金には預金や国債のような利息がありません。
そのため一般的には、金利が上昇すると金には不利になると考えられています。
例えば国債を持てば年5%の利息を受け取れるのに、金を持っていても利息は受け取れません。
それなら国債を買った方が有利に見えます。
ところが実際の金融市場では、金利が高いにもかかわらず金価格が上昇することがあります。
この動きを理解するために重要なのが「実質金利」です。
投資家にとって大切なのは、表面上何%の金利を受け取れるかだけではありません。
物価上昇を差し引いた後に、購買力がどれだけ増えるのかが重要です。
今回は、名目金利と実質金利の違いから、なぜ金利が高くても金が買われることがあるのかまで整理します。
名目金利とは何か
私たちが普段ニュースなどで目にする金利の多くは名目金利です。
例えば銀行の定期預金金利が年2%だったとします。
100万円を1年間預ければ、税金などを考えなければ2万円の利息を受け取れます。
国債の利回りが4%という場合も、基本的には名目ベースで表示されています。
つまり名目金利とは、物価の変化を考慮する前の表面上の金利です。
しかし投資家が本当に知りたいのは、お金の数字が何%増えたかだけではありません。
そのお金で買える商品やサービスがどれだけ増えたのかです。
実質金利とは何か
そこで登場するのが実質金利です。
簡単に考える場合、
実質金利は名目金利からインフレ率を差し引いて考えます。
例えば名目金利が5%、インフレ率が2%なら、実質金利はおおむね3%です。
100万円を運用して105万円になったとしても、物価が2%上昇しているため、購買力がそのまま5%増えたわけではありません。
反対に名目金利が5%でも、インフレ率が6%ならどうでしょうか。
実質金利はおおむねマイナス1%です。
預金残高は増えているのに、実質的な購買力は減っていることになります。
金利5%でも実質的には損をすることがある
例えば100万円で100個の商品を買えるとします。
1年後、100万円を年5%で運用して105万円になりました。
一見すると5万円もうかったことになります。
ところが物価が10%上昇し、同じ100個の商品を買うために110万円必要になったとします。
105万円では以前と同じ量の商品を買えません。
預金残高という数字は増えています。
しかし実質的な購買力は低下しています。
これが名目金利だけを見てはいけない理由です。
正確な実質金利は単純な引き算ではない
実質金利は分かりやすく説明するために、名目金利からインフレ率を差し引いて計算することがよくあります。
ただしこれは近似的な考え方です。
正確には、名目金利と物価上昇率の関係を比率で考える必要があります。
それでも金利やインフレ率がそれほど大きくない場合には、名目金利からインフレ率を引く方法で大まかな実質金利を把握できます。
金融市場を理解するうえでは、まず「表示されている金利から物価上昇分を考慮する」という考え方を押さえることが重要です。
金には利息がない
実質金利が金価格に影響する理由を考えてみます。
金そのものを保有していても利息は受け取れません。
100グラムの金を1年間保有しても、110グラムに増えるわけではありません。
一方、国債を保有すれば利息を受け取れます。
そのため金利が高くなるほど、金を保有することによる機会損失が大きくなります。
例えば安全性の高い国債から実質5%の収益を得られるなら、利息を生まない金を持つ魅力は相対的に小さくなります。
このため一般的には実質金利の上昇は金価格にとって逆風になります。
実質金利が低いと金の弱点が小さくなる
反対に実質金利が0%だったらどうでしょうか。
国債から名目上は利息を受け取っていても、インフレを差し引けば購買力がほとんど増えません。
金には利息がありませんが、国債を保有するメリットも小さくなっています。
さらに実質金利がマイナスになれば状況はもっと分かりやすくなります。
国債を持って利息を受け取っても、物価上昇によって実質的な購買力が減る可能性があります。
そうなると利息を生まないという金の弱点が相対的に小さくなります。
金へ資金を移す投資家が増える理由の一つです。
名目金利が高くても金が買われる理由
ここまで考えると、「金利が高いのに金が上昇する」という現象が理解しやすくなります。
例えば名目金利が5%だったとします。
通常なら高金利です。
しかし市場が将来のインフレ率を6%と予想しているなら、実質金利はおおむねマイナス1%です。
投資家から見ると、5%の金利を受け取っても購買力を維持できない可能性があります。
そこで金などの実物資産を保有しようとする動きが生まれます。
重要なのは名目金利の高さではなく、インフレを差し引いた後にどれだけの収益が残るのかです。
過去のインフレ率だけを引けばよいわけではない
金融市場では、実質金利を考えるときに将来のインフレ予想が重要になります。
投資は未来に向かって行うからです。
例えば10年国債を買う投資家にとって重要なのは、先月の物価上昇率だけではありません。
これから10年間、物価がどの程度上昇するのかです。
現在のインフレ率が高くても、近いうちに大きく低下すると考えれば、国債の実質的な魅力が高まる可能性があります。
逆に現在のインフレ率が落ち着いていても、将来再び上昇すると考えれば、長期国債の魅力は低下する可能性があります。
金市場もこうした将来予想を反映して動きます。
期待実質金利という考え方
そこで金融市場では期待実質金利という考え方が重要になります。
これは将来予想されるインフレ率を考慮した実質金利です。
例えば10年国債の名目利回りが4%だとします。
市場が今後の平均的なインフレ率を2%程度と予想しているなら、実質的な利回りはおおむね2%と考えられます。
一方、インフレ予想が4%まで上昇すれば、名目金利が同じ4%でも実質金利はほぼ0%になります。
国債の名目利回りが変わらなくても、インフレ予想の変化だけで実質的な魅力が変わるわけです。
物価連動国債から実質金利を見る方法もある
米国には物価連動国債があります。
インフレに応じて元本などが調整される仕組みを持つ国債です。
米国ではTIPSと呼ばれています。
この物価連動国債の利回りは、市場が意識する実質金利を見る一つの材料になります。
通常の国債利回りと物価連動国債の利回りを比較することで、市場がどの程度のインフレを予想しているのかを見る方法もあります。
金市場を見る投資家が米国の実質金利を重視する理由です。
実質金利が上昇すると金には逆風になりやすい
例えばFRBが強力な金融引き締めを行ったとします。
政策金利を引き上げます。
国債利回りも上昇します。
同時にインフレ率が低下します。
すると名目金利が上昇する一方、インフレ率は下がるため実質金利が大きく上昇する可能性があります。
国債を保有することで得られる実質的な収益が増えます。
利息を生まない金を保有する機会損失が大きくなります。
そのため実質金利の上昇は一般的に金価格の下落要因になりやすくなります。
それでも金価格が上がる場合がある
ただし実質金利と金価格が必ず反対方向に動くわけではありません。
金価格には他にも多くの要因があるからです。
地政学リスク。
金融不安。
中央銀行による金購入。
ドル相場。
財政不安。
通貨への信認。
投資家のポジション。
こうした要因が実質金利の影響を上回ることがあります。
例えば実質金利が高くても、各国の中央銀行が大量に金を購入すれば金価格を押し上げる可能性があります。
ドルとの関係も重要
国際的な金価格は主にドル建てで取引されます。
そのためドル相場も金価格に影響します。
ドル安になると、ドル以外の通貨を持つ投資家から見て金が相対的に購入しやすくなる場合があります。
例えば金価格が同じ4600ドルでも、ユーロや円に対してドルが安くなれば、他通貨から見た購入負担は変化します。
そのためドル安は一般的に金価格を支える要因の一つになります。
反対にドル高は金価格の逆風になりやすいと考えられます。
ただしこれも常に成立する関係ではありません。
実質金利とドルが同時に金を動かす
金価格を見る場合には、実質金利とドルを組み合わせて考えると分かりやすくなります。
実質金利が低下する。
ドルが下落する。
この二つが同時に起きれば、金にとって追い風になりやすくなります。
反対に実質金利が上昇し、ドルも上昇すれば、金には強い逆風となる可能性があります。
しかし今回のように財政不安やディベースメントへの警戒が強い場合には、従来の金利との関係だけでは金価格の動きを説明できないことがあります。
ディベースメント取引では将来の実質金利を見る
ディベースメント取引で投資家が考えるのは、現在の政策金利だけではありません。
政府債務が増え続けた場合、将来FRBはどうするのか。
政府の利払い負担を考えて金利を低く抑えるのではないか。
インフレが高くても早めに利下げするのではないか。
インフレ率より名目金利を低く維持するのではないか。
こうした懸念があれば、将来の実質金利が低くなると予想されます。
すると金を保有する魅力が高まります。
現在の金利が高いにもかかわらず金が買われる理由の一つです。
金利だけ見て金価格を予想できない
金価格について「FRBが利上げすれば下がる」「利下げすれば上がる」という説明を目にすることがあります。
方向性として参考になる場合はありますが、それだけでは十分ではありません。
例えばFRBが利下げしても、インフレ率がそれ以上に急低下すれば実質金利が上昇することがあります。
反対に名目金利が高いままでも、インフレ予想が急上昇すれば実質金利は低下します。
さらに財政不安や地政学リスクなども金価格を動かします。
金を見るときには、名目金利、インフレ予想、実質金利、ドル、財政という複数の要素を合わせて考える必要があります。
結論
実質金利とは、名目金利からインフレの影響を考慮した金利です。
簡単には、名目金利からインフレ率を差し引くことで大まかな水準を考えることができます。
名目金利が5%でもインフレ率が6%なら、実質金利はおおむねマイナス1%です。
預金や国債から高い利息を受け取っていても、実質的な購買力が減る可能性があります。
この実質金利が金価格を考えるうえで重要になります。
金には利息がないため、実質金利が高くなれば国債などを保有する魅力が増え、金には逆風になりやすくなります。
反対に実質金利が低下したりマイナスになったりすれば、利息を生まないという金の弱点が小さくなります。
さらにディベースメント取引では、現在の金利だけではなく将来の実質金利が重要です。
政府債務の増加によって将来的にFRBが低金利を求められ、インフレ率より低い金利が続くのではないかと市場が考えれば、現在の名目金利が高くても金が買われることがあります。
金価格を見るときには「金利が何%なのか」だけでは十分ではありません。
その金利からインフレを差し引いた後に、投資家の購買力がどれだけ増えるのかを見ることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年8月26日朝刊 「ドル離れ取引」再燃の芽 金3カ月ぶり高値・仮想通貨も上昇