上場ゴールとは何か IPOした途端に成長が止まる企業が生まれる理由編

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IPOは、スタートアップにとって大きな節目です。

証券取引所へ株式を上場すれば、幅広い投資家から資金を集めやすくなり、知名度や信用力も高まります。

本来、IPOは企業がさらに成長するための通過点です。

ところが日本のスタートアップ市場では、IPOそのものが事実上の目標になり、上場後に業績や株価が伸び悩む上場ゴールが問題として指摘されてきました。

なぜ成長企業がIPOした途端に勢いを失ってしまうのでしょうか。

その背景には、企業の成長段階だけでなく、VCの資金回収、未上場株の流動性、IPO前後で変化する株主や経営環境などがあります。

未上場株の2次流通市場が発達すれば、企業は投資家の都合だけでIPOを急ぐ必要が小さくなります。

IPOをゴールではなく、本来の成長手段へ戻せる可能性があるのです。

上場ゴールとは何か

上場ゴールという言葉に法律上の定義があるわけではありません。

一般には、企業がIPOを実現した後に成長が鈍化したり、業績が悪化したりして、株価や企業価値が伸び悩む状況を問題視するときに使われます。

例えばIPO時には高い成長率を示していた企業があるとします。

投資家は今後も売上高が大きく伸びると期待し、高い株価で株式を購入します。

ところが上場後に売上高の伸びが急速に鈍化します。

利益も計画を下回ります。

株価が大きく下落します。

こうなると、上場すること自体が企業の最終目標だったのではないかと市場から見られることがあります。

これが上場ゴールと呼ばれる問題です。

IPOは本来ゴールではない

IPOは会社の終着点ではありません。

むしろ新しいスタート地点です。

上場によって新しい資金を調達します。

その資金を研究開発や設備投資、人材採用、海外進出などへ使います。

事業をさらに成長させます。

企業価値を高めます。

この流れが本来のIPOです。

例えば企業価値100億円でIPOした会社が、10年後に企業価値1000億円、1兆円へ成長するなら、IPOは成長の途中にあったことになります。

IPO時の企業価値より、その後どこまで成長できるかが重要なのです。

なぜIPOそのものが目標になりやすいのか

スタートアップには多くの関係者がいます。

創業者。

従業員。

VC。

金融機関。

取引先。

それぞれIPOに期待する理由が違います。

創業者にとっては会社の信用力向上につながります。

従業員にとってはストックオプションを現金化できる機会になります。

VCにとっては投資資金を回収する重要なエグジットになります。

会社にとっては新しい資金調達手段になります。

多くの関係者にとってIPOが重要なイベントになるため、いつの間にかIPOすること自体が会社の大きな目標になりやすいのです。

VCのエグジットがIPOを後押しする

特に重要なのがVCの事情です。

VCはスタートアップへ投資した株式を永久に保有するわけではありません。

VCファンドには一定の運用期間があります。

期限までに投資資金を回収し、ファンドへ出資した投資家へ資金を返す必要があります。

日本では未上場株の2次流通市場が十分に発達していなかったため、代表的なエグジットはIPOとM&Aでした。

会社を売却する予定がなければ、IPOが重要な出口になります。

このため会社自身の成長段階とは別に、既存投資家の資金回収という事情から上場を急ぐ可能性があります。

早すぎるIPOとは何か

IPOが早すぎるかどうかを年数だけで判断することはできません。

創業5年で十分な事業基盤を築く企業もあります。

創業20年でも研究開発を続ける企業もあります。

重要なのは上場後も持続的に成長できる状態になっているかです。

例えば主力商品が一つしかない会社。

大口顧客一社への依存度が非常に高い会社。

研究開発がまだ初期段階の会社。

海外展開の体制が整っていない会社。

こうした企業が上場後の成長戦略を十分に準備できていなければ、市場の成長期待に応えられない可能性があります。

IPO前には高い成長率をつくりやすい面もある

スタートアップの成長率を見るときには、会社の規模にも注意が必要です。

例えば売上高10億円の会社が翌年20億円になれば、売上高は2倍です。

成長率は100パーセントになります。

しかし売上高100億円の会社が100パーセント成長するには、翌年200億円にしなければなりません。

企業規模が大きくなるほど、高い成長率を維持することは難しくなります。

IPO前に高い成長率を示していた企業でも、上場後に同じ成長率を維持できるとは限りません。

投資家の期待が高すぎれば、成長しているのに期待未達として株価が下落することもあります。

IPO前後で経営環境が変わる

上場すると企業の経営環境は大きく変わります。

未上場時代は、創業者やVCなど比較的限られた株主と話し合いながら経営できます。

上場後は多数の株主が参加します。

国内外の機関投資家も株主になります。

決算情報を継続的に開示します。

業績予想への注目も高まります。

株価が毎日動きます。

企業は長期的な成長戦略を進めながら、公開市場の投資家に対しても説明責任を果たさなければなりません。

短期的な業績とのバランスが難しくなる

例えば将来大きく成長するため、100億円の研究開発投資が必要だとします。

未上場なら、VCなどの株主が長期的な企業価値向上につながると判断すれば実行しやすい場合があります。

上場後に同じ投資を行えば、短期的には利益が大きく減る可能性があります。

もちろん市場も長期投資を評価します。

しかし投資の必要性や将来の収益性を十分に説明できなければ、株価が下落する可能性があります。

経営者には長期成長と短期的な業績を両立させる難しい経営が求められるようになります。

上場企業としての管理負担も増える

IPO後には事業以外の仕事も増えます。

情報開示。

内部統制。

監査対応。

投資家との対話。

株主総会。

ガバナンス。

これらは上場企業として必要な仕組みです。

しかし組織が十分に成長していない段階で上場すると、経営陣がこうした業務に多くの時間を取られる可能性があります。

成長企業にとって最も重要な時期に、経営者が事業開発より上場企業としての管理業務へ時間を使わなければならなくなることもあります。

上場時の評価が高すぎる問題もある

上場ゴールと呼ばれる状況では、IPO時の株価にも注意が必要です。

例えば企業の実力を考えれば企業価値200億円程度が妥当だったとします。

しかし高い成長期待からIPO時に500億円の評価が付いたとします。

会社がその後順調に成長して企業価値300億円相当の実力になったとしても、IPO価格から見れば株価は下落する可能性があります。

会社は成長しています。

しかしIPO時の期待が高すぎたため、投資家から見ると失望になります。

IPO後の株価下落がすべて企業の経営失敗を意味するわけではありません。

上場時の価格形成も重要なのです。

未上場期間を長くするメリット

企業が十分に成長するまで未上場を続けることにはメリットがあります。

事業モデルを磨くことができます。

顧客基盤を拡大できます。

経営人材を採用できます。

内部管理体制を整備できます。

複数の収益源をつくることもできます。

上場後に必要になる成長戦略を準備してからIPOできます。

特に研究開発期間が長いディープテック企業では、未上場期間を十分に確保する意味が大きくなります。

ただし未上場期間を長くすればよいわけではない

未上場期間が長ければ必ず企業が成功するわけでもありません。

未上場企業でも経営の規律は必要です。

外部の株主による監視が弱くなれば、経営上の問題が長期間表面化しない可能性もあります。

資金調達ができなければ研究開発を続けられません。

株主や従業員が株式を現金化できない問題もあります。

したがって重要なのは、単純にIPOを遅らせることではありません。

未上場のままでも資金調達、株主交代、情報開示などが機能する市場をつくることです。

2次流通が早すぎるIPOを減らす

そこで未上場株の2次流通が重要になります。

例えばVCファンドの期限が迫っているとします。

会社はあと5年間未上場で成長したいと考えています。

従来ならVCのエグジットのためIPOを検討する必要がありました。

2次流通市場があれば、VCは保有株式を長期投資家へ売却できます。

VCは資金を回収します。

会社は上場しません。

新しい株主が次の成長段階を支えます。

投資家の出口と企業のIPOを切り離せるのです。

従業員の換金もIPOから切り離せる

同じことはストックオプションにも当てはまります。

従来は従業員が株式報酬の利益を実現する大きな機会がIPOでした。

会社がIPOを遅らせれば、従業員も長期間待たなければなりません。

2次流通市場で従業員が保有株式の一部を売却できれば、IPO前でも成長成果を現金化できます。

VCのエグジット。

従業員の株式報酬。

これらをIPOから切り離せれば、企業はIPOそのものを急ぐ理由をさらに減らせます。

IPOの目的を成長へ戻せる

未上場株市場が発達する最大の意味は、IPOの目的を変えられることです。

VCが退出したいからIPOする。

従業員の株式を現金化したいからIPOする。

こうした理由の比重を小さくできます。

その代わりに、公開市場から大規模な成長資金を調達したい。

知名度や信用力を高めて事業を拡大したい。

世界の機関投資家から資金を集めたい。

こうした企業自身の成長戦略を理由にIPOを選べるようになります。

IPOを出口ではなく成長の入口として位置付け直すことができます。

結論

上場ゴールとは、IPOを実現した企業がその後十分に成長できず、業績や株価、企業価値が伸び悩む問題を表す言葉です。

IPOそのものが悪いわけではありません。

本来IPOは、企業が新しい資金や信用力を得てさらに成長するための手段です。

問題は企業が十分な事業基盤をつくる前に、IPOそのものが目的になってしまうことです。

その背景の一つにVCのエグジットがあります。

日本では未上場株の流動性が乏しく、VCが資金を回収する方法がIPOやM&Aへ偏りやすい構造がありました。

VCファンドの期限が迫れば、企業にとって最適な時期より早くIPOを求める力が働く可能性があります。

さらにIPO後には情報開示、投資家対応、内部統制など経営環境が大きく変わります。

十分な組織や成長戦略を準備できていなければ、上場後に成長が鈍化する可能性があります。

未上場株の2次流通市場が発達すれば、VCはIPO前に別の投資家へ株式を売却できます。

従業員も株式報酬を一部現金化できる可能性があります。

会社は投資家の資金回収のためではなく、自社にとって本当に必要な時期にIPOできます。

IPOを早くすることが重要なのではありません。

IPOした後も成長し続けられる会社をつくることが重要です。

未上場市場を充実させることは、IPOをゴールから本来の通過点へ戻し、日本のスタートアップをより長期的に育てるための重要な仕組みになるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

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