国の予算を見るとき、多くの人が注目するのは当初予算です。
年度が始まる前に、
社会保障にいくら使うのか
防衛にいくら使うのか
公共事業にいくら使うのか
国債をいくら発行するのか
といった数字が示されるからです。
しかし、当初予算だけを見ても、その年に政府が実際にどれだけのお金を使うのか分からない場合があります。
年度の途中で補正予算が追加されるからです。
本来、補正予算は災害や急激な景気悪化など、当初予算を編成した時点では予想できなかった事態に対応するための仕組みです。
ところが大型の補正予算を毎年のように編成し、恒常的な政策まで補正予算に載せるようになると、当初予算だけでは国の本当の歳出規模が見えにくくなります。
これが補正予算依存の問題です。
2027年度予算では、こうした予算編成を見直し、これまで補正予算で追加してきた経費も、必要性が分かっているものは当初予算から要求する方向へ転換しています。
補正予算の本来の役割
補正予算は、当初予算が成立した後に状況が変わった場合に対応するための予算です。
国の当初予算は、年度が始まる前につくられます。
しかし、その後の1年間に何が起こるのかを完全に予測することはできません。
例えば大規模地震が発生するかもしれません。
豪雨や台風によって大きな被害が出ることもあります。
世界的な金融危機によって景気が急速に悪化する可能性もあります。
感染症が拡大することもあります。
こうした予測困難な事態が起きたとき、
当初予算にお金が入っていないので対応できません
というわけにはいきません。
そこで年度途中に必要な予算を追加します。
これが補正予算の基本的な役割です。
補正予算には柔軟性がある
補正予算の大きな特徴は、状況の変化に応じて機動的に財政支出を追加できることです。
例えば大規模災害が発生した場合には、
被災者への生活支援
住宅の再建支援
道路や橋の復旧
学校や病院の復旧
中小企業への支援
など、さまざまな支出が必要になります。
こうした費用を災害発生前に正確に計算することはできません。
災害が発生した後に被害規模を確認し、必要な支援額を積み上げて補正予算を組む方が合理的です。
景気対策も同じです。
急激な景気悪化が起きれば、企業支援や雇用対策などを追加できます。
補正予算は、予測できない事態に対応するために必要な財政上の仕組みなのです。
補正予算依存とは何か
問題になるのは、補正予算を使うこと自体ではありません。
毎年のように大型の補正予算を編成することが前提になっていくことです。
例えば、ある政策に毎年5000億円必要だとします。
本来なら5000億円を当初予算に入れることが考えられます。
ところが、
当初予算では2000億円
補正予算で3000億円
という形を毎年繰り返したとします。
合計すれば毎年5000億円です。
つまり3000億円は突然必要になった支出ではありません。
実質的には恒常的な支出です。
それにもかかわらず補正予算で計上し続ければ、補正予算が通常の政策経費を賄う仕組みになってしまいます。
これが補正予算依存と呼ばれる問題です。
大型補正が常態化するとどうなるのか
大型補正予算が毎年のように組まれると、予算編成の姿が変わります。
本来は、
当初予算が基本
補正予算が例外
という関係です。
ところが大型補正が常態化すると、
当初予算が第一弾
補正予算が第二弾
というような形になります。
つまり補正予算が例外ではなく、年間予算の一部として事実上予定されるようになります。
こうなると、年度が始まる時点で示される当初予算だけでは、政府が年間にどれだけ支出するのか分かりません。
年末や年度途中に大型補正が追加されることを考えなければ、実際の財政規模を把握できなくなるからです。
当初予算だけでは歳出規模が分からない
例えば当初予算が115兆円だったとします。
前年の当初予算が114兆円なら、
歳出は1兆円しか増えていない
と見えるかもしれません。
しかし年度途中で15兆円の補正予算を組めば、単純に考えると予算規模は130兆円になります。
前年が、
当初予算114兆円
補正予算6兆円
だったなら、年間では120兆円です。
当初予算だけを比較すると、
114兆円から115兆円
なので1兆円増です。
しかし補正予算まで含めれば、
120兆円から130兆円
となり10兆円増えています。
当初予算だけを見ていると、財政拡張の大きさを見誤る可能性があるのです。
本当の歳出規模を見るには通年で考える
国の財政を見るときには、1年間を通じた歳出を見ることが重要です。
当初予算だけでなく、
補正予算
予備費
その他の追加支出
なども考える必要があります。
特に大型補正が常態化している場合、
当初予算はいくらか
ではなく、
最終的に年間でいくらの予算を組んだのか
を見る必要があります。
2027年度概算要求が143兆円前後と非常に大きくなった背景にも、この考え方があります。
これまで補正予算で追加してきた経費についても、必要性があらかじめ分かっているものは当初予算から要求する方向へ変えているからです。
なぜ補正予算に政策を入れたくなるのか
では、なぜ恒常的な政策まで補正予算に入りやすくなるのでしょうか。
一つの理由として、当初予算の概算要求には厳しい歳出管理が行われてきたことがあります。
各省庁には要求額の上限となるシーリングが設けられます。
その範囲内で、
新規政策
既存政策
人件費
補助金
などを調整しなければなりません。
新しい政策を始めたくても、要求枠が足りないことがあります。
一方、補正予算は経済対策など大きな政策目的のもとで編成されることがあります。
そこに政策を盛り込めれば、当初予算の厳しい枠とは別に財源を確保できる場合があります。
このような予算編成が繰り返されれば、
当初予算で十分に確保できなくても、後で補正予算に入れればよい
という発想につながる可能性があります。
シーリングを厳しくしても意味が薄れる
ここで前回までに見てきたシーリングとの関係が重要になります。
シーリングは、各省庁が概算要求を行う段階で要求額の上限を設ける仕組みです。
例えば当初予算について厳しいシーリングを設け、各省庁に歳出削減を求めたとします。
その結果、当初予算を5兆円抑えられたとします。
しかし数カ月後に10兆円の大型補正予算を組めばどうでしょうか。
年間全体では支出が増える可能性があります。
つまり、
当初予算の入口だけ厳しく管理する
だけでは十分ではありません。
当初予算と補正予算を合わせた通年の歳出を管理しなければ、本当の意味での財政規律にはならないのです。
補正予算では予算の優先順位も見えにくくなる
補正予算依存には、金額以外の問題もあります。
予算の優先順位が見えにくくなることです。
当初予算では各省庁が概算要求を提出し、財務省が査定し、年末まで時間をかけて予算案をまとめます。
限られた財源の中で、
どの政策を増やすのか
どの政策を減らすのか
を比較します。
一方、補正予算は緊急性を伴って短期間で編成されることがあります。
本当に緊急性のある政策なら、迅速な予算編成には大きな意味があります。
しかし恒常的な政策まで大量に盛り込まれると、
なぜこの政策を今補正予算で行う必要があるのか
他の政策より優先する理由は何か
という比較が難しくなる可能性があります。
予算を使い切れない問題も起こる
大型補正予算を短期間で編成すると、もう一つ問題が生じることがあります。
予算をその年度中に使い切れないことです。
大規模な事業を実施するには時間が必要です。
制度を設計する。
事業者を募集する。
審査する。
契約する。
工事を行う。
こうした作業には数カ月から数年かかる場合があります。
年末に大型補正予算を組んでも、年度末の3月までに事業を完了できないことがあります。
その場合、予算を翌年度へ繰り越すことがあります。
すると、
当初予算
補正予算
前年度からの繰越額
が重なり、ある年度に実際にどれだけのお金が使われたのか、さらに分かりにくくなります。
予算額と実際の支出額を区別して見る必要も出てくるわけです。
2027年度に一体化を進める意味
2027年度予算では、これまで補正予算で追加的に要求してきた経費について、必要性があらかじめ分かっているものは当初から要求する方向へ転換しています。
これは当初予算と補正予算を一体的に考える取り組みといえます。
例えば毎年必要になる産業支援策があるなら、
当初予算では小さく計上する
年末に補正予算で追加する
という形ではなく、
最初から必要額を当初予算に盛り込む
ようにします。
そうすれば、年度が始まる前の段階で国が年間にどの程度の支出を予定しているのかが分かりやすくなります。
143兆円が過去最大になったことをどう見るのか
2027年度概算要求は143兆円前後となりました。
2026年度の概算要求122.4兆円と比べれば、20兆円以上大きな数字です。
これだけを見ると、急激な財政拡張に見えます。
しかし比較する基準には注意が必要です。
高市政権が手掛けた2025年度補正予算と2026年度当初予算を合わせると140.6兆円でした。
2027年度概算要求143兆円前後は、この金額を2兆円から3兆円程度上回ります。
つまり2027年度の数字が大きい理由には、
新しい歳出要求が増えている
という面だけでなく、
これまで補正予算に入れていた支出を当初予算側へ移している
という面もあります。
予算の見せ方が変わっているわけです。
当初予算が大きいことと財政拡張は同じではない
ここは重要なポイントです。
当初予算が大きいからといって、それだけで前年より大幅な財政拡張だとは判断できません。
例えば前年が、
当初予算115兆円
補正予算20兆円
だったとします。
合計は135兆円です。
翌年が、
当初予算130兆円
補正予算5兆円
なら、同じ135兆円です。
当初予算だけを見ると15兆円増えています。
しかし通年の規模は変わっていません。
むしろ最初から130兆円を示している方が、政府の年間支出を把握しやすいとも考えられます。
財政を見るときには、
当初予算を小さくできたか
ではなく、
通年の歳出をどこまで管理できたか
を見る必要があります。
本当に問われるのは年末以降
2027年度予算で重要なのは、概算要求143兆円という数字だけではありません。
財務省査定によってどこまで要求額が絞られるのか。
事項要求が最終的にいくらになるのか。
年末の政府予算案がどの程度になるのか。
そして2027年度が始まった後に、再び大型補正予算を組むのか。
ここまで見なければ、補正予算依存から本当に脱却できたかは分かりません。
当初予算を大きくしても、その後に従来と同じ規模の大型補正を追加すれば、年間歳出はさらに膨らむからです。
当初予算への移行と補正予算の抑制は、セットで考える必要があります。
結論
補正予算依存とは、本来は予測困難な事態に対応するための補正予算を毎年のように大型化し、恒常的な政策まで補正予算で賄う状態です。
補正予算そのものが問題なのではありません。
災害、急激な景気悪化、感染症などへの対応には、補正予算という柔軟な仕組みが必要です。
問題は、最初から必要だと分かっている支出まで補正予算で繰り返し計上することです。
これが常態化すると、当初予算だけでは国が年間にどれだけ支出しているのか分かりにくくなります。
さらに当初予算をシーリングで厳しく抑えても、その後に大型補正予算を追加すれば、通年の歳出管理はできません。
2027年度予算では、これまで補正予算で追加していた経費についても、必要性があらかじめ分かっているものは当初予算から要求する方向へ転換しています。
そのため概算要求143兆円という数字は大きく見えますが、前年の当初予算だけと比較するのではなく、2025年度補正予算と2026年度当初予算を合わせた140.6兆円など、通年の予算規模と比較することが重要です。
補正予算依存から脱却するとは、補正予算をなくすことではありません。
予測できる支出は当初予算に入れ、予測できない事態だけ補正予算で対応するという本来の役割分担に近づけることです。
国の財政を見るときも、当初予算という一つの数字だけではなく、補正予算まで含めた1年間全体のお金の流れを見ることが重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求、143兆円前後 「天井」廃止で過去最大
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求最大「143兆円」、市場警戒解かず
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 上限撤廃、強まる官邸裁量
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求 財務省との議論本格化