半導体材料の置き換えとは何か タングステンからモリブデンへの変更が注目される理由編

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モリブデンはこれまで、鉄鋼の性能を高める合金元素として広く使われてきました。

自動車、船舶、風力発電、パイプラインなどが代表的な需要先です。

ところが、新しい需要先として注目され始めているのが半導体です。

参考記事では、韓国のSKハイニックスが新しいNAND型フラッシュメモリーで、従来使われてきたタングステンを電気抵抗の低いモリブデンへ置き換えることを検討していると伝えています。

現在のモリブデン需要全体から見れば、半導体向けはまだ非常に小さな存在です。

それでも市場が注目するのは、AIの普及によってデータ保存需要が増え、NAND型フラッシュメモリーの市場が拡大する可能性があるからです。

半導体の材料変更は、一つの企業の技術選択にとどまらず、将来の金属需要そのものを変える可能性があります。

半導体にはなぜ金属が必要なのか

半導体というと、シリコンを思い浮かべる人が多いでしょう。

確かにシリコンは代表的な半導体材料です。

しかし実際の半導体チップはシリコンだけでできているわけではありません。

チップ内部には非常に微細な回路がつくられています。

その中では電気信号を流したり、異なる部分を接続したりする必要があります。

そこで金属材料が使われます。

半導体の高性能化が進むほど、単に電気を流せればよいわけではなく、

電気抵抗

耐熱性

加工のしやすさ

微細化への対応

他の材料との相性

などさまざまな性能が求められます。

半導体の進化は、金属材料の進化とも深く関係しているのです。

NAND型フラッシュメモリーとは何か

NAND型フラッシュメモリーは、電源を切ってもデータを保持できる半導体メモリーです。

スマートフォンやパソコンのストレージなど幅広い用途で使われています。

代表的な製品がSSDです。

SSDではNAND型フラッシュメモリーに大量のデータを保存します。

写真

動画

文書

アプリケーション

企業データ

などを長期間保存するために使われます。

AIの普及によって大量のデータが生成されれば、それを保存するストレージへの需要も増える可能性があります。

そのためAI市場の拡大は、演算を担う半導体だけでなく、データを保存するメモリー市場にも影響します。

NANDは平面から立体へ変わってきた

半導体では長年、回路を細かくすることで一つのチップに多くの機能を詰め込んできました。

NAND型フラッシュメモリーでは、さらに記憶素子を縦方向へ積み重ねる技術が発展しています。

いわゆる3次元化です。

建物に例えると、平屋を横へ広げ続けるのではなく、高層ビルのように上へ積み重ねていくイメージです。

積層数を増やせば、限られた面積により多くのデータを保存できます。

一方、構造が複雑になるほど製造技術への要求も高まります。

内部の配線や接続部分に使われる材料についても、より優れた性能が求められるようになります。

そこで材料の見直しが重要になります。

タングステンとは何か

タングステンもレアメタルの一つです。

非常に高い融点を持つなどの特徴があり、さまざまな産業で利用されています。

半導体でも金属材料として使われてきました。

しかし半導体がさらに微細化、高性能化すると、従来の材料がそのまま最適とは限らなくなります。

回路が小さくなれば、わずかな電気抵抗の違いが性能や消費電力へ影響する可能性があります。

そこで、

もっと抵抗を下げられないか

より微細な構造へ対応できないか

製造工程を改善できないか

といった観点から別の材料が検討されます。

その候補の一つとしてモリブデンが注目されています。

電気抵抗が低いとはどういうことか

電線に電気を流すとき、材料には電気の流れにくさがあります。

これが電気抵抗です。

抵抗が大きければ電気が流れにくくなり、エネルギーの一部が熱になります。

半導体内部では非常に小さな回路の中を大量の電気信号が動きます。

そのため配線部分などの抵抗を抑えることができれば、

信号を速く伝える

消費電力を抑える

発熱を抑える

といった効果につながる可能性があります。

半導体が微細化するほど、材料の電気的な特性が重要になります。

わずかな性能差が製品全体の競争力につながる世界なのです。

なぜ材料を置き換えるのか

半導体メーカーが材料を変更する目的は、単に材料費を安くすることだけではありません。

むしろ性能向上が大きな目的になる場合があります。

例えば従来材料では、

電気抵抗が高くなる

微細化が難しくなる

製造工程が複雑になる

性能向上の限界が近づく

といった問題が出てくることがあります。

そこで別の材料を使うことで技術的な限界を乗り越えようとします。

半導体では、

回路構造を変える

製造方法を変える

材料を変える

という複数の方法を組み合わせながら性能を高めています。

材料置き換えは、その技術革新の一つです。

置き換えは簡単ではない

新しい材料の性能が優れているからといって、すぐに従来材料を置き換えられるわけではありません。

半導体製造では非常に複雑な工程が組み合わされています。

一つの材料を変更すると、

成膜方法

加工方法

製造装置

他の材料との組み合わせ

歩留まり

製品寿命

などへ影響する可能性があります。

新材料を採用するには、性能だけでなく量産時の安定性も確認しなければなりません。

研究室で優れた結果が出ることと、何百万個もの半導体を安定して生産できることは別の問題です。

そのため材料置き換えは段階的に進むのが一般的です。

歩留まりも重要になる

半導体製造では歩留まりが非常に重要です。

歩留まりとは、製造した製品のうち良品として出荷できる割合です。

例えば100個つくって90個が良品なら、単純化すると歩留まりは90パーセントです。

新しい材料によって半導体の性能が向上しても、不良品が大幅に増えれば製造コストが上昇します。

そのため半導体メーカーは、

性能

製造コスト

量産安定性

歩留まり

信頼性

などを総合的に判断して材料を選びます。

材料変更には慎重な検証が必要なのです。

AI需要とNANDがつながる理由

AIというと、高性能な演算用半導体が注目されます。

しかしAIには大量のデータが必要です。

AIモデルを開発したり利用したりする過程では、

文章

画像

動画

音声

企業データ

学習データ

など膨大な情報を扱います。

これらのデータを長期間保存するためのストレージも必要になります。

そのためAIの普及によってデータセンターが拡大すれば、NAND型フラッシュメモリーを含む記憶装置への需要も増える可能性があります。

AIブームは演算半導体だけではなく、メモリーや電力設備、冷却設備、金属材料など幅広い産業へ波及するのです。

半導体向け需要が小さくても注目される理由

参考記事では、現在のモリブデン需要全体に占める半導体向けはごくわずかだとされています。

それでも市場が注目するのは、現在の需要量ではなく将来の伸び率を見ているからです。

例えば現在100あるモリブデン需要のうち、半導体向けが1しかないとします。

これが2になっても全体から見れば小さな割合です。

しかし半導体メーカーが相次いでモリブデンを採用し、将来1が5や10へ増える可能性が意識されれば、市場参加者は先回りして動くことがあります。

資源価格は現在の需給だけで決まりません。

将来の需給予想も価格へ織り込まれます。

材料変更は資源市場の勢力図を変える

半導体産業は非常に大きな市場です。

そこで使用する材料が変われば、資源市場にも影響する可能性があります。

仮にある金属から別の金属への置き換えが本格化すれば、

従来材料の需要が減る

新材料の需要が増える

新材料への設備投資が増える

価格が変化する

資源開発が活発になる

といった変化が起こる可能性があります。

これは半導体だけの話ではありません。

自動車でも電池でも、技術革新によって使われる材料が変われば資源需要の構造も変化します。

資源市場を見るときには、最終製品の販売台数だけでなく、その製品の中でどの材料が採用されているのかを見ることも重要です。

モリブデンには供給面の制約がある

半導体向けのモリブデン需要が本格的に増えた場合、注目されるのが供給です。

モリブデンは銅鉱山の副産物として生産されることが多いため、需要が増えたからといって簡単に増産できるとは限りません。

一方、既存の需要先には、

特殊鋼

自動車

船舶

風力発電

パイプライン

などがあります。

そこへ半導体という新しい需要先が加われば、限られた供給を複数の産業が取り合う可能性があります。

特に既存需要が強い時期に新しい用途が急成長すると、需給への影響が大きくなります。

技術革新が資源価格を動かす時代

かつて資源需要を考えるときには、人口増加や経済成長、建設需要などが重要な要因でした。

現在はそれに加えて技術革新が重要になっています。

電気自動車が普及すれば電池材料が必要になります。

再生可能エネルギーが増えれば銅や高性能鋼材が必要になります。

AIが普及すれば半導体やデータセンターが増えます。

そして半導体の内部で使う材料が変われば、これまで小さかった金属市場に新しい需要が生まれる可能性があります。

一つの技術変更が世界の資源需給へ波及する時代になっているのです。

結論

半導体材料の置き換えとは、半導体の高性能化や微細化などに対応するため、従来使っていた材料を別の材料へ変更することです。

参考記事では、SKハイニックスが新しいNAND型フラッシュメモリーで、タングステンを電気抵抗の低いモリブデンへ置き換えることを検討しているとされています。

材料変更が実現すれば、半導体の性能や製造技術だけでなく、金属需要にも影響する可能性があります。

現在のモリブデン需要全体から見れば、半導体向けはまだ小さな市場です。

しかしAIの普及によってデータ保存需要が拡大し、NAND型フラッシュメモリーの生産が増え、さらにモリブデン採用が広がれば、新しい需要源になる可能性があります。

一方、モリブデンは銅鉱山の副産物として生産されることが多く、需要増加に合わせて供給を簡単に増やせるとは限りません。

半導体の中で使われる金属は非常に少量に見えます。

しかし世界で大量の半導体が生産されれば、小さな材料変更が大きな資源需要へ変わる可能性があります。

半導体技術の進化を見ることは、次に需要が増えるレアメタルを考えることにもつながるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 モリブデンが高騰 3年半ぶり水準、銅鉱石不足と連動

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