租税特別措置とは何か 子育て支援の税優遇でも利用が少なければ廃止候補になる理由編

政策

政府が企業や家計を支援する方法は、補助金や給付金だけではありません。

税金を安くする方法もあります。

特定の政策目的を実現するため、通常の税制とは異なる特別な取り扱いを設ける仕組みが租税特別措置です。

設備投資を促す。

賃上げを促す。

住宅取得を支援する。

子育てを支援する。

こうした政策目的のために税負担を軽減する制度が設けられています。

しかし、税金を安くする制度だからといって、一度つくれば永久に残すべきものではありません。

利用する人が極端に少なかったり、期待した政策効果が得られなかったりすれば、見直しや廃止の対象になります。

租税特別措置とは何か

租税特別措置とは、特定の政策目的を達成するため、通常の税制とは異なる特別な取り扱いを設ける仕組みです。

税金には本来、一定のルールがあります。

所得がいくらならどれだけ課税するのか。

企業の利益にどのように法人税を課すのか。

財産を贈与した場合にどのように贈与税を計算するのか。

こうした基本的な税制があります。

その基本ルールに対して、一定の条件を満たす場合だけ税負担を軽くしたり、課税時期を変えたりするのが租税特別措置です。

通常の税制とは何が違うのか

通常の税制は、幅広い納税者に適用される基本的なルールです。

一方、租税特別措置は特定の政策目的と結び付いています。

例えば政府が企業の設備投資を増やしたいと考えたとします。

企業が一定の設備投資を行った場合に税負担を軽くすれば、

税金が安くなるなら設備投資をしよう

と考える企業が増える可能性があります。

税制を使って企業や個人の行動を政策的に後押しするわけです。

単に税金を集めるための制度ではなく、経済や社会の行動を変える手段として税制を利用するところに特徴があります。

税制優遇は実質的な政策支援になる

補助金なら政府がお金を支払います。

一方、税制優遇では政府から直接お金が振り込まれるとは限りません。

代わりに本来負担する税金を減らします。

例えば本来100万円の税金を負担する人が、政策的な優遇によって70万円になったとします。

政府が30万円を給付したわけではありません。

しかし、納税者から見れば30万円分の負担が軽くなります。

国から見れば、本来得られるはずだった税収が30万円少なくなります。

このため税制優遇も、政策のために公的な資源を使っていると考えることができます。

なぜ税金を使って行動を促すのか

税制優遇には、人や企業の行動を変える効果が期待されています。

設備投資を増やしてほしい。

研究開発を増やしてほしい。

賃金を上げてほしい。

住宅を取得しやすくしたい。

子育て世帯を支援したい。

こうした政策目標がある場合、政府がすべて直接事業を行う必要はありません。

一定の行動をした人の税負担を軽くすることで、その行動を選びやすくする方法があります。

これが政策手段として税制を利用する考え方です。

子育て支援にも税制が使われる

子育て政策というと、児童手当や保育サービスなどが思い浮かびます。

しかし、税制を通じた支援もあります。

今回見直しの対象となった結婚子育て資金の一括贈与非課税制度も、税制を使った政策支援の一つです。

父母や祖父母などから結婚や子育てのための資金を一定の条件で贈与された場合、1000万円まで贈与税を非課税にする仕組みです。

若い世代の結婚や子育てを経済的に支援するとともに、高齢世代から若い世代への資産移転を促す狙いがあります。

政府が直接1000万円を給付する制度ではありません。

贈与税を軽減することで政策目的を実現しようとする仕組みです。

税制優遇があれば政策効果があるとは限らない

問題は、税制優遇を設ければ必ず人の行動が変わるわけではないことです。

税金が安くなっても、利用条件が厳しければ使われないかもしれません。

手続きが複雑なら利用を諦める人もいます。

そもそも対象となる人が少ない場合もあります。

つまり、

税制優遇をつくった

ことと、

政策目的を達成した

ことは別です。

制度を導入した後に、実際の利用状況を確認する必要があります。

利用件数は重要な検証材料になる

結婚子育て資金の一括贈与非課税制度では、この問題が表面化しました。

参考記事によると、2025年度の利用は219件でした。

全国規模の制度であることを考えると、利用は限定的です。

もちろん利用件数だけで政策の良し悪しを判断することはできません。

少人数を対象とする政策であれば、利用者が少なくても必要な制度はあります。

しかし、多くの若い世代への資産移転や結婚子育て支援を目的とする制度で利用が極端に少なければ、

制度設計が実態に合っているのか

という検証が必要になります。

なぜ利用が少ないのかまで調べる必要がある

利用件数が少ないからといって、すぐに制度を廃止すればよいわけでもありません。

なぜ利用されていないのかを確認する必要があります。

制度そのものに需要がないのか。

制度が知られていないのか。

対象となる条件が厳しすぎるのか。

手続きが複雑なのか。

似たような別の制度があるのか。

原因によって対応は変わります。

制度に需要があるのに手続きだけが問題なら、手続きを簡素化する方法もあります。

一方、そもそも政策手段として効果が乏しいのであれば、廃止して別の政策へ切り替えることも考えられます。

税収を減らす以上は効果を確認する必要がある

税制優遇には見えにくい特徴があります。

補助金なら予算書に支出額が表れます。

100億円の補助金なら、100億円の歳出として分かりやすく表示されます。

一方、税制優遇は税金を徴収しない形で支援するため、通常の歳出より政策コストが見えにくくなります。

しかし、税収を減らして政策を支援していることに変わりはありません。

だからこそ、

どの程度税収が減っているのか

誰が恩恵を受けているのか

その結果どのような行動変化が起きたのか

を検証する必要があります。

租税特別措置は既得権化しやすい

税制優遇には、一度導入すると廃止が難しくなる問題もあります。

制度を利用している企業や個人にとって、税負担が軽い状態が通常になります。

すると制度を廃止した場合、

増税された

と感じることがあります。

実際には特例をやめて通常の税制へ戻すだけでも、利用者から見れば負担増です。

そのため政策効果が小さくなった制度でも残り続ける可能性があります。

これが租税特別措置を定期的に検証する必要がある理由の一つです。

時代が変われば必要な税制も変わる

制度を導入した時点では合理的だった税制優遇でも、社会や経済の状況が変われば必要性が低下することがあります。

政策課題が変わる。

対象となる人が減る。

別の支援制度が整備される。

技術や生活様式が変化する。

こうした変化が起これば、以前は必要だった優遇措置でも現在の政策に合わなくなる可能性があります。

税制は一度つくったら固定するものではありません。

現在の社会に合っているかを継続的に確認する必要があります。

廃止は単なる増税とは限らない

税制優遇を廃止すると、その制度を利用していた人の税負担は増える可能性があります。

そのため廃止だけを見ると増税に見えます。

しかし、政策全体では別の見方もできます。

効果の低い税制優遇を廃止する。

そこで生まれる財政余力を、より必要性の高い政策へ振り向ける。

このような政策の組み替えが可能になります。

子育て支援であれば、利用者の少ない税制優遇を残すことだけが支援ではありません。

より多くの家庭が必要としている保育や給付などへ政策資源を振り向ける方法もあります。

予算と税制を一緒に見直す意味

政府の政策見直しでは、歳出だけを削ればよいわけではありません。

補助金を見直す。

給付制度を見直す。

行政事業を見直す。

そして税制優遇も見直す。

こうした取り組みを一体として考える必要があります。

税制優遇だけを聖域にすると、歳出だけに削減圧力が集中します。

同じ政策目的を実現するための手段である以上、補助金と税制優遇のどちらが効率的なのか比較する視点も重要になります。

制度の数より政策効果を見る

子育て政策でも同じです。

子育て支援制度が100種類あること自体に意味があるわけではありません。

重要なのは、それによって子育て世帯の負担がどれだけ軽減されるかです。

利用者がほとんどいない制度を残し続けるより、効果の高い制度へ財源や行政資源を集中した方がよい場合があります。

政策評価では、

制度をつくったか

予算を増やしたか

ではなく、

社会にどのような変化が生まれたか

を見る必要があります。

結論

租税特別措置とは、特定の政策目的を達成するため、通常の税制とは異なる特別な取り扱いを設ける仕組みです。

税負担を軽くすることで、企業や個人に特定の行動を促します。

子育て支援でも税制優遇は利用されており、結婚子育て資金の一括贈与非課税制度もその一例です。

しかし、税制優遇はつくること自体が目的ではありません。

実際に利用され、政策目的の達成につながっているかを検証する必要があります。

参考記事によると、この制度の2025年度の利用は219件にとどまりました。

利用が少ないのであれば、その原因を調べ、制度を改善するのか、廃止するのか、別の政策へ切り替えるのかを判断する必要があります。

税制優遇も補助金と同じように政策資源を使う仕組みです。

一度導入した制度を残し続けるのではなく、効果を確認し、必要性が低下したものを見直す。

そして限られた財源を、より効果の高い政策へ振り向ける。

租税特別措置の見直しとは、単なる増税ではなく、税制を含めた政策全体の優先順位を問い直す作業なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 贈与税優遇、廃止を要求 日本版DOGEで見直し

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