LDIとは何か 企業年金が高い運用益より年金債務との連動を重視する仕組み編

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企業年金の運用では、どれだけ高い収益を上げたかが注目されがちです。

しかし確定給付企業年金にとって、本当に重要なのは運用成績で他の年金に勝つことではありません。

将来約束した年金を確実に支払える状態を維持することです。

そこで重要になるのがLDIという考え方です。

LDIでは、運用資産だけを見て高い収益を目指すのではなく、将来支払う年金という負債を出発点として運用方法を考えます。

国内金利が上昇し、国債などから2%台から3%台の利回りを期待できるようになったことで、日本の企業年金でもこの考え方を活用しやすい環境になってきています。

LDIとは何か

LDIはLiability Driven Investmentの略です。

Liabilityは負債、Drivenは主導された、Investmentは投資という意味です。

日本語では負債対応投資などと説明されます。

企業年金における負債とは、将来加入者や受給者へ支払う年金です。

確定給付企業年金では、将来の給付内容が一定のルールによって決まっています。

そのため、

将来いくら支払うのか

いつ支払うのか

という負債側をまず考え、それに合わせて資産を運用します。

資産から運用を考えるのではなく、負債から逆算して運用を設計するのがLDIの特徴です。

普通の資産運用との違い

一般的な資産運用では、

どの資産が最も値上がりしそうか

どの投資先なら高い利回りを期待できるか

といった視点が中心になることがあります。

例えば株式の期待収益率が高いなら、株式への投資を増やすという考え方です。

LDIでは発想が異なります。

最初に、

20年後にどれだけ年金を支払う必要があるのか

30年後にはどれだけ必要なのか

という将来の負債を確認します。

そのうえで、その支払いを安定して確保するために適した資産を選びます。

企業年金にとって投資は目的ではなく、将来の年金を支払うための手段なのです。

ALMとLDIは何が違うのか

前回説明したALMとLDIは非常に近い考え方です。

ALMはAsset Liability Managementの略で、資産と負債を一体として管理する考え方です。

企業年金では、

どのような年金資産を持っているのか

将来どの程度の年金負債があるのか

を両方見ながら年金財政を管理します。

LDIは、この考え方を実際の投資戦略へさらに踏み込ませたものと考えると分かりやすくなります。

将来の年金負債がどのように変動するのかを分析し、その動きに合わせて債券などの資産を保有します。

ALMが資産と負債を一体で管理する大きな枠組みだとすれば、LDIは負債を基準に具体的な運用を設計する考え方です。

年金債務は金利によって動く

LDIを理解するうえで重要なのが、将来の年金債務の現在価値です。

例えば20年後に100万円を支払うとします。

20年後の100万円と現在の100万円は同じ価値ではありません。

現在のお金は運用できるためです。

そこで将来支払う100万円を一定の割引率によって現在価値へ換算します。

このとき金利が変化すると、現在価値も変わります。

一般的には割引率が上昇すれば、遠い将来に支払う年金の現在価値は小さくなります。

反対に割引率が低下すれば、現在価値は大きくなります。

つまり企業年金の負債は固定された数字ではなく、金利の変化によって評価額が動くことがあります。

債券価格も金利によって動く

一方、企業年金が保有する債券も金利によって価格が変動します。

金利が上昇すると既存債券の価格は下落します。

金利が低下すると既存債券の価格は上昇します。

つまり、

年金負債

債券資産

の両方が金利変動の影響を受けます。

そこでLDIでは、この二つの動きをできるだけ近づけることを考えます。

資産だけを見れば債券価格の下落は損失ですが、同時に負債の現在価値も減少するのであれば、企業年金全体では影響を抑えられる可能性があります。

デュレーションを合わせる

LDIで重要になるのがデュレーションです。

デュレーションは金利変動に対する価格の感応度を考えるための指標です。

例えば年金負債のデュレーションが長いのに、保有する債券のデュレーションが非常に短いとします。

金利が大きく変化すると、負債と資産の価値が異なる割合で変動する可能性があります。

そこで長期国債などを利用して、資産側のデュレーションを負債側へ近づけます。

すると金利が動いたとき、

資産が動く

負債も同じ方向へ動く

という状態をつくりやすくなります。

重要なのは資産価格を動かなくすることではありません。

資産と負債の差を安定させることです。

年金給付と債券の満期を合わせる

LDIには、もっと直感的な方法もあります。

将来の年金給付と債券の満期を対応させる方法です。

例えば10年後に100億円程度の年金給付が必要になるとします。

そこで10年後に満期となる債券を一定額保有します。

20年後の給付には20年程度の債券を対応させます。

債券を満期まで保有すれば、途中の市場価格が変動しても、発行体が債務を履行することを前提として満期には額面金額が償還されます。

将来必要なお金を、その時期に戻ってくる債券で準備するわけです。

高い運用益を狙わなくてもよい

LDIの大きな特徴は、必要以上に高い運用収益を追求しなくてもよいという考え方です。

例えば企業年金が将来の給付を安定して行うために必要な運用水準が2.5%程度だったとします。

株式を多く保有すれば、年10%の収益を上げられる年もあるかもしれません。

しかし大幅なマイナスになる年もあります。

一方、安全性の高い債券から3%程度の利回りを長期間確保できるのであれば、必要な2.5%を上回ります。

それなら、わざわざ大きなリスクを取って10%を狙う必要性は小さくなります。

企業年金では運用収益を最大化するより、約束した給付を確実に支払える状態を維持する方が重要だからです。

超低金利時代にはLDIが難しかった

LDIと債券は非常に相性がよいのですが、日本では長期間にわたって一つの問題がありました。

国内債券の利回りが低すぎたことです。

将来の年金負債に合わせて国内債券を大量に保有しても、予定利率などを意識した必要な収益を確保できませんでした。

そのため企業年金は、

外国債券

国内外の株式

不動産

インフラ

その他のオルタナティブ資産

などへ投資対象を広げる必要がありました。

負債に合わせた安全性の高い運用だけでは、必要な利回りを確保することが難しかったのです。

金利3%でLDIを行いやすくなる

国内金利の上昇によって、この状況が変わってきています。

参考記事では、長期金利の指標となる10年国債利回りが3%台まで上昇しています。

一方、回答した企業年金の2026年度の予定利率は平均2.28%です。

国内債券から予定利率に近い、あるいはそれを上回る利回りを期待できるようになれば、

将来の負債に合わせる

必要な運用収益も確保する

という二つの目的を両立しやすくなります。

国内債券の利回り回復は、企業年金にとって単に投資収益が増えるという話ではありません。

負債に合わせた運用を実行しやすくなるという大きな意味があります。

すべてをLDIにする必要はない

LDIを採用するからといって、すべての年金資産を国債にする必要はありません。

企業年金では、資産を大きく二つの役割に分けて考える方法があります。

一つは、将来の年金負債に対応するための資産です。

国債などの債券を中心に、将来の給付を安定させる役割を持たせます。

もう一つは、長期的な収益を得るための資産です。

株式やオルタナティブ資産などを利用し、年金資産全体の成長を目指します。

つまり、

守る資産

増やす資産

を分ける考え方です。

すべてを安全資産へ移すのではなく、必要な年金給付を確保したうえで、余裕部分で収益を狙うことができます。

積立状況が良くなるほどリスクを減らせる

LDIでは、企業年金の積立状況も重要です。

例えば将来の年金給付に必要な資金が十分に積み上がっているとします。

その場合、さらに大きなリスクを取って資産を増やす必要性は小さくなります。

むしろ現在の良好な積立状況を守る方が重要になります。

そこで株式などの比率を下げ、債券を増やして負債との連動性を高めるという選択肢が出てきます。

企業年金が十分な資産を確保した段階で徐々にリスクを減らすことは、将来の給付を守るための合理的な戦略になり得ます。

結論

LDIとは、将来支払う年金という負債を出発点として資産運用を設計する考え方です。

企業年金の目的は、運用利回りを最大化することではありません。

将来約束した年金を安定して支払うことです。

そのためLDIでは、年金負債の金利感応度や支払時期を分析し、それに合わせて債券のデュレーションや満期などを設計します。

金利が動いて資産価値が変化しても、負債も同じように動けば、企業年金全体の積立状況を安定させやすくなります。

超低金利時代には、国内債券だけでは必要な利回りを確保することが難しく、負債に合わせた運用にも限界がありました。

しかし国内債券から2%台から3%台の利回りを期待できる環境になれば、事情は変わります。

将来の年金負債に合わせながら、必要な収益も確保できる可能性が高まるからです。

企業年金の国内債券回帰は、安全資産へ逃げているという単純な話ではありません。

高い運用益を追い続けなくても、将来約束した年金を守ることができる運用へ近づいている。

LDIという考え方から見ると、金利のある世界が企業年金にもたらす本当の意味が見えてくるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 企業年金、国内債に回帰 配分増加意向、過去最大 利回り回復で投資妙味

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