高齢者救急とは何か 2040年に救急医療の仕組みを変える必要がある理由編

人生100年時代
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救急医療というと、交通事故や心筋梗塞、脳卒中など、突然発生した重い病気やけがを治療する医療をイメージしやすいかもしれません。

しかし2040年に向けて、日本の救急医療では別の大きな変化が起こります。

85歳以上を中心とする高齢者の増加です。

高齢者は一つの病気だけを抱えているとは限りません。

心臓病、糖尿病、腎臓病、認知機能の低下など複数の問題を抱えながら生活している人が、肺炎や転倒、脱水などをきっかけに救急搬送されるケースが増えていきます。

こうした患者に必要なのは、高度な急性期治療だけとは限りません。

短期間の治療に加え、早期のリハビリや在宅復帰、介護との連携まで含めた医療が重要になります。

2040年の地域医療では、高齢者救急をどの病院がどのように受け入れるのかが大きなテーマになるのです。

高齢者救急とは何か

高齢者救急とは、高齢者が急な病気やけがなどによって救急医療を必要とすることを指します。

高齢者だけを対象とする特別な救急制度が一つ存在するという意味ではありません。

重要なのは、高齢者の救急患者には若い患者とは異なる特徴が多くあることです。

高齢になるほど複数の慢性疾患を抱える人が増えます。

身体機能も低下します。

服用している薬の種類が多い場合もあります。

さらに認知機能や生活環境、介護の状況などが治療後の生活に大きく関係します。

単に救急外来で病気を治療すれば問題が解決するとは限らないのです。

若い患者の救急との違い

若い患者が骨折して救急搬送された場合を考えてみます。

手術など必要な治療を受け、状態が改善すれば比較的早く元の生活へ戻れる場合があります。

一方、高齢者では同じ骨折でも状況が異なることがあります。

入院によって長期間ベッドで過ごせば、筋力が急速に低下することがあります。

治療そのものは成功しても、以前のように歩けなくなる可能性があります。

さらに認知機能が低下したり、退院後に一人で生活することが難しくなったりする場合もあります。

救急医療の目的が、病気やけがを治すだけでは済まなくなるのです。

高齢者は複数の疾患を抱えやすい

高齢者救急の大きな特徴が複数疾患です。

たとえば肺炎で救急搬送された患者がいるとします。

肺炎だけを治療すればよいとは限りません。

心不全を抱えているかもしれません。

糖尿病があるかもしれません。

腎機能が低下している場合もあります。

認知症によって治療内容を理解することが難しい場合もあります。

複数の疾患や身体機能を総合的に考えながら治療する必要があります。

一つの臓器や病気だけを専門的に治療する医療とは異なる対応が求められます。

転倒や肺炎などが大きな問題になる

高齢者の救急では、若い人なら大きな問題にならない出来事が入院につながることがあります。

代表的なのが転倒です。

高齢者は骨が弱くなっている場合があり、転倒によって骨折する可能性が高まります。

肺炎や尿路感染症などの感染症もあります。

脱水や食欲不振によって全身状態が悪化することもあります。

こうした患者が増えれば、救急搬送件数や入院需要にも影響します。

人口全体が減少するからといって、救急医療の需要も同じ割合で減るとは限らないのです。

2040年に85歳以上が重要になる理由

2040年の医療を考えるうえでは、単純な総人口だけを見ることはできません。

日本全体の人口は減少していきます。

一方で高齢者の中でも、医療や介護を必要とする可能性が高い85歳以上の人口動向が重要になります。

同じ100万人の人口でも、若い人が多い地域と85歳以上が多い地域では必要となる医療が違います。

85歳以上の人が増えれば、救急搬送後に急性期治療だけでは完結しない患者も増えると考えられます。

治療。

リハビリ。

退院支援。

在宅医療。

介護。

こうしたサービスを連続して提供できる体制が必要になります。

高度な急性期医療が必要とは限らない

救急車で運ばれた患者だからといって、すべての患者が高度急性期病床での治療を必要とするわけではありません。

重篤な心筋梗塞や脳卒中、大きな手術が必要な患者などには、高度な医療資源を集中的に投入する必要があります。

一方、高齢者の中には肺炎や軽度の心不全、脱水など、一定の急性期治療は必要でも、高度な専門治療を常に必要とするわけではない患者もいます。

こうした患者まで高度急性期や急性期の拠点病院へ集中すると、本当に高度な治療が必要な患者を受け入れる余力が小さくなる可能性があります。

患者の状態に応じて受け入れる病院を分けることが重要になります。

急性期と包括期の役割分担

そこで2040年に向けて重要になるのが、急性期と包括期の役割分担です。

高度な治療が必要な患者は、医療資源を集約した急性期拠点で受け入れます。

一方、高齢者救急などについては、包括期の機能を持つ病院が一定の役割を担うことが考えられます。

包括期では、救急患者を受け入れて必要な治療を行うだけではありません。

早い段階からリハビリを行い、身体機能の低下を防ぎます。

さらに退院後の生活を考え、在宅医療や介護サービスへつなぐ役割も重要になります。

高齢者の治療を入院から退院まで一体的に考えるわけです。

なぜ急性期病院だけでは対応しにくいのか

急性期病院は、重症患者を短期間で集中的に治療することに強みがあります。

手術や高度な検査など、多くの医療資源を投入します。

そのため本来は、急性期治療が終了した患者には次の医療機関などへ移ってもらい、新しい重症患者を受け入れる必要があります。

しかし高齢患者では、病気が改善してもすぐに自宅へ戻れない場合があります。

歩行能力が低下している。

食事を十分に取れない。

家族だけでは介護できない。

介護施設との調整が終わっていない。

こうした事情で入院が長期化すれば、急性期病床が次の救急患者を受け入れにくくなります。

治療後の生活まで考える必要がある

高齢者救急では、救命や病気の治療だけでなく、退院後にどのような生活を送れるかが重要になります。

入院前には一人で歩けていた人が、退院時には歩けなくなってしまえば、生活は大きく変わります。

自宅へ戻れなくなる可能性があります。

介護サービスが必要になるかもしれません。

施設への入所が必要になる場合もあります。

そのため入院直後からリハビリや退院支援を始めることが重要になります。

医療と介護を別々に考えるのではなく、一つの流れとして考える必要があります。

在宅医療との連携も重要になる

高齢者救急は、病院の中だけで完結する問題ではありません。

退院した高齢者を誰が支えるのかという問題があります。

通院が難しい人には訪問診療が必要になる場合があります。

訪問看護や介護サービスも必要になるかもしれません。

また在宅療養中に体調が悪化した場合、どの病院が受け入れるのかという仕組みも必要です。

在宅医療を増やすのであれば、具合が悪くなったときに入院できる後方支援の病院も必要になります。

病院と在宅医療は代替関係だけではなく、相互に支える関係でもあります。

救急搬送先をどう決めるのか

高齢者救急が増えると、救急搬送先の選び方も重要になります。

すべての救急患者を大規模な急性期病院へ運べばよいわけではありません。

患者の重症度や必要となる医療機能を判断し、適切な病院へ搬送する必要があります。

高度な治療が必要な患者は急性期拠点へ運ぶ。

高齢者に多い一定の救急患者については包括期機能を持つ病院で受け入れる。

こうした役割分担が機能すれば、限られた急性期医療資源を本当に必要な患者へ集中させやすくなります。

高齢者救急には介護情報も必要になる

高齢患者を診療するときには、病気の情報だけでは足りない場合があります。

普段どの程度歩けていたのか。

認知機能はどうだったのか。

どのような薬を飲んでいるのか。

一人暮らしなのか。

家族と暮らしているのか。

介護サービスを利用しているのか。

こうした情報によって治療後の選択肢が変わります。

2040年の高齢者救急では、病院と診療所だけでなく、介護事業者などとの情報共有も重要になります。

人材不足への対応という意味もある

高齢者救急の体制を見直す背景には、医療人材不足もあります。

すべての病院に高度な急性期医療を提供できる医師や看護師を配置することは難しくなります。

そこで高度な医療資源は急性期拠点へ集約します。

一方、高齢者に多い救急患者を受け入れる病院には、その患者像に適した人員やリハビリ、退院支援などの機能を整えます。

限られた医療人材を患者の状態に合わせて配置する考え方です。

病床を単純に増やすのではなく、医療機能そのものを組み替える必要があります。

結論

高齢者救急とは、高齢者が急な病気やけがによって必要とする救急医療ですが、その特徴は若い患者の救急とは大きく異なります。

高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが多く、肺炎や転倒などをきっかけに入院すると、病気そのものが改善しても身体機能が低下し、すぐには自宅へ戻れない場合があります。

そのため必要になるのは、救急搬送して急性期治療を行うことだけではありません。

早期のリハビリ、退院支援、在宅医療、介護まで含めた連続的な支援です。

2040年に向けて85歳以上の高齢者が増える中、すべての救急患者を高度な急性期病院へ集める方法には限界があります。

高度な治療が必要な患者は急性期拠点へ集約し、高齢者に多い一定の救急患者については包括期などの病院が受け入れるという役割分担が重要になります。

人口減少時代の救急医療では、単純に救急病床を何床確保するかだけでは足りません。

どの患者を、どの病院で受け入れ、その後どのように地域生活へ戻していくのかという医療全体の流れを設計する必要があります。

高齢者救急の増加とは、単に救急車を利用する高齢者が増える問題ではなく、日本の救急医療を治療中心の仕組みから、治療後の生活まで支える仕組みへ変えていくことを求める問題なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月27日朝刊 2040年の地域医療構想上 病床の取引市場制度 創設を

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