おせち料理や中元、歳暮などでは、カタログを見て商品を申し込み、後日商品を受け取る販売方法が広く使われています。
このような通信販売では、カタログを作った日、消費者が申し込んだ日、代金を支払った日、商品が届いた日がそれぞれ異なることがあります。
普段は、この時間差をあまり意識する必要はありません。
ところが、その途中で消費税率が変更されると問題が生じます。
2027年4月1日から食料品の消費税率が8%から1%へ引き下げられる場合、税率変更前に配布したカタログに8%を前提とした価格が掲載されていても、実際の商品発送や引き渡しは4月以降になる可能性があります。
そこで政府は、一定の条件を満たすカタログ販売について、2027年4月1日以降の商品にも旧税率の8%を適用できる経過措置を検討しています。
なぜ、税率が1%になった後も8%を使うのでしょうか。
通信販売特有の仕組みから考えてみます。
通信販売とは何か
通信販売とは、店舗で消費者と対面して商品を販売するのではなく、カタログやインターネットなどを通じて商品や販売条件を示し、消費者から申し込みを受けて商品を販売する方法です。
カタログ販売は、その典型です。
事業者はあらかじめ、
商品の内容
販売価格
送料
支払方法
申込方法
配送条件
などを決め、消費者に提示します。
消費者はその条件を確認したうえで申し込みます。
スーパーで食品を購入する場合には、商品を選び、代金を支払い、商品を持ち帰るまでが短時間で完結します。
これに対して通信販売では、販売条件を提示してから実際の商品引き渡しまでに長い時間が空くことがあります。
この時間差が、消費税率変更時の問題につながります。
販売条件を提示するとは何か
通信販売の経過措置を理解するときに重要になるのが、事業者がいつ販売条件を提示したのかという点です。
販売条件とは、単に商品名を広告したというだけではありません。
どの商品を、どのような価格や条件で販売するのかを消費者に示すことです。
たとえば、お歳暮のカタログに、
商品内容
税込価格
申込期限
配送時期
などが掲載されているとします。
消費者は、そのカタログに掲載された条件を前提として購入を検討します。
つまりカタログを作成して配布した段階で、事業者側の販売条件はかなり具体的に決まっています。
税率が変更されるからといって、すでに配布したカタログをすべて回収して作り直すのは簡単ではありません。
ここに通信販売の経過措置が必要になる理由があります。
指定日前のカタログが重要になる理由
今回検討されている食料品の消費税率引き下げでは、2027年1月1日を指定日とする案があります。
カタログ販売については、この指定日より前に価格などの販売条件を提示していることが、経過措置を考えるうえで重要になります。
たとえば2026年12月に、食品のカタログを消費者へ配布したとします。
カタログには8%の消費税率を前提とした販売価格が掲載されています。
その後、2027年4月1日から食料品の税率が1%へ下がります。
もし4月以降に発送する商品をすべて1%に変更しなければならないとすると、すでに提示した販売条件との調整が必要になります。
そこで指定日前に一定の販売条件を提示していた通信販売について、経過措置を設けることが検討されています。
指定日には、税率変更直前に旧税率を前提とした販売条件を新たに大量に作ることを防ぎながら、それ以前から動いている取引を保護する境界線という意味があります。
過去の税率変更でも通信販売には経過措置があった
通信販売に経過措置を設ける考え方は、今回初めて登場したものではありません。
過去に消費税率が引き上げられた際にも、通信販売について経過措置が設けられました。
一定の要件を満たす場合には、税率変更後に商品を販売しても旧税率を適用する仕組みです。
通信販売では、事業者がかなり前から販売条件を決め、カタログなどを作成します。
印刷されたカタログは全国へ大量に配布されることもあります。
税率変更日を境にすべてを一斉に作り直すことには、大きなコストがかかります。
そのため、税率変更前から一定の条件で進められていた通信販売について、旧税率を認める仕組みが設けられてきたのです。
今回は旧税率のほうが高い
ただし、今回の経過措置には過去の増税時とは大きな違いがあります。
税率が上がるのではなく、下がるからです。
増税時には、経過措置によって旧税率が適用されれば、消費者にとって税負担が軽くなる場合がありました。
今回は逆です。
食料品の税率が8%から1%へ下がるため、
旧税率は8%
新税率は1%
となります。
経過措置によって旧税率が適用されると、消費者は1%ではなく8%を負担することになります。
そのため、なぜ税率が下がった後に買った商品なのに8%なのかという疑問が生じやすくなります。
申込日も重要になる
カタログを指定日前に配布していれば、いつ申し込んでも旧税率になるわけではありません。
今回の政府案では、2027年1月1日より前に価格などの条件を提示しており、税率が下がる2027年4月1日までに消費者が申し込んだ場合について、旧税率の8%を適用することが検討されています。
つまり、
販売条件をいつ提示したのか
消費者がいつ申し込んだのか
という二つの時点が重要になります。
たとえば2026年12月にカタログが配布され、2027年3月20日に消費者が申し込んだとします。
商品が届くのは2027年4月10日です。
一定の要件を満たせば、商品到着時にはすでに税率が1%になっていても、旧税率の8%を適用することになります。
4月1日以降の申し込みなら1%になる
一方、同じカタログを見ていたとしても、申し込みが2027年4月1日以降になれば扱いが変わります。
政府案では、4月1日以降に申し込んだ場合には新税率の1%を適用する方向です。
たとえば同じ2026年12月発行のカタログを使って、
Aさんは2027年3月30日に申し込む
Bさんは2027年4月2日に申し込む
というケースを考えてみます。
商品が同じで、受取日も同じだったとしても、経過措置の要件によって適用税率が異なる可能性があります。
Aさんには8%、Bさんには1%ということが起こり得るわけです。
商品そのものではなく、申し込んだ時期によって税率が変わるところが経過措置の難しさです。
商品発送日だけでは判断できない
通信販売では商品発送日も重要に見えます。
しかし経過措置がある場合には、発送日だけを見て税率を判断することはできません。
たとえば商品を2027年4月10日に発送したとします。
通常であれば、税率変更後の取引なので新税率の1%が問題になります。
ところが、
指定日前に販売条件を提示していた
施行日前に申し込みを受けていた
経過措置のその他の要件を満たしている
という場合には、例外的に8%が適用される可能性があります。
つまり通信販売では、
販売条件の提示日
申込日
商品発送日や引渡し日
税率変更日
指定日
という複数の日付を確認する必要があります。
なぜカタログを作り直せば済む話ではないのか
それなら税率変更に合わせてカタログを作り直せばよいのではないかと思うかもしれません。
しかし大規模な通信販売では、それほど簡単ではありません。
カタログには商品の写真、説明、価格、注文番号、配送条件など多くの情報が掲載されています。
制作には長い時間がかかります。
印刷後には全国の顧客へ発送したり、店舗などへ設置したりします。
税率変更の直前になって、
価格を変更する
印刷し直す
古いカタログを回収する
新しいカタログを再配送する
注文システムを変更する
といった作業をすれば、大きな費用と事務負担が発生します。
経過措置には、こうした税率変更に伴う社会全体の事務コストを抑える役割があります。
インターネット通販では事情が変わる
現在の通信販売では、紙のカタログだけでなくインターネット通販が大きな割合を占めています。
インターネット上の商品価格は、紙のカタログに比べれば変更しやすいという特徴があります。
そのため、通信販売という言葉だけを見て、すべてのネット通販に自動的に経過措置が適用されると考えるのは適切ではありません。
実際の適用については、最終的に決められる制度の対象取引や要件を確認する必要があります。
紙のカタログ、ウェブサイト、定期購入など販売方法が多様化している現在では、どこまでを経過措置の対象とするのかという制度設計も重要になります。
消費者への説明も難しくなる
経過措置によって事業者の事務負担を軽減できても、別の問題が生じます。
消費者への説明です。
2027年4月以降、食料品の税率は原則1%になります。
それなのに届いた商品を見ると8%になっている。
消費者からすれば、
計算を間違えているのではないか
本当は1%ではないのか
なぜ同じ商品なのに税率が違うのか
と疑問を持つ可能性があります。
事業者は、単に税率を表示するだけでなく、その取引が経過措置の対象であることを分かりやすく説明する必要が出てきます。
税率変更時には、システム対応だけでなく顧客対応も大きな課題になるのです。
経過措置は実務負担と公平性の調整になる
通信販売の経過措置を見ると、税制変更の難しさがよく分かります。
すべての商品を2027年4月1日から1%にすれば、消費者には分かりやすくなります。
しかし、事業者には既存のカタログや契約を変更する大きな負担が生じます。
反対に旧税率を広く残せば、事業者の負担は減ります。
しかし、消費者によって8%と1%が混在し、減税の恩恵にも差が生じます。
どちらか一方だけを優先することは難しいのです。
経過措置とは、既存取引の安定、事業者の実務負担、消費者の公平性という複数の問題を調整するための仕組みでもあります。
結論
通信販売の経過措置とは、税率変更前から一定の販売条件を提示していた取引について、一定の要件を満たせば税率変更後も旧税率を適用する仕組みです。
今回検討されている食料品の消費税率引き下げでは、2027年1月1日を指定日とし、それより前に価格などの販売条件を提示していたカタログ販売について、2027年4月1日までに申し込みがあれば旧税率の8%を適用する案があります。
商品が4月以降に発送されたという事実だけで、必ず1%になるわけではありません。
販売条件をいつ提示したのか。
消費者がいつ申し込んだのか。
経過措置の要件を満たしているのか。
こうした点によって適用税率が変わります。
通信販売では、事業者が商品を発送するかなり前からカタログを作成し、価格などの販売条件を提示しています。
税率変更のたびに既存のカタログや注文システムをすべて変更すれば、事業者には大きな負担がかかります。
その負担を抑えるために経過措置が設けられます。
一方で今回は8%から1%への減税です。
経過措置を利用すると、同じ商品を同じ時期に受け取っても、申し込み時期などによって8%と1%に分かれる可能性があります。
通信販売の経過措置は、税率変更を円滑に進めるための仕組みであると同時に、税制を複雑にする仕組みでもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月27日 朝刊 食品定期便に経過措置 消費税下げ3カ月前まで 先行契約なら8%適用可
国税庁 消費税率等に関する経過措置について