育児などのために時短勤務を選ぶとき、「このままでは昇進できなくなるのではないか」と不安に感じる人は少なくありません。
1日8時間働いていた人が6時間勤務になれば、夕方の会議に出られなかったり、残業に対応できなかったりすることがあります。
その結果、
重要な仕事を任せてもらえない
管理職候補から外される
人事評価が下がる
といったことを心配するわけです。
しかし、勤務時間が短いことと、管理職として必要な能力が低いことは同じではありません。
時短勤務者を重要な戦力として活用するのであれば、「何時間働けるか」と「どのような成果を出せるか」を分けて考える必要があります。
時短勤務と人事評価
時短勤務者を評価するときに最も注意したいのが、勤務時間そのものを評価と混同することです。
例えば、
Aさんは1日8時間勤務
Bさんは1日6時間勤務
だったとします。
勤務時間だけを見れば、Aさんの方が2時間長く働いています。
しかし、それだけではどちらが高い成果を出しているのか分かりません。
Aさんが8時間で100の成果を出し、Bさんが6時間で100の成果を出している可能性もあります。
さらにBさんが限られた時間の中で仕事を効率化し、Aさんより大きな成果を上げることもあり得ます。
働いた時間と仕事の成果は別のものです。
時短勤務だから評価を下げるのは別問題
育児のための短時間勤務制度については、制度を利用したことを理由とする不利益な取り扱いが問題になります。
つまり、
時短勤務を選んだから評価を一律に下げる
時短勤務をしているから昇進対象から自動的に外す
という考え方には注意が必要です。
もちろん、実際の職務遂行能力や成果に差があれば、それを評価することはあります。
重要なのは、
成果が低かったから評価が下がった
のか、
時短勤務を利用したから評価が下がった
のかを分けることです。
時短勤務者にも、その人の職務や勤務時間に応じた適切な評価基準を設ける必要があります。
昇進には何が必要なのか
そもそも昇進は、労働時間の長さだけで決めるものではありません。
管理職であれば、
部下の育成
目標管理
意思決定
問題解決
他部署との調整
業務改善
など、さまざまな能力が求められます。
これらの能力は、
毎日8時間以上会社にいる
ことと同じではありません。
例えば、限られた時間の中で仕事の優先順位を判断し、部下へ適切に仕事を割り振り、チーム全体で成果を上げられる人なら、管理職として高い能力を持っている可能性があります。
むしろ時短勤務によって時間制約があるからこそ、効率的なマネジメント能力が磨かれることも考えられます。
重要業務から外すとキャリアが止まる
時短勤務者のキャリアで問題になりやすいのが、本人への配慮として重要な仕事から外してしまうことです。
例えば上司が、
子育て中だから負担をかけない方がよい
残業できないから大きな案件は任せない方がよい
出張が難しいだろうから担当から外そう
と考えたとします。
上司としては善意かもしれません。
しかし、それが何年も続けば、
重要な案件の経験がない
部下を持った経験がない
プロジェクトを率いた経験がない
という状態になります。
そして昇進を検討するときに、
管理職経験につながる実績が不足している
と判断される可能性があります。
本人を守るつもりの配慮が、結果としてキャリア形成を妨げることがあります。
本人に確認せず仕事を外さない
時短勤務者に仕事を任せるときには、
本人が何を希望しているのか
を確認することが重要です。
時短勤務を利用している人が全員、
責任の軽い仕事をしたい
と考えているわけではありません。
例えば、
午後4時には帰りたいが重要な案件は担当したい
残業はできないが管理職を目指したい
出張は難しいがプロジェクトリーダーはやりたい
という人もいます。
逆に、育児が特に大変な時期には仕事量を抑えたい人もいるでしょう。
必要なのは、会社側が一方的に判断することではありません。
本人の希望と職場の状況を確認しながら仕事を設計することです。
長時間労働を昇進条件にすると何が起きるのか
もし会社が事実上、
残業できる人
夜の会議に参加できる人
休日にも対応できる人
を管理職候補として評価していれば、時短勤務者は不利になります。
しかし、この評価方法には別の問題があります。
長時間働けることを管理職の条件にすると、
育児中の人
介護中の人
健康上長時間労働を避けたい人
などが管理職になりにくくなります。
その結果、会社が管理職候補として選べる人材の範囲も狭くなります。
人手不足の時代には、管理職についても「長時間働ける人」に限定しない仕組みが必要になります。
管理職自身が時短勤務する可能性もある
時短勤務というと、一般社員が利用する制度というイメージがあります。
しかし、
管理職になったら時短勤務はできない
という前提を置く必要はありません。
仕事の分担や権限委譲、情報共有などを工夫すれば、短時間勤務の管理職がチームを運営することも考えられます。
例えば、
自分しか判断できない仕事を減らす
部下へ権限を渡す
会議時間を短くする
情報を共有する
緊急時の代理者を決める
といった仕組みです。
これは時短管理職だけのための業務改善ではありません。
管理職が突然休んだ場合にも組織が動く仕組みになります。
時間ではなく成果を見るとはどういうことか
時短勤務者を適切に評価するためには、評価基準を明確にする必要があります。
例えば営業職なら、
担当企業の売上
新規顧客獲得
利益率
顧客満足
などがあります。
管理部門なら、
業務改善
処理の正確性
期限管理
社内への貢献
などを評価できます。
管理職なら、
チームの目標達成
部下の育成
離職率
業務効率
などを見ることができます。
こうした評価なら、
午後何時まで会社にいたか
ではなく、
任された役割をどこまで果たしたか
を見ることができます。
時短勤務者がいると仕事の設計も変わる
時短勤務者が重要な仕事を担当するには、組織側の工夫も必要です。
例えば重要な情報が、
午後6時からの会議
でしか共有されない会社では、午後4時までの社員は情報から取り残されます。
しかし、その会議が本当に午後6時でなければならないとは限りません。
会議を勤務時間内へ移す。
議事録を共有する。
チャットなどで情報を共有する。
意思決定の方法を明確にする。
こうした仕組みを整えれば、勤務時間が異なる人でも仕事を進めやすくなります。
時短勤務者を活用することが、結果として職場全体の働き方を改善するきっかけになります。
昇進を諦めると企業も人材を失う
時短勤務を選んだ社員が、
もう昇進できない
重要な仕事は任せてもらえない
と感じれば、仕事への意欲が低下する可能性があります。
場合によっては、
この会社ではキャリアを続けられない
と考えて転職するかもしれません。
企業から見ると、育児中だからという理由で能力のある社員を管理職候補から外すことは、自ら人材の選択肢を狭めることになります。
特に人手不足が深刻になるほど、これは大きな問題になります。
育児期間は職業人生の一部分
子育てのために時短勤務を利用する期間は、長い職業人生の一部分です。
例えば35歳から数年間時短勤務を利用しても、その後20年以上働く可能性があります。
その数年間に、
重要な仕事を経験できない
研修を受けられない
昇進候補から外れる
という状態になれば、その後のキャリアにも影響します。
だからこそ、
時短勤務中はキャリアを止める
のではなく、
働ける時間の中でキャリアを続ける
という考え方が重要になります。
結論
時短勤務をすると、必ず昇進できなくなるわけではありません。
勤務時間が短いことと、管理職として必要な能力が低いことは別の問題です。
重要なのは、
何時間働いたか
ではなく、
与えられた時間の中でどのような成果を上げたか
を適切に評価することです。
一方で、時短勤務者への配慮として重要な仕事から外し続ければ、結果として管理職に必要な経験を積めなくなる可能性があります。
善意の配慮がキャリア形成を妨げることもあるわけです。
人手不足が進む日本では、フルタイムで長時間働ける人だけを管理職候補にする企業ほど、人材の選択肢を狭めることになります。
時短勤務者を重要な戦力として活用するのであれば、
短く働く人をどう扱うか
だけではなく、
短く働きながらどう成長し、どう昇進できる仕組みを作るか
まで考える必要があります。
時短勤務とキャリア形成を両立できる会社ほど、多様な人材を長期的な戦力として活用できるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 「時短」勤務者は重要な戦力 人員確保に効果 管理職の意識変わる
厚生労働省 育児介護休業法のあらまし