2027年度予算の概算要求総額は、一般会計で143兆円前後となりました。
これだけ大きな数字を見ると、
政府は143兆円を国債で借りるのか
と思うかもしれません。
しかし、そうではありません。
国の歳出の多くは所得税、法人税、消費税などの税収によって賄われます。
税外収入などもあります。
それでも足りない部分について、政府は国債を発行して資金を調達します。
このうち新たな財政支出の財源を確保するために発行する国債が新規国債です。
政府は2027年度予算について、新規国債発行額を40兆円程度に抑える方針を示しています。
143兆円という歳出側の数字と、40兆円程度という国債発行の数字は何が違うのでしょうか。
新規国債発行額とは何か
新規国債発行額とは、その年度の歳出を税収などだけでは賄えない場合に、不足する財源を調達するため新たに発行する国債の金額です。
国の一般会計を単純化すると、
歳出
と、
税収などの歳入
があります。
歳出と税収などが同じなら、新たな財源不足は生じません。
しかし歳出の方が大きければ不足額が生じます。
その不足分を賄う方法の一つが国債です。
例えば国の歳出が120兆円だったとします。
税収や税外収入などで90兆円確保できれば、30兆円不足します。
この30兆円を新たな国債発行で賄うとすれば、新規国債発行額は30兆円です。
つまり新規国債は、
政府が使うお金のすべて
ではなく、
税収などで足りない部分を補うためのお金
なのです。
歳出143兆円でも143兆円借りるわけではない
2027年度概算要求が143兆円前後だからといって、143兆円すべてを借金するわけではありません。
政府には税収があります。
所得税があります。
法人税があります。
消費税があります。
相続税や酒税などもあります。
さらに税金以外の収入もあります。
これらを歳入として使います。
それでも歳出に足りない部分があれば、新規国債発行によって補います。
したがって、
歳出総額
と、
新規国債発行額
はまったく別の数字です。
国の予算を見るときには、この二つを混同しないことが重要です。
税収が増えれば国債を減らせる
歳出が同じでも、税収が増えれば必要な新規国債発行額を減らすことができます。
例えば歳出が130兆円だとします。
税収などが90兆円なら、不足額は40兆円です。
税収などが100兆円に増えれば、不足額は30兆円になります。
単純化すれば、新規国債発行額を10兆円減らせます。
そのため政府の財政を考えるときには、歳出だけでなく税収も重要です。
経済が成長する。
企業利益が増える。
賃金が上がる。
消費が増える。
こうした動きによって税収が増えれば、歳出を維持しながら国債発行を抑えられる可能性があります。
積極財政で成長率を高めるという政策では、この税収増まで実現できるかが重要になります。
歳出が増えても国債が増えるとは限らない
逆に考えると、歳出が増えたからといって、新規国債発行額が同じ金額だけ増えるとは限りません。
例えば歳出が前年より5兆円増えたとします。
同時に税収が7兆円増えればどうでしょうか。
他の条件が同じなら、新規国債発行額をむしろ減らせる可能性があります。
反対に歳出が変わらなくても、景気悪化によって税収が大きく減れば、新規国債発行額を増やさなければならないことがあります。
つまり国債発行額は、
政府がどれだけ使うか
だけでは決まりません。
政府にどれだけ収入が入ってくるか
との差で決まります。
新規国債には建設国債と特例国債がある
新規国債について理解するうえでは、建設国債と特例国債という区分も重要です。
建設国債は、公共事業など将来にも資産や便益が残る一定の支出について発行される国債です。
道路や橋などの社会資本は、現在の世代だけでなく将来の世代も利用します。
そのため費用の一部を将来世代にも負担してもらうという考え方があります。
一方、税収だけでは通常の歳出を賄えない場合などに発行されるのが特例国債です。
一般に赤字国債と呼ばれるものです。
どちらも政府の債務になる点は同じですが、発行の根拠や性格が異なります。
新規国債と借換債は何が違うのか
国債の数字で特に混同しやすいのが、新規国債と借換債です。
新規国債は、その年度の新たな財源不足を賄うために発行します。
これに対して借換債は、すでに発行されている国債が満期を迎えたとき、その償還資金を調達するために発行します。
例えば過去に発行した100兆円の国債が満期を迎えるとします。
政府が100兆円をすべて税収から返すのではなく、新しい国債を発行して借り換えることがあります。
このとき発行するのが借換債です。
借換債は新しい政策のために100兆円を使うわけではありません。
過去の債務を新しい債務へ置き換えているのです。
国債発行総額と新規国債発行額も違う
そのため、政府が1年間に市場などで発行する国債の総額は、新規国債発行額より大きくなることがあります。
例えば、
新規国債40兆円
借換債100兆円
を発行するとします。
単純化すれば国債の発行額は140兆円です。
しかし新たな財政赤字を賄うための国債は40兆円です。
残りの100兆円は過去の国債を借り換えるためのものです。
ニュースで、
国債発行額
という数字を見るときには、
新規国債だけなのか
借換債なども含む発行総額なのか
を確認する必要があります。
同じ国債発行でも意味が大きく違います。
40兆円程度に抑えるとはどういうことか
政府は2027年度予算について、新規国債発行額を40兆円程度に抑えることを一つの目安としています。
比較対象となる2025年度補正予算と2026年度当初予算を合わせた新規国債発行額は41.3兆円です。
つまり2027年度は、成長投資や危機管理投資を進めながらも、新たな国債発行を大幅に増やさない財政運営を目指していることになります。
ここが重要です。
積極財政だからといって、
歳出を増やした分だけすべて国債を発行する
という考え方ではありません。
税収などの歳入も活用しながら、新規国債発行を一定程度に抑えることが求められています。
どうすれば歳出を増やしながら国債を抑えられるのか
歳出を増やしながら新規国債発行額を抑えるには、財源が必要です。
一つは税収の増加です。
経済成長や物価上昇、賃金上昇などによって税収が増えれば、追加歳出の財源になります。
もう一つは既存歳出の見直しです。
効果の低い補助金や事業を減らし、その財源を成長分野へ振り替えます。
例えば既存事業を3兆円削減し、新しい成長投資を3兆円増やせば、歳出総額を増やさず政策の重点を変えることができます。
さらに税外収入などを活用する方法もあります。
つまり積極財政と国債発行抑制を両立するためには、
税収を増やす
既存歳出を見直す
政策の優先順位を入れ替える
という取り組みが重要になります。
成長投資が成功すれば税収にもつながる
政府が成長投資を重視する理由の一つは、将来的な税収増も期待できることです。
例えば政府がAIや半導体へ支援を行ったとします。
その結果、
企業の設備投資が増える
新しい工場が建つ
雇用が増える
賃金が上がる
企業利益が増える
という動きが起きれば、法人税や所得税などの税収が増える可能性があります。
政府支出が将来の税収増につながれば、国債発行への依存を抑えやすくなります。
一方、成長投資として巨額の予算を使っても経済効果が生まれなければ、税収は期待したほど増えません。
その場合、国債だけが残る可能性があります。
積極財政では、支出額以上に政策効果が重要になる理由です。
国債を40兆円に抑えても借金が減るとは限らない
ここにも注意が必要です。
新規国債発行額を40兆円程度に抑えたとしても、それだけで政府債務が減るわけではありません。
新規国債を発行している以上、新たな債務は発生します。
さらに過去の国債については借り換えが続いています。
重要なのは、
新しい借金をどの程度増やしているのか
その借金に対して経済規模がどの程度成長しているのか
利払い負担がどの程度になっているのか
です。
財政の持続可能性は、新規国債発行額一つだけで判断できるものではありません。
金利が上がれば同じ40兆円でも負担が違う
新規国債発行額が同じ40兆円でも、金利によって将来負担は変わります。
例えば40兆円を年0.5パーセントで調達する場合と、年3パーセントで調達する場合では、利払い負担が大きく違います。
単純化すると、
40兆円の0.5パーセントは2000億円
40兆円の3パーセントは1兆2000億円
です。
年間で1兆円の差になります。
実際の国債管理はもっと複雑ですが、金利上昇局面では、
国債をいくら発行するか
だけではなく、
どの金利で発行するか
も重要になります。
新規国債発行額を抑える意味が、低金利時代より大きくなっているともいえます。
143兆円を見るときは歳入側も見る
2027年度概算要求143兆円という数字は、歳出側から見た予算要求です。
しかし財政を理解するには、歳入側を見る必要があります。
税収はいくらになるのか。
税外収入はいくらあるのか。
新規国債をいくら発行するのか。
この組み合わせによって予算の財源が決まります。
143兆円という数字だけを見て、
政府が143兆円借金する
と考えるのは誤りです。
一方で、
税収があるから国債は問題ない
とも言えません。
税収などで賄えない部分については、将来の元利払いを伴う国債に依存するからです。
歳出と歳入を両方見ることが必要です。
予算編成では最終的な国債発行額が重要になる
2027年度概算要求の段階では、各省庁が必要だと考える予算を提出しています。
これから財務省査定によって要求額が削られる可能性があります。
一方、事項要求については後から具体的な金額が加わります。
さらに税収見通しも予算編成の過程で精査されます。
その結果、
最終的な歳出はいくらか
税収はいくらか
新規国債発行額はいくらか
が年末の政府予算案に向けて固まっていきます。
143兆円という概算要求額と並んで、新規国債発行額を40兆円程度に抑えられるのかが重要なポイントになります。
結論
新規国債発行額とは、その年度の歳出を税収や税外収入などだけでは賄えない場合に、不足する財源を調達するため新たに発行する国債の金額です。
2027年度概算要求が143兆円前後だからといって、政府が143兆円すべてを借金するわけではありません。
歳出の多くは所得税、法人税、消費税などの税収によって賄われます。
それでも足りない部分を新規国債などで補います。
また、新規国債と借換債は別物です。
新規国債は新たな財源不足を賄うための国債です。
借換債は、過去に発行した国債が満期を迎えた際、その債務を新しい国債へ置き換えるために発行します。
そのため国債の発行総額と新規国債発行額も同じではありません。
政府は2027年度の新規国債発行額を40兆円程度に抑える方針を示しています。
成長投資を増やしながら国債発行を抑えるためには、税収増や既存歳出の見直しが必要になります。
そして金利が上昇する現在では、同じ40兆円を発行する場合でも将来の利払い負担は大きく変わります。
国の財政を見るときには、
143兆円を使うのか
だけを見るのではなく、
その143兆円を税収などでどこまで賄い、不足分として新たにいくら借りるのか
を見ることが重要です。
歳出と歳入の間にある差額を見ることで、新規国債発行額の意味が見えてきます。
参考
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求、143兆円前後 「天井」廃止で過去最大
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求最大「143兆円」、市場警戒解かず
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 上限撤廃、強まる官邸裁量