会社員の老後資金について考えるとき、「退職金」と「企業年金」という言葉がよく登場します。
どちらも会社で働いたことによって受け取るお金なので、同じものだと思われがちです。
しかし、退職金と企業年金は完全に同じものではありません。
退職金は一般に、退職をきっかけとして会社などから受け取る給付全体を広く指します。
その中には、退職時にまとまった金額を受け取る退職一時金と、一定の制度に基づいて老後に年金として受け取る企業年金があります。
つまり企業年金は、広い意味では企業が用意する退職後の給付の一つと考えることができます。
この違いを理解すると、会社員が老後にどこからお金を受け取るのかが整理しやすくなります。
退職金の意味
退職金とは、社員が会社を退職したときなどに、会社の制度に基づいて支給されるお金です。
代表的なのが退職一時金です。
たとえば60歳で定年退職するときに、
2000万円
というまとまった金額を受け取ります。
金額は会社の退職金規程などによって決まります。
勤続年数や役職、給与、会社への貢献度などをもとに計算する制度があります。
退職金制度そのものを設けることが、すべての企業に法律で義務付けられているわけではありません。
そのため、退職金制度がない会社もあります。
一方、制度を設けて就業規則や退職金規程などで支給条件を定めれば、その内容に沿った運用が必要になります。
企業年金の意味
企業年金とは、企業が社員の老後所得を支えるために設ける年金制度です。
会社員には、公的年金があります。
原則として、
国民年金に相当する基礎年金
厚生年金
を受け取ります。
企業年金は、この公的年金に上乗せする役割を持っています。
イメージとしては、
1階部分が基礎年金
2階部分が厚生年金
その上に企業年金
という構造です。
企業年金がある会社で働いていれば、公的年金だけの場合より老後の収入源を増やすことができます。
退職金は一時金だけを意味するわけではない
日常会話では、
退職金イコール退職一時金
として使われることがよくあります。
しかし、企業が用意する退職給付という広い視点で見ると、一時金だけが退職後の給付ではありません。
企業によっては、
退職一時金だけ
企業年金だけ
退職一時金と企業年金の両方
という制度があります。
そのため、
うちの会社は退職金がある
というだけでは、実際にどのような制度なのか分かりません。
一時金として支払われるのか。
企業年金として支払われるのか。
両方あるのか。
ここまで確認する必要があります。
一時金と年金では受け取る時期が違う
退職一時金と企業年金の大きな違いは、基本的な受け取り方です。
退職一時金は、原則として退職時にまとまった金額を受け取ります。
たとえば、
60歳の定年時に2000万円
という形です。
一方、企業年金は一定の要件を満たした後、年金として継続的に受け取る仕組みがあります。
たとえば、
毎年100万円を一定期間受け取る
という形です。
ただし企業年金制度によっては、一時金で受け取ることが認められている場合もあります。
したがって、
退職金は一括
企業年金は必ず分割
と単純に分けられるわけではありません。
制度と受け取り方を分けて考えることが大切です。
なぜ会社は二つの制度を持つのか
企業によっては、退職一時金と企業年金の両方を設けています。
なぜ一つにまとめないのでしょうか。
理由の一つは、退職後に必要なお金には二つの性格があるからです。
退職直後には、まとまったお金が必要になる場合があります。
住宅ローンの残額を返済する。
自宅をリフォームする。
自動車を買い替える。
こうした支出には一時金が向いています。
一方、老後の日常生活では毎月継続的にお金が必要です。
食費や光熱費、住居費などは、退職したからといってなくなるわけではありません。
こうした支出には年金形式の収入が向いています。
一時金と年金を組み合わせることで、異なる資金需要に対応できます。
企業年金には代表的な二つの仕組みがある
現在の企業年金を理解するときに重要なのが、
確定給付企業年金
企業型確定拠出年金
です。
確定給付企業年金は、英語の頭文字からDBとも呼ばれます。
一定の算定方法に基づいて将来の給付額が決まる仕組みです。
企業などが必要な掛金を拠出して資産を運用します。
一方、企業型確定拠出年金はDCと呼ばれます。
企業が掛金を拠出し、社員自身が用意された商品の中から運用先を選びます。
将来受け取る金額は、掛金と運用結果によって変わります。
同じ企業年金でも仕組みは大きく異なります。
会社が負う責任も違う
確定給付企業年金と確定拠出年金では、会社と社員の役割が異なります。
確定給付企業年金では、給付の算定方法があらかじめ定められています。
必要な給付を行えるように、企業などが掛金を拠出し、年金資産を管理します。
運用環境などによって必要な積立額が変化すれば、企業側に追加負担が生じることがあります。
一方、企業型確定拠出年金では、企業が拠出する掛金が決まっています。
その資金をどのように運用するかは、基本的に加入者である社員自身が判断します。
運用成績がよければ資産が増える可能性があります。
反対に、期待したほど増えない可能性もあります。
つまり、
確定給付は将来の給付を重視する仕組み
確定拠出は現在の掛金を重視する仕組み
と考えると分かりやすくなります。
退職金制度から企業型DCへ移す企業がある理由
近年、従来型の退職一時金を見直して、企業型確定拠出年金などへ移行する企業があります。
背景には人材の流動化があります。
従来型の退職金は、
同じ会社に長く勤めるほど有利
という設計になっていることがあります。
これは終身雇用の時代には合理的でした。
社員に長く働いてもらうためのインセンティブになるからです。
しかし転職が一般的になると、長期勤続を前提とした制度が中途採用者にとって不利になる場合があります。
確定拠出年金には、転職時に一定の要件のもとで年金資産を次の制度へ移換できる仕組みがあります。
特定の会社だけに長期間在籍することを前提としない制度として、人材流動化との相性がよい面があります。
退職金がなくても企業年金がある会社もある
会社選びでは、
退職金制度あり
という表示だけを見るのでは不十分です。
退職一時金がない会社でも、企業型確定拠出年金などへ会社が相応の掛金を拠出している場合があります。
逆に、
退職金制度あり
と書かれていても、実際の支給額がそれほど大きくない可能性もあります。
重要なのは制度の名称ではなく、
会社が社員の退職後のために年間いくら負担しているのか
という視点です。
毎月の給与、賞与、退職一時金、企業年金などを合わせて考える必要があります。
転職すると企業年金はどうなるのか
企業年金を持つ会社から転職するときには、加入していた制度を確認する必要があります。
特に確定拠出年金では、退職後に何もしなくてよいとは限りません。
転職先の企業型確定拠出年金やiDeCoなどへ資産を移換する手続きが必要になる場合があります。
適切な手続きをしないまま一定期間が経過すると、自動移換となることがあります。
自動移換されると、資産を自分で運用できない期間が生じたり、手数料がかかったりすることがあります。
転職するときには給与や役職だけでなく、
現在の企業年金をどうするのか
まで確認することが大切です。
老後資金は三つに分けると分かりやすい
会社員の老後資金は、大きく三つに分けると理解しやすくなります。
一つ目が公的年金です。
国民年金や厚生年金です。
二つ目が会社から提供される退職給付です。
退職一時金や企業年金などです。
三つ目が自分で準備する資産です。
預貯金やNISA、iDeCoなどを利用した資産形成が該当します。
つまり老後生活は、
国
会社
自分
の三つの資金を組み合わせて支えることになります。
企業が退職金制度を見直す動きが広がれば、その分、自分自身で老後資産を管理する重要性も高まります。
結論
退職金と企業年金は、どちらも会社員の退職後を支えるためのお金ですが、意味は完全に同じではありません。
一般に退職金という言葉は退職時などに受け取る給付を広く表し、代表的なものが退職一時金です。
企業年金は、公的年金に上乗せして企業が設ける老後所得のための制度です。
企業によって、
退職一時金だけ
企業年金だけ
両方を組み合わせる
など制度設計は異なります。
さらに企業年金にも、確定給付企業年金と企業型確定拠出年金などがあり、会社と社員が負う役割も違います。
これから人材の流動化が進めば、退職時に一度だけまとまった金額を受け取る従来型の制度から、転職しても老後資産を引き継ぎやすい制度へ変わっていく可能性があります。
そのため会社員にとって重要なのは、
退職金があるかないか
だけを確認することではありません。
退職一時金はいくらなのか。
企業年金はあるのか。
会社はいくら掛金を負担しているのか。
転職した場合に資産をどう引き継げるのか。
こうした制度全体を確認する必要があります。
給与だけでなく退職金と企業年金まで含めて見ることで、その会社が社員に提供している本当の生涯報酬が見えてきます。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日夕刊 退職金、なくなるの? 人材流動化で見直しも