再生可能エネルギーはなぜ大量の金属を必要とするのか 脱炭素が新たな資源需要を生み出す理由編

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太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、石油や石炭などの化石燃料への依存を減らすために導入が進められています。

そのため、再生可能エネルギーが普及すれば資源をあまり使わない社会になるように感じるかもしれません。

しかし実際には、エネルギー転換によって必要となる資源の種類が変わります。

風力発電設備には大量の鋼材が必要です。

太陽光発電にはさまざまな金属や素材が使われます。

発電した電気を需要地へ送るためには、送電線や変電設備も増やさなければなりません。

さらに電力供給を安定させるために蓄電池を増やせば、電池材料も必要になります。

脱炭素は資源を使わなくなることではなく、化石燃料中心の資源需要から金属中心の資源需要へ構造を変える側面があるのです。

再生可能エネルギー設備も巨大な工業製品

太陽光や風そのものには燃料費がかかりません。

しかし太陽光や風を電気に変えるためには設備が必要です。

例えば風力発電では、

風車のタワー

ブレード

発電機

軸や歯車

基礎

電気設備

送電ケーブル

などが必要になります。

これらを製造するには鉄鋼、銅、アルミニウムなど多くの材料を使います。

つまり再生可能エネルギーは、自然界のエネルギーを利用する仕組みであると同時に、大量の工業製品を建設する仕組みでもあります。

発電設備が増えるほど、その設備をつくるための素材需要も増えます。

風力発電では大量の鋼材が必要になる

風力発電設備を見ると、大きなタワーの上に巨大なブレードが取り付けられています。

大型設備になるほど、構造物を支えるために高い強度が必要です。

特に洋上風力発電では海上という厳しい環境で長期間使用します。

強風

塩分

振動

繰り返し荷重

などに耐えなければなりません。

そのため大量の鉄鋼材料だけでなく、用途に応じて高い性能を持つ鋼材が必要になります。

高性能鋼材には、モリブデンなどの合金元素が使われる場合があります。

再生可能エネルギーの普及がモリブデン需要ともつながる理由の一つです。

設備を大型化すると材料需要も変わる

風力発電では、より大きな風車をつくる動きがあります。

一基当たりの発電能力を大きくできれば、同じ基数でも多くの電力を生み出せます。

しかし風車が大きくなれば、

タワーが高くなる

ブレードが長くなる

設備重量が増える

構造物にかかる力が大きくなる

といった変化が起こります。

すると材料には、より高い強度や耐久性が求められます。

単純に使用する鉄鋼量が増えるだけではありません。

設備の大型化によって、高性能な材料への需要が増える可能性もあるのです。

送電網にも大量の金属が必要になる

再生可能エネルギーを増やすときに忘れてはいけないのが送電網です。

発電所をつくるだけでは電気を利用できません。

発電した電気を家庭や工場、都市まで運ぶ必要があります。

例えば洋上風力発電所なら、海上でつくった電気を陸上へ送るための設備が必要です。

さらに発電地域から大都市まで長距離送電する場合もあります。

そのため、

送電線

海底ケーブル

変電所

配電設備

鉄塔

などへの投資が必要になります。

ここで重要になる金属の一つが銅です。

銅は電気を通しやすいため、電線や電気設備に幅広く使われています。

脱炭素で銅需要が増える理由

化石燃料中心の社会では、石油や天然ガスなどを燃料として各地へ運びます。

一方、電化が進む社会では電気そのものを大量に運ぶ必要があります。

電気自動車が増える。

充電設備が増える。

再生可能エネルギーが増える。

送電網を増強する。

データセンターが増える。

こうした変化はいずれも電気設備の増加につながります。

電気設備が増えれば、銅などの導電材料も必要になります。

つまり脱炭素とは、石油への依存を減らす一方で、銅などへの依存を高める可能性のある変化でもあります。

蓄電池にも鉱物資源が必要になる

太陽光発電や風力発電には、発電量が天候によって変化するという特徴があります。

太陽光発電は夜には発電できません。

風力発電も風が弱ければ発電量が減ります。

そこで電力の需給を調整する手段の一つとして蓄電池が利用されます。

蓄電池を大量に導入する場合、その材料となる鉱物資源も必要になります。

電池の種類によって異なりますが、

リチウム

ニッケル

コバルト

などが使われる場合があります。

再生可能エネルギーの拡大は発電設備だけでなく、電力を蓄える設備を通じても鉱物需要を生み出します。

化石燃料と金属では使い方が違う

石油や石炭などの化石燃料と、銅や鉄鋼などの金属では使われ方に大きな違いがあります。

化石燃料は基本的に燃やしてエネルギーを取り出します。

一度燃焼すれば、その燃料をそのまま再利用することはできません。

一方、風力発電設備に使われる鉄鋼や銅は、設備の中に長期間残ります。

設備を廃棄するときには回収し、リサイクルできる可能性があります。

つまり再生可能エネルギーでは、設備を建設するときに大量の資源が必要になる一方、その一部を長期間使用し、将来回収できるという特徴があります。

資源需要の性質そのものが化石燃料とは異なるのです。

再生可能エネルギーと資源安全保障

化石燃料への依存を減らせば、エネルギー安全保障上の問題がすべて解決するとは限りません。

必要な資源が変わるからです。

例えば再生可能エネルギー設備に必要な金属を特定の国へ大きく依存していれば、その国の輸出規制などが新たなリスクになります。

そのため脱炭素政策と同時に、

鉱物資源の調達先を分散する

海外鉱山へ投資する

国内でリサイクルする

使用量を減らす技術を開発する

代替材料を研究する

といった政策も重要になります。

エネルギー安全保障と鉱物資源安全保障は、切り離して考えにくくなっています。

銅不足がモリブデンにも波及する

再生可能エネルギーの普及によって銅需要が増えると、銅鉱山の増産が求められます。

ところが新しい鉱山を開発するには長い時間がかかります。

既存鉱山では鉱石品位の低下などによって生産コストが上昇することもあります。

こうして銅鉱石の供給が逼迫すると、その影響がモリブデンにも及ぶ可能性があります。

モリブデンの多くが銅鉱山の副産物として生産されるためです。

一方で風力発電や船舶などでは、特殊鋼を通じてモリブデン需要が増える可能性があります。

つまり脱炭素は、

銅需要を増やす

銅鉱石の需給を引き締める

副産物であるモリブデンの供給制約につながる

高性能鋼材を通じてモリブデン需要も増やす

という複数の経路で資源市場へ影響する可能性があります。

資源価格が再生可能エネルギーのコストにも影響する

再生可能エネルギーのコストというと、発電効率や設備価格に注目しがちです。

しかし原材料価格も重要です。

鉄鋼

アルミニウム

レアメタル

などの価格が上昇すれば、発電設備や送電設備の建設費も上昇する可能性があります。

設備投資額が増えれば、再生可能エネルギー事業の採算にも影響します。

脱炭素によって金属需要が急増し、その結果として資源価格が上昇すれば、脱炭素投資そのもののコストが上がる可能性があるのです。

そのため安定した鉱物供給は、エネルギー転換を進めるための前提条件の一つになります。

資源を使わない社会ではなく使う資源が変わる

脱炭素社会を考えるときには、資源消費がなくなると考えないことが重要です。

石油や石炭などを大量に燃やす社会から、

鉄鋼

アルミニウム

リチウム

ニッケル

モリブデン

などを使って発電設備や電力網をつくる社会へ移行する側面があります。

そのためエネルギー政策と資源政策を別々に考えることが難しくなります。

どれだけ再生可能エネルギー設備を導入したいと思っても、必要な材料を確保できなければ建設できません。

脱炭素の速度を左右するのは技術や政策だけではなく、鉱物資源の供給能力でもあるのです。

結論

再生可能エネルギーは、太陽光や風という自然界のエネルギーを利用しますが、そのための設備をつくるには大量の金属が必要です。

風力発電には鉄鋼や高性能鋼材、送電網には銅などが使われます。

さらに電力を安定して利用するために蓄電池を増やせば、リチウムやニッケルなどの需要にもつながります。

つまり脱炭素とは、資源を使わなくなることではありません。

石油や石炭などを中心とした資源需要から、銅やレアメタルなどを含む金属中心の資源需要へ構造が変わる側面があります。

モリブデンもその中にあります。

風力発電や船舶などで高性能な鋼材への需要が増える一方、モリブデンの供給は銅鉱山の動向に左右されます。

再生可能エネルギーの拡大によって銅需要が増えれば、銅鉱石を巡る供給問題も重要になります。

脱炭素を進めるには発電技術だけを考えればよいわけではありません。

その設備を何でつくるのか、その材料をどこから安定して調達するのかまで考える必要があります。

エネルギー転換とは、同時に資源需要の転換でもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 モリブデンが高騰 3年半ぶり水準、銅鉱石不足と連動

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