為替介入の財源はどこから出るのか 政府が数兆円規模のドル売りをすぐ実行できる理由編

政策

政府が為替介入を行うときには、数兆円から十数兆円という巨額のお金が動くことがあります。

これほど大きなお金を政府はどこから用意しているのでしょうか。

一般会計の予算から急きょ数兆円を取り出しているわけではありません。

為替介入には、外国為替資金特別会計という専用の仕組みがあります。

そして円を買う介入なのか、円を売る介入なのかによって、用意する資金が異なります。

円安を抑えるための円買いドル売り介入では、政府がすでに保有している外貨準備を利用します。

一方、円高を抑えるための円売りドル買い介入では、政府短期証券を発行するなどして円資金を調達します。

この仕組みがあるため、政府は一般会計で新たに数兆円の予算を組まなくても、大規模な為替介入を実施できるのです。

円買い介入ではドルが必要になる

急激な円安が進んだ場合、政府は円買いドル売り介入を行うことがあります。

文字通り、

ドルを売る

円を買う

という取引です。

例えば1ドル150円のときに政府が150億ドルを売ったとします。

単純計算では2兆2500億円の円を買うことになります。

この場合、政府が最初に必要とするのは円ではありません。

売却するドルです。

では政府は、そのドルをどこから用意するのでしょうか。

ここで使われるのが外貨準備です。

円買い介入では外貨準備を使う

日本政府は外国為替資金特別会計を通じて、巨額の外貨資産を保有しています。

その中心となっているのが米国債などのドル建て資産です。

円買いドル売り介入では、こうした外貨準備を利用します。

流れを単純化すると、

政府が保有するドル資産を用意する

外国為替市場でドルを売る

代わりに円を買う

という形になります。

つまり円安を抑える介入では、過去から積み上げてきた外貨準備が介入原資になります。

なぜ巨額のドルをすぐ用意できるのか

政府が大規模な円買い介入を実施できるのは、すでに巨額の外貨準備を持っているからです。

外貨準備の中心は安全性と流動性を重視して運用されています。

ここで流動性が重要になります。

外貨資産を100兆円持っていても、必要なときに売却できなければ為替介入には使いにくくなります。

そのため外貨準備では、米国債など巨大な市場で取引される資産が重要になります。

必要なときに大きな金額を動かせるようにしているのです。

円買い介入をすると外貨準備は減る

円買いドル売り介入では、政府が保有するドルを市場で売ります。

そのため介入を行えば、基本的には外貨準備が減少します。

例えば政府が100兆円相当の外貨準備を持っている状態で、10兆円相当の外貨を売却したとします。

単純化すれば、外貨資産はその分減ります。

もちろん実際の外貨準備の評価額は為替や金利などでも変動するため、残高がそのまま10兆円減るとは限りません。

しかし円買い介入が外貨準備を取り崩して行われるという基本構造は重要です。

円買い介入を無限に続けられるわけではない理由でもあります。

円売り介入では円が必要になる

反対に急激な円高が進んだ場合には、円売りドル買い介入が行われることがあります。

この場合は、

円を売る

ドルを買う

という取引です。

そのため政府は最初に大量の円を用意する必要があります。

例えば10兆円規模の円売り介入を行うのであれば、10兆円規模の円資金が必要になります。

この円を一般会計の税収から持ってくるわけではありません。

政府短期証券を発行するなどして調達します。

政府短期証券で円を調達する

政府短期証券は、政府が短期間の資金を調達するために発行する証券です。

円売りドル買い介入では、この仕組みを使って円資金を調達します。

流れを単純化すると、

政府短期証券を発行する

投資家などから円を調達する

その円を外国為替市場で売る

ドルを買う

という形になります。

この結果、外為特会の資産側にはドル建て資産が増えます。

一方、負債側には政府短期証券が残ります。

つまり円売り介入では、借り入れに近い形で円を調達して外貨資産を取得する構造になっています。

買ったドルは外貨準備になる

円売りドル買い介入によって取得したドルは、その場で消えるわけではありません。

政府の外貨資産として残ります。

そして安全性と流動性を重視しながら、米国債などで運用されます。

日本が巨額の外貨準備を持っている背景には、過去の円売りドル買い介入があります。

円高になる

政府が円を調達する

円を売ってドルを買う

ドルが外貨準備として残る

という取引が積み重なった結果です。

現在の巨額の外貨準備は、将来の円買い介入に利用できる資産でもあります。

円売り介入と円買い介入は逆の取引になる

二つの介入を並べると仕組みが分かりやすくなります。

円売りドル買い介入では、政府短期証券などで円を調達し、その円を売ってドルを買います。

その結果、外貨準備が増えます。

反対に円買いドル売り介入では、保有しているドルを売って円を買います。

その結果、外貨準備が減ります。

過去の円売り介入で積み上げた外貨資産を、その後の円買い介入で取り崩すことができます。

二つは反対方向の取引なのです。

円買い介入で得た円はどうなるのか

円買いドル売り介入を行うと、政府は大量の円を受け取ります。

例えば10兆円相当のドルを売れば、単純化すれば10兆円の円が政府側へ入ります。

この10兆円を見ると、

政府に10兆円の収入が入った

ように感じるかもしれません。

しかし、その円は自由に使える税外収入ではありません。

過去の円売りドル買い介入では、政府短期証券を発行するなどして円を調達しています。

そのため円買いドル売り介入によって得た円は、政府短期証券の償還に充てる仕組みになっています。

一般会計の予算とは違う

為替介入を理解するときに重要なのが、一般会計との違いです。

一般会計では、

税収

国債発行収入

その他の収入

などを財源として、社会保障、防衛、教育、公共事業などの支出を行います。

為替介入は、こうした一般的な歳出とは異なります。

外国為替資金特別会計の中で外貨資産と政府短期証券などを使いながら行われます。

そのため政府が10兆円規模の為替介入を行ったからといって、

一般会計から10兆円を支出した

という意味ではありません。

なぜ補正予算を組まなくても介入できるのか

政府が突然大規模な為替介入を行えることに驚く人もいるかもしれません。

通常、政府が新しい政策に数兆円を使うのであれば、予算措置が大きな問題になります。

しかし為替介入では、外為特会という専用の資金管理の仕組みがあります。

円買い介入なら既存の外貨準備を使います。

円売り介入なら政府短期証券などによって円を調達します。

そのため通常の政策支出のように、

税収から数兆円を確保する

新たに赤字国債を数兆円発行する

といった形で一般会計の財源を用意する必要はありません。

これが政府が迅速に為替介入を実施できる理由の一つです。

円売り介入は無制限にできるのか

円売りドル買い介入では、政府短期証券などによって円を調達できます。

そのため円買い介入と比べると、外貨準備の残高そのものが直接の上限になるわけではありません。

しかし、だからといって無制限に介入できるわけではありません。

介入規模が大きくなれば、政府短期証券などの負債も増えます。

さらに取得する外貨資産も増え、為替変動リスクや金利変動リスクも大きくなります。

国際的な政策協調や市場への影響も考える必要があります。

資金を調達できることと、政策として無制限に実施できることは別問題です。

円買い介入には外貨準備という制約がある

円買いドル売り介入では、政府が保有しているドルを売ります。

そのため外貨準備が重要な制約になります。

外貨準備が十分にあれば大規模な介入ができます。

しかし介入を続ければ外貨準備は減っていきます。

市場参加者が、

政府が使えるドルが少なくなっている

と判断すれば、介入のけん制効果にも影響する可能性があります。

日本が巨額の外貨準備を保有することには、円安局面で政策対応できる余力を確保する意味があるのです。

為替介入の資金と減税財源は分けて考える

外為特会には100兆円を超える外貨資産があります。

そのため、

これだけ資産があるなら減税にも使えるのではないか

という議論が生まれます。

しかし外貨準備は、為替介入など外国為替政策を行うための資産です。

さらにその裏側には政府短期証券などの負債があります。

円買い介入によって外貨を売却して得た円も、政府短期証券の償還との関係があります。

したがって為替介入に使える資金が100兆円規模で存在することと、一般会計で100兆円を自由に使えることはまったく同じではありません。

結論

政府が数兆円から十数兆円規模の為替介入を迅速に実施できるのは、外国為替資金特別会計という専用の仕組みがあるからです。

円安を抑える円買いドル売り介入では、政府がすでに保有している外貨準備を利用します。

米国債などのドル建て資産を売り、そのドルで円を買います。

そのため円買い介入を行えば、外貨準備は減少する方向に動きます。

反対に円高を抑える円売りドル買い介入では、政府短期証券を発行するなどして円資金を調達し、その円を売ってドルを買います。

取得したドルは外貨準備として残ります。

つまり、

円売り介入では政府短期証券を使って円を調達する

円買い介入では外貨準備を使ってドルを売る

という違いがあります。

この仕組みがあるため、政府は一般会計からその都度数兆円を支出しなくても、大規模な為替介入を行うことができます。

一方、為替介入で動く巨額のお金は、政府が自由に使える財源ではありません。

外貨準備という資産と政府短期証券という負債が対応する仕組みの中で動いています。

為替介入の規模が大きいからといって、同じ金額を減税や社会保障などに使えるわけではないのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 「外為特会で減税」は悪手

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