国債の商品説明を見ると、「表面利率」と「応募者利回り」という二つの数字が掲載されていることがあります。
例えば2026年8月募集の新窓販国債10年では、表面利率は年2.7パーセントでした。
ところが応募者利回りは年2.788パーセントです。
同じ国債なのに、なぜ二つの金利が存在するのでしょうか。
理由は、国債の購入価格が必ずしも額面金額と同じではないからです。
この国債の場合、額面100円に対する募集価格は99円32銭でした。満期には100円で償還されます。
つまり投資家は100円の国債を99円32銭で購入し、保有中に年2.7パーセントの利子を受け取り、満期には100円を受け取ります。
この購入価格と償還金額との差まで含めて計算した収益率が応募者利回りです。
国債を比較するときには、表面利率だけでなく実際の投資収益を示す利回りを見ることが重要です。
表面利率とは何か
表面利率とは、国債の額面金額に対して毎年どれだけの利子が支払われるのかを示す割合です。
クーポンレートとも呼ばれます。
例えば額面100万円、表面利率年2パーセントの国債を考えます。
税金を考慮しなければ、1年間に受け取る利子は2万円です。
100万円に2パーセントを掛けるからです。
重要なのは、表面利率の計算では実際の購入価格ではなく額面金額が基準になることです。
国債を98万円で購入したとしても、額面100万円、表面利率年2パーセントなら年間の税引前利子は2万円です。
購入価格が変わったからといって、表面利率そのものが変わるわけではありません。
額面金額とは何か
額面金額とは、債券の元本として表示される金額です。
国債では満期になると、原則としてこの額面金額が償還されます。
例えば額面100万円の国債なら、国が約束通り償還することを前提とすれば満期に100万円が返ってきます。
しかし、額面100万円だからといって、必ず100万円で購入するとは限りません。
99万円で購入する場合もあれば、101万円で購入する場合もあります。
この違いが、表面利率と実際の利回りに差が生まれる原因になります。
募集価格とは何か
新窓販国債には募集価格があります。
例えば額面100円につき99円32銭という表示です。
これは額面100円分の国債を99円32銭で購入できるという意味です。
額面100万円に置き換えて単純化すると、99万3200円で額面100万円分を購入するイメージです。
一方、額面100円につき100円45銭なら、額面100万円分を100万4500円で購入するイメージになります。
このように募集価格は、
100円より安い
100円と同じ
100円より高い
という三つの場合があります。
購入価格が額面金額と違えば、実際の収益率も表面利率とは違ってきます。
100円より安く買うと満期に差益が生まれる
額面100円の国債を99円で購入したとします。
満期には100円で償還されます。
すると1円の差があります。
投資家は99円を支払って、最終的に100円を受け取ることになります。
もちろん、その間には国債の表面利率に応じた利子も受け取ります。
したがって投資家の収益は、
保有期間中に受け取る利子
購入価格と償還金額との差
という二つから構成されます。
この二つを考慮しなければ、本当の収益率は分かりません。
2026年8月の新窓販国債10年で考える
具体的な数字を見ると理解しやすくなります。
2026年8月募集の新窓販国債10年は、表面利率が年2.7パーセントでした。
募集価格は額面100円につき99円32銭です。
そして満期の償還金額は額面100円につき100円です。
つまり99円32銭を支払って額面100円分の国債を購入します。
保有中には額面100円に対して年2.7パーセントの利子を受け取ります。
さらに満期には100円が償還されます。
購入価格99円32銭と償還金額100円の間には68銭の差があります。
この償還差益も考慮するため、応募者利回りは表面利率の年2.7パーセントより高い年2.788パーセントとなっていました。
表面利率だけを見ていると、この違いを把握できません。
なぜ年2.7パーセントが年2.788パーセントになるのか
単純に考えると、
99円32銭で購入する
毎年2.7円相当の利子を受け取る
満期に100円を受け取る
という投資です。
投資家が最初に支払う金額は100円ではなく99円32銭です。
それにもかかわらず、利子は額面100円を基準として支払われます。
さらに満期には購入価格より高い100円が戻ってきます。
そのため実際の投資額に対する収益率は表面利率より高くなります。
ただし、68銭の差額を1年間で受け取れるわけではありません。
10年物であれば満期までの期間を考慮して年率換算する必要があります。
こうした利子と償還差益をまとめて計算したものが利回りです。
100円より高く買えば反対になる
反対に、額面100円の国債を100円より高く購入する場合もあります。
実際に2026年8月募集の新窓販国債5年は、表面利率が年2.2パーセントでした。
募集価格は額面100円につき100円45銭です。
満期の償還金額は100円です。
つまり100円45銭を支払って購入しても、満期に償還される元本は100円です。
45銭分は償還時には戻りません。
そのため保有期間中に年2.2パーセントの利子を受け取っても、この償還差損を考慮すると実際の利回りは低くなります。
このときの応募者利回りは年2.096パーセントでした。
表面利率年2.2パーセントより低くなっています。
表面利率が高い国債が必ず有利とは限らない
ここから重要なことが分かります。
二つの国債を比較するとき、
A国債の表面利率は年2.5パーセント
B国債の表面利率は年2.3パーセント
だからA国債の方が必ず有利とは限りません。
購入価格が違う可能性があるからです。
A国債を額面100円につき101円で購入しなければならず、B国債を99円で購入できるのであれば、実際の利回りの関係は表面利率だけでは判断できません。
投資家が実際にいくら支払い、保有中にいくら利子を受け取り、満期にいくら戻ってくるのかを考える必要があります。
その結果を年率で表した数字が利回りです。
表面利率は利子を計算するための数字
表面利率と応募者利回りは役割が違います。
表面利率は「毎回いくら利子を受け取れるか」を計算するときに使う数字です。
応募者利回りは「購入価格から満期まで保有した場合、実際にはどの程度の収益率になるか」を考える数字です。
例えば額面100万円、表面利率年2パーセントなら、年間の税引前利子は2万円です。
購入価格が98万円だから年間利子が1万9600円になるわけではありません。
利子は額面100万円を基準に計算されます。
一方、投資収益率を考えるときには98万円で購入したことが重要になります。
同じ国債を安く購入できれば、投資した金額に対する収益率は高くなるからです。
個人向け国債では違いを意識しにくい
個人向け国債では、この違いをあまり意識する必要がありません。
個人向け国債は額面100円につき100円で購入し、償還金額も100円です。
購入価格と額面金額が同じだからです。
そのため、財務省も個人向け国債について応募者利回りは表面利率と同じとしています。
一方、新窓販国債では募集価格が100円より高くなったり低くなったりします。
そのため表面利率と応募者利回りが異なることがあります。
この違いは、新窓販国債を理解するうえで重要です。
途中で売却する場合は応募者利回りも確定しない
さらに注意したいことがあります。
募集時に表示される応募者利回りは、基本的に満期まで保有することを前提として考える数字です。
途中で売却すれば、そのときの市場価格によって実際の収益が変わります。
例えば99円32銭で購入した国債を、市場金利上昇によって95円で売却したとします。
満期まで保有すれば100円で償還される予定だったとしても、途中で95円で売れば価格下落による損失が発生します。
反対に市場金利が低下し、103円で売却できれば売却益が生じる可能性があります。
したがって応募者利回りが高いからといって、途中売却してもその利回りが保証されているわけではありません。
利回りを見ると債券を比較しやすくなる
債券にはさまざまな表面利率と購入価格があります。
そのままではどの商品が有利なのか比較しにくくなります。
そこで利回りという共通の物差しを使います。
例えば、
表面利率は高いが購入価格も高い国債
表面利率は低いが購入価格が安い国債
を比較するとき、表面利率だけでは判断できません。
利回りを見ることで、購入価格や満期までの収益を考慮した比較がしやすくなります。
債券投資では「何パーセントの利子が付くか」だけでなく、「いくらで買うのか」が非常に重要なのです。
結論
表面利率と応募者利回りは、どちらもパーセントで表示されますが意味は異なります。
表面利率は、額面金額に対して毎年どれだけの利子を受け取れるのかを示す数字です。
一方、応募者利回りは、実際の購入価格と保有中に受け取る利子、満期時の償還金額などを考慮した投資収益率です。
額面100円の国債を100円より安く購入できれば、満期に100円で償還される際に償還差益が生じます。
そのため応募者利回りは表面利率より高くなることがあります。
反対に100円より高く購入すれば、満期には100円しか戻らないため償還差損が生じ、応募者利回りは表面利率より低くなることがあります。
2026年8月募集の新窓販国債10年では、表面利率年2.7パーセントに対して募集価格は額面100円につき99円32銭、応募者利回りは年2.788パーセントでした。
債券を比較するときに見るべきなのは、表面に書かれた金利だけではありません。
いくらで購入し、どれだけ利子を受け取り、満期にいくら戻ってくるのか。
その全体を見るための数字が利回りなのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 <ステップアップ>「変動10年」金利上昇に強く 中途売却でも元本確保
財務省 現在募集中の個人向け国債・新窓販国債