法人税率を上げるのと租税特別措置を減らすのは何が違うのか 同じ企業増税でも負担する会社が変わる仕組み編

税理士
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消費税減税や給付付き税額控除などの財源をめぐり、企業にこれまでより多くの負担を求める議論が出ています。

企業から税収を増やす方法として最も分かりやすいのが、法人税率そのものを引き上げることです。

しかし、もう一つ重要な方法があります。

租税特別措置を縮小することです。

どちらも結果として企業の税負担が増える可能性がありますが、影響を受ける企業は同じではありません。

法人税率を一律に引き上げれば、基本的には課税所得のある幅広い企業に影響します。一方、特定の政策目的のために設けられた租税特別措置を縮小すれば、その優遇措置を利用している企業を中心に負担が増えます。

今回は、法人税率の引き上げと租税特別措置の縮小では何が違うのか、課税ベースという考え方も含めて整理します。

法人税率を上げると幅広い黒字企業の負担が増える

法人税は、基本的に企業の課税所得を基礎として計算します。

非常に単純化すれば、

企業の課税所得

法人税率

という二つの要素によって法人税額が決まります。

例えば課税所得が1億円の会社があるとします。

仮に税率が23パーセントなら、法人税額は単純計算で2300万円です。

税率が25パーセントになれば2500万円となります。

同じ1億円の所得でも、税率が上がることで税負担が増えるわけです。

法人税率そのものを引き上げる特徴は、特定の業種や投資をしている会社だけではなく、基本的には課税所得のある幅広い企業へ影響することです。

利益が大きい会社ほど、税率引き上げによる税負担の増加額も大きくなります。

租税特別措置とは政策目的で設けられる例外的な税制

一方、法人税には通常の税制とは別に、一定の条件を満たした企業の税負担を軽くする制度があります。

これが租税特別措置です。

例えば企業に賃上げを促したい場合、一定の要件を満たして給与を増やした企業の法人税を軽減する仕組みを設けることができます。

研究開発を増やしてほしい場合には、一定の研究開発費を支出した企業の税負担を軽減する制度を設けることもできます。

国が、

このような経済活動を増やしてほしい

という政策目的を実現するため、税制を使って企業行動を誘導するわけです。

税率を一律に下げるのとは違い、政策目的に合った行動をした企業を重点的に優遇できる特徴があります。

租税特別措置を減らしてもすべての企業が増税になるわけではない

租税特別措置を縮小した場合に重要なのは、現在その措置を利用している企業かどうかです。

例えば研究開発に関する税額控除を利用している企業があるとします。

その税額控除が縮小されれば、その企業の法人税負担は増える可能性があります。

一方、もともと研究開発税制を利用していない企業には直接的な影響がありません。

法人税率の一律引き上げとは、この点が大きく異なります。

法人税率引き上げは広く負担を求める方法です。

租税特別措置の縮小は、特定の優遇を受けていた企業を中心に負担を求める方法です。

同じ企業増税でも、誰が負担するのかが違います。

税率を変えずに税収を増やす課税ベース拡大

企業から税収を増やす方法は、税率を上げることだけではありません。

課税ベースを広げるという方法があります。

課税ベースとは、税率を掛ける対象となる所得の範囲と考えると分かりやすくなります。

例えば本来100億円の所得がある企業でも、税制上認められた控除などによって課税対象が80億円になれば、税率を掛ける対象は80億円になります。

この控除を縮小して課税対象が90億円になれば、法人税率を変えなくても税収は増えます。

つまり法人税収を増やす方法には、

税率を上げる方法

課税対象となる所得を広げる方法

という二つの大きな方向があります。

租税特別措置の見直しは、内容によっては課税ベースを広げる改革の一つになります。

日本は税率引き下げと課税ベース拡大を組み合わせてきた

日本の法人税改革では、法人税率を引き下げる一方で課税ベースを広げるという考え方が使われてきました。

税率を下げるだけなら法人税収は減少します。

そこで企業へのさまざまな優遇措置などを見直して課税対象を広げ、税率引き下げによる税収減を一定程度補います。

この考え方には、特定の企業だけを優遇する制度を減らし、より広い企業が同じような税率で負担する税制に近づける狙いがあります。

一方で、政策目的を持つ優遇税制を縮小すれば、その政策を後押しする力も弱くなります。

単純に税収だけを見て判断できる問題ではありません。

租税特別措置が大企業優遇と批判される理由

租税特別措置をめぐっては、大企業ほど利用しやすいのではないかという批判が出ることがあります。

例えば研究開発税制で考えてみます。

大規模な研究施設を持ち、毎年多額の研究開発費を支出する企業は、大きな税額控除を利用できる可能性があります。

一方、小規模企業ではそもそも研究開発費が少なく、同じ制度があっても受けられる恩恵は小さい場合があります。

また、税額控除は基本的に納める税金があって初めて効果を持ちます。

赤字企業では法人税額自体が少ないため、制度によっては十分な恩恵を受けられないことがあります。

このため租税特別措置の金額だけを見ると、大企業への優遇が大きく見える場合があります。

ただし、大企業だから優遇すること自体が制度の目的とは限りません。

研究開発や賃上げなど、政策上促したい活動の規模が大企業ほど大きいため、結果として減税額も大きくなるケースがあります。

租税特別措置には企業行動を変える役割がある

租税特別措置を単なる企業への減税と考えると、その役割を見誤ることがあります。

例えば、企業が100億円を研究開発へ投資するかどうか迷っているとします。

研究開発投資をすれば法人税が軽くなる制度があれば、投資を決断する材料の一つになるかもしれません。

賃上げ促進税制も同じです。

給与を増やせば一定の税負担が軽減されるため、賃上げを後押しする効果が期待されています。

つまり租税特別措置には、

税金を安くする

という機能だけではなく、

企業の行動を政策的に誘導する

という役割があります。

このため、制度を廃止すれば税収は増えても、研究開発や賃上げなどが減る可能性についても考える必要があります。

効果の小さい租税特別措置を残す必要があるのか

逆に、長年続いている租税特別措置だからといって、必ず残す必要があるわけでもありません。

問題になるのは、その税制が本当に企業の行動を変えているかです。

例えば税制優遇がなくても企業が同じ研究開発投資をしていたのであれば、国は企業の行動を変えないまま税収だけを失っていることになります。

賃上げについても同じです。

人手不足などを理由に、税制がなくても企業が同じ金額の賃上げをしていたのであれば、税制による追加的な効果は限定的です。

そのため租税特別措置については、

政策目的が現在も必要なのか

実際に企業行動を変えているのか

減税額に見合う効果があるのか

特定企業だけが過度に恩恵を受けていないか

といった検証が重要になります。

一律増税と優遇縮小では企業への影響が大きく違う

法人税率を一律に上げれば、租税特別措置を利用していない企業にも負担増が及びます。

反対に租税特別措置だけを縮小すれば、優遇措置を利用している企業の負担が重点的に増えます。

例えば研究開発税制を縮小すれば、研究開発投資の多い企業ほど影響を受ける可能性があります。

賃上げ税制を縮小すれば、積極的に給与を増やしている企業が影響を受ける可能性があります。

税収を1兆円増やすという同じ目的であっても、

どの企業から1兆円を集めるのか

によって経済への影響は変わります。

ここが企業増税を考える際の重要なポイントです。

法人税率だけでは企業の実際の負担は分からない

企業の税負担を考えるとき、表面的な法人税率だけを見ることにも注意が必要です。

同じ税率が適用されていても、利用できる税額控除や損金算入、欠損金の繰越控除などによって、実際に納める法人税額は企業ごとに異なります。

そのため企業課税を比較するときには、

税率

課税ベース

税額控除

その他の特例

を合わせて見る必要があります。

法人税率を据え置いたまま租税特別措置を大幅に縮小すれば、表面的な税率は変わらなくても実質的には企業増税になります。

反対に法人税率を引き上げても、新たな税額控除を拡充すれば、特定の企業では負担増が小さくなることもあります。

消費税減税の財源としてどちらを選ぶのか

消費税減税などの財源として企業に負担を求める場合にも、この違いは重要になります。

法人税率を一律に引き上げれば、比較的広い黒字企業から税収を集めることになります。

租税特別措置を縮小すれば、特定の政策優遇を受けている企業から重点的に税収を集めることになります。

どちらが適切かは、単純に増収額だけでは判断できません。

企業の国内投資をどこまで維持するのか。

研究開発をどこまで支援するのか。

賃上げを税制で後押しするのか。

企業間の税負担の公平性をどう考えるのか。

こうした政策判断が必要になります。

結論

法人税率を引き上げることと租税特別措置を縮小することは、どちらも企業の税負担を増やし、国の税収を増やす可能性があります。

しかし、その仕組みは大きく異なります。

法人税率の引き上げは、課税所得のある幅広い企業に負担増が及ぶ方法です。

一方、租税特別措置の縮小は、その優遇制度を利用している企業を中心に負担を増やす方法です。

また、租税特別措置の見直しなどによって課税ベースを広げれば、法人税率そのものを上げなくても税収を増やすことができます。

重要なのは、企業増税をするかどうかだけではありません。

どの企業に、どのような形で負担を求めるのかという問題です。

法人税率を一律に上げるのか。

政策減税を縮小するのか。

課税ベースを広げるのか。

同じ法人税収の増加でも、選ぶ方法によって負担する企業と企業行動への影響は変わります。

消費税減税などの財源として法人課税を強化する議論では、増税額だけではなく、税負担をどの企業に求める制度なのかを見ることが重要になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月 野党、法人増税案を提起 減税・給付の財源

日本経済新聞 2026年8月 法人税率、G7で上位

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