商品やサービスを契約するとき、事業者から強い言葉で説明されると安心してしまうことがあります。
絶対に値上がりします。
必ず利益が出ます。
将来この金額で売却できます。
しかし、将来の価格や利益などは、その時点では確実に分からないことがあります。
それにもかかわらず、事業者が確実であるかのように説明し、消費者がそれを信じて契約してしまえば、適切な判断ができません。
そこで消費者契約法には、一定の場合に契約を取り消せる仕組みがあります。
それが断定的判断の提供による取消しです。
今回検討されているサブスクなどの解約妨害規制でも、不確実な事項について断定的な判断を提供して解約を思いとどまらせる行為を禁止する方向が示されています。
断定的判断の提供とは何か
断定的判断の提供とは、将来における変動が不確実な事項について、事業者が確実であるかのような断定的な判断を提供することです。
典型的にイメージしやすいのが、将来の価格や利益に関する説明です。
たとえば投資商品の勧誘で、
この商品は必ず値上がりします。
絶対に利益が出ます。
などと説明したとします。
投資商品の価格は市場環境などによって変動するため、将来の価格や利益を確実に予測することはできません。
それにもかかわらず確実であるかのような説明をすれば、消費者が将来について誤った認識を持つ可能性があります。
消費者がその説明を確実だと誤認し、それによって契約した場合には、一定の要件のもとで契約を取り消せる仕組みがあります。
不実告知とは何が違うのか
断定的判断の提供とよく似ているのが不実告知です。
ただし、両者には違いがあります。
不実告知では、現在や過去などについて事実と異なることを告げることが問題になります。
たとえば、本当は解約手数料が必要なのに、
解約手数料はかかりません。
と説明すれば、存在する契約条件について事実と異なる説明をしています。
一方、断定的判断の提供では、将来どうなるか分からないことについて確実であるかのように説明することが問題になります。
たとえば、
この商品の価格は来年必ず上がります。
という説明です。
来年の価格は現時点では確定していません。
そのため、現在存在する事実について嘘をつくこととは少し性質が異なります。
現在の事実について誤った情報を与えるのが不実告知。
将来の不確実なことについて確実だと思わせるのが断定的判断の提供。
このように整理すると違いが分かりやすくなります。
将来の予想を話すことがすべて禁止されるわけではない
事業者が将来について予想を話すこと自体が、すべて問題になるわけではありません。
ビジネスでは将来予測が必要になる場面が数多くあります。
市場が拡大すると予想しています。
価格が上昇する可能性があります。
一定の条件が続けば利益が増えると考えています。
こうした説明では、あくまで予測や可能性であることが示されています。
将来の不確実性を残した説明です。
これに対して、
必ず値上がりします。
確実に利益が出ます。
絶対に損をしません。
などと説明すれば、消費者は将来の結果が保証されているかのように受け取る可能性があります。
問題なのは将来について説明することではなく、不確実なものを確実なものとして消費者に認識させることなのです。
なぜ消費者が保護されるのか
将来については誰にも分からないのだから、消費者も疑って聞けばよいという考え方もあります。
しかし、事業者と消費者では持っている情報や専門知識に差があります。
たとえば金融商品の販売担当者から、
専門家として断言できます。
必ず値上がりします。
と言われれば、金融知識の少ない消費者が信じてしまう可能性があります。
事業者は商品やサービスについて詳しい立場にあります。
その専門性や情報量を背景として断定的な説明をすれば、消費者の判断に大きな影響を与えることがあります。
そこで消費者契約法では、一定の断定的判断によって消費者が誤認して契約した場合に、取消しを認める仕組みを設けています。
サブスクの解約でも問題になる
断定的判断の提供というと、投資商品の勧誘を思い浮かべやすいかもしれません。
しかし今回検討されている消費者契約法の見直しでは、サブスクなど継続的な契約の解約場面についても、この考え方が重要になります。
たとえばスポーツジムを解約しようとしている利用者に対して、
来月からこの地域では必ず料金が大幅に上がるので、今解約すると絶対に損です。
などと説明したとします。
しかし、その値上げが確定しているわけではなかったとしたらどうでしょうか。
消費者は将来の不確実な情報を確実なものだと思い込み、解約をやめる可能性があります。
契約時に不確実なことを断定して契約させる行為が問題なら、解約時に不確実なことを断定して契約を続けさせる行為についても問題になるという考え方です。
契約時と解約時は表裏の関係にある
これまで消費者保護では、契約を結ぶ場面が特に重視されてきました。
事業者がどのように勧誘したのか。
重要な情報を正しく説明したのか。
消費者を困惑させなかったのか。
こうした点です。
しかしサブスクのような継続契約では、解約するときにも事業者と消費者の間で情報のやり取りが発生します。
契約するときに、
必ず得をします。
と言って契約させることと、
解約すると必ず損をします。
と言って解約を思いとどまらせることは、方向こそ逆ですが、消費者の判断を不適切な情報によって左右するという点では共通しています。
契約時と解約時は表裏の関係にあるわけです。
解約を引き留めること自体が禁止されるわけではない
ここで注意したいのは、事業者が解約を思いとどまるよう提案すること自体が、すべて禁止されるわけではないということです。
サブスクでは、解約を希望する利用者に対して別の料金プランを紹介したり、一時休止制度を案内したりすることがあります。
スポーツジムであれば、
退会ではなく休会制度もあります。
と案内することも考えられます。
こうした選択肢を正確に説明し、最終的な判断を消費者に委ねるのであれば、不当な解約妨害とは性質が異なります。
問題になるのは、不確実なことを確実だと説明するなどして、消費者の判断をゆがめることです。
事業者による通常の顧客維持活動と、不当な解約妨害との境界をどこに置くのかは、今後の制度設計でも重要なポイントになります。
消費者が判断できる環境を守る
不実告知や断定的判断の提供に関する規制の根底には、共通する考え方があります。
それは、事業者が消費者の代わりに判断するのではなく、正しい情報を提供したうえで消費者自身が判断できる環境を確保することです。
将来のことが分からないのであれば、
分からない。
可能性がある。
予測である。
という不確実性を残した情報として伝える必要があります。
そのうえで契約するか、契約を続けるか、解約するかを消費者が決めます。
今回のサブスク解約妨害規制も、単に解約を簡単にするという問題だけではありません。
消費者が正確な情報をもとに自由に意思決定できる環境を守るという、消費者契約法の基本的な考え方につながっています。
結論
断定的判断の提供とは、将来における変動が不確実な事項について、事業者が確実であるかのような判断を消費者に示すことです。
不実告知が事実と異なる情報を伝える問題であるのに対し、断定的判断の提供では、将来どうなるか分からないことを確実だと思わせることが問題になります。
将来について予測を示すこと自体が禁止されているわけではありません。
重要なのは、不確実なものを不確実なものとして説明することです。
そしてこの考え方は、契約するときだけの問題ではなくなろうとしています。
サブスクなど継続的な契約について、解約時に不確実な事項について断定的な判断を提供し、消費者の解約を妨害する行為を禁止する方向で検討が進められています。
契約させるために将来を断定してはいけない。
そして、解約させないためにも将来を断定してはいけない。
消費者が契約の入口から出口まで、自分自身で判断できる環境を守ることが、これからの消費者保護ではますます重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 サブスク解約妨害を禁止 消費者庁、法改正へ
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 消費者契約法 不当な勧誘・契約から保護