども政策には共通する考え方があります。
保育士については、行政区域によって生じている給与格差を実際の生活圏に合わせて修正します。
税制については、利用実績の少ない贈与税優遇を整理します。
新しい給付制度については、地方自治体だけに財政負担が偏らないよう国が財源を手当てします。
一見すると別々の政策ですが、共通しているのは制度と現実のずれを修正しようとしていることです。
行政区域と実際の労働市場のずれ。
税制優遇の目的と実際の利用状況のずれ。
国が制度を決めることと地方が実務や費用を負担することのずれ。
こども政策は支援額を増やせば解決する問題ばかりではありません。
制度そのものの設計を変える必要があります。
結論
2027年度のこども政策を見るうえで重要なのは、予算総額が過去最高になることだけではありません。
保育士の公定価格では、大都市と周辺自治体の給与格差を縮め、人材流出を防ぐ仕組みが検討されています。
一方、利用件数が少ない結婚や子育て資金の贈与税優遇については廃止を要求します。
さらに所得連動型の新しい給付制度では、地方自治体に生じる財政負担を地方交付税などによって国が補う方向です。
つまり、必要なところにはお金を増やし、効果の乏しい制度はやめ、国と地方の負担関係も組み直すという政策転換です。
少子化対策では予算規模の大きさが注目されがちですが、本当に見るべきなのは、限られた財源がどの制度からどの制度へ移されているのかです。
2027年度は、こども政策が量の拡大だけではなく、制度の再設計へ進む年になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 こども家庭庁、保育士給与の地域差是正
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 贈与税優遇、廃止を要求 日本版DOGEで見直し
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 所得連動の新給付 地方負担、国が穴埋め