小粒上場とは何か スタートアップが十分に成長する前にIPOする問題編

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スタートアップがIPOを実現すると、一般には大きな成功として受け止められます。

しかし、上場すればそれだけで企業として成功したとは限りません。

日本のスタートアップ市場では、企業規模がまだ小さい段階でIPOし、その後も十分に企業価値を高められない小粒上場が課題として指摘されてきました。

背景の一つにあるのが、未上場株の流動性の低さです。

ベンチャーキャピタルが投資資金を回収する方法がIPOやM&Aに限られやすいと、企業が十分に成長する前でも上場を急ぐ圧力が生まれます。

未上場株の2次流通市場が発達すれば、VCは会社を上場させなくても別の投資家へ株式を売却できます。

IPOを投資家の資金回収のための出口ではなく、企業自身が次の成長段階へ進むための選択肢として考えやすくなるのです。

小粒上場とは何か

小粒上場という言葉に法律上の厳密な定義があるわけではありません。

一般には、企業規模や時価総額がまだ小さい段階で株式市場へ上場し、上場後も十分な成長を実現できない企業を問題視するときに使われます。

スタートアップは創業後、売上高や顧客数を増やしながら企業価値を高めていきます。

本来なら事業基盤を十分に固め、さらに大きな成長が期待できる段階でIPOするという考え方があります。

ところが日本では比較的小さな企業価値でもIPOする企業が少なくありませんでした。

上場そのものが成長戦略のゴールのようになってしまうと、上場後の企業価値向上が続かないという問題が生じます。

時価総額とは何か

小粒上場を考えるうえで重要なのが時価総額です。

時価総額は基本的に株価に発行済株式数を掛けて計算します。

例えば一株1000円で発行済株式数が1000万株なら、時価総額は100億円です。

株価が500円まで下がれば、時価総額は50億円になります。

時価総額は市場がその会社の株主価値をどの程度と評価しているかを示す代表的な数字です。

売上高が同じ会社でも、将来大きく成長すると期待されれば高い時価総額になることがあります。

反対に成長期待が低下すれば時価総額も小さくなります。

なぜ100億円が注目されるのか

今回の参考記事では、東証グロース市場改革により2030年には上場維持に必要な時価総額基準が100億円に引き上がるとされています。

これは上場した企業に一定規模以上への成長を促す動きと考えることができます。

例えば時価総額30億円でIPOした企業があるとします。

その後も30億円から50億円程度で推移し続ければ、新しい基準への対応が課題になります。

IPOすることだけでは足りません。

上場後も成長し、企業価値を高めることがより強く求められるようになります。

そのためIPO前の段階から、上場後に100億円を超えてさらに成長できる事業基盤をつくれるかが重要になります。

なぜ小さい段階でIPOするのか

企業が小さい段階でIPOする理由は一つではありません。

上場によって資金を調達したい企業もあります。

知名度や信用力を高めたい場合もあります。

採用力を強化したい場合もあります。

創業者や従業員の株式を将来換金しやすくする意味もあります。

そして重要な理由の一つが既存株主であるVCのエグジットです。

VCは投資した株式を永久に保有するわけではありません。

一定期間後に売却し、投資資金を回収する必要があります。

VCファンドの期限がIPOへ影響する

VCファンドには一般的に一定の運用期間があります。

今回の参考記事でも、VCファンドが10年程度の運用期限内に資金を回収する必要があることが、上場を急がせる要因になっていたと指摘されています。

例えば創業3年目にVCから投資を受けた会社があるとします。

その会社は事業を十分に育てるため、あと10年間未上場で成長した方がよいかもしれません。

しかしVC側のファンド期限が先に来る可能性があります。

未上場株を別の投資家へ売却できなければ、VCにとってIPOは重要な資金回収手段になります。

企業にとって最適なIPO時期と、VCにとって必要なエグジット時期が一致しないことがあるのです。

IPOが資金回収イベントになりやすかった

日本では未上場株の2次流通市場が十分に発達していませんでした。

そのためVCが投資資金を回収する代表的な方法はIPOやM&Aでした。

会社を独立したまま成長させるなら、IPOへの依存度が高くなります。

その結果、会社自身が上場企業として十分な規模へ成長したからIPOするのではなく、既存投資家の出口をつくるためにIPOするという要素が強くなる場合があります。

これが小粒上場を生みやすくする構造的な問題の一つです。

小さい会社が上場すること自体が悪いわけではない

ここは注意が必要です。

時価総額が小さい会社がIPOすること自体が悪いわけではありません。

上場によって資金を調達し、その資金を使って急成長する会社もあります。

上場による信用力向上が取引先の拡大につながることもあります。

問題はIPO後に成長できないことです。

時価総額30億円で上場した会社が数年後に300億円、1000億円へ成長するなら、小さな段階でIPOしたことが成功につながったとも考えられます。

小粒上場問題の本質は上場時の規模だけではなく、その後の成長が続かないことにあります。

上場すると経営の負担も増える

IPOにはメリットだけでなく負担もあります。

上場企業には継続的な情報開示が求められます。

決算発表への対応も必要です。

株主や投資家とのコミュニケーションも重要になります。

内部管理体制を整備し、上場企業として必要なガバナンスを構築しなければなりません。

これらは市場の信頼を守るために必要です。

しかし成長途中の小さな企業にとっては大きな負担になる場合があります。

経営陣が本来集中すべき研究開発や顧客獲得より、上場企業としての管理業務へ多くの時間を使うことになる可能性もあります。

上場後は市場の評価を毎日受ける

未上場企業では企業価値が毎日表示されるわけではありません。

一方、上場すれば株価が毎日動きます。

業績予想を下回れば株価が大きく下落することがあります。

研究開発の遅れが市場に失望されることもあります。

短期的な決算数字と長期的な成長投資のバランスを考えなければなりません。

特にディープテック企業では、研究開発に長い時間が必要です。

まだ事業モデルが完成していない段階で上場すると、長期的な技術開発と株式市場の時間軸が合わない可能性があります。

小粒上場が投資家にも問題になる理由

小粒上場は企業側だけの問題ではありません。

株式市場の投資家にも影響します。

上場後に成長できない企業が多ければ、グロース市場全体に対する投資家の期待が低下します。

成長企業へ投資する市場のはずなのに、企業価値が長期間伸びない会社が多ければ、投資資金が集まりにくくなる可能性があります。

売買が少ない小型株では流動性も低くなります。

結果として機関投資家が投資しにくくなり、さらに売買が少なくなるという悪循環も考えられます。

2次流通でVCだけ先にエグジットできる

未上場株の2次流通市場が発達すると、この構造を変えられる可能性があります。

例えば創業初期から投資してきたVCのファンド期限が迫っているとします。

会社の企業価値は80億円です。

会社はあと5年間未上場で成長すれば、企業価値500億円を目指せると考えています。

従来ならVCの資金回収のためにIPOを検討する可能性がありました。

しかし2次流通市場があれば、VCは保有株式を長期投資のできる機関投資家へ売却できます。

VCはエグジットします。

会社はIPOしません。

株主だけが交代します。

企業は上場に適した時期まで待てる

VCの資金回収とIPOを切り離せれば、企業は自社に適した時期まで上場を待ちやすくなります。

例えば企業価値80億円で急いでIPOするのではなく、売上高や利益、顧客基盤を拡大します。

企業価値が300億円や500億円へ成長した段階でIPOすることもできます。

上場後にもさらに成長できる事業基盤をつくってから市場へ出るわけです。

IPO前に企業を十分に育てるという選択肢が現実的になります。

長期投資家へのバトンタッチが重要

2次流通市場では、誰に株式を売却するかも重要です。

創業初期のVCから、より長期的に保有できる機関投資家へ株式を引き継ぎます。

IPO前後の企業へ投資するクロスオーバー投資家も考えられます。

事業会社やCVCが株主になり、事業面で協力することもあります。

単にVCを退出させるだけではありません。

企業の次の成長段階に適した株主へ交代することで、IPO前の成長を支えることができます。

IPOの意味そのものが変わる

2次流通市場が定着すると、IPOの位置付けも変わります。

これまではIPOに多くの役割が集中していました。

会社の資金調達。

VCのエグジット。

創業者や従業員の株式の流動化。

企業の信用力向上。

これらを一度に実現するイベントがIPOでした。

2次流通市場があれば、VCのエグジットや従業員株式の現金化をIPO前に行える可能性があります。

その結果、IPOは投資家を退出させるためのイベントではなく、企業が公開市場から資金を集めて次の成長段階へ進むためのイベントとして位置付けやすくなります。

100億円基準と2次流通はつながっている

東証グロース市場の時価総額基準の引き上げと、未上場株の2次流通市場の整備は別々の政策に見えます。

しかしスタートアップの成長という視点では密接につながっています。

上場市場では、小さいまま成長しない企業を減らす。

未上場市場では、企業が十分に成長するまで投資家が株式を売買できる環境をつくる。

この二つが組み合わされれば、企業はIPOを急ぐ必要が小さくなります。

そして上場する企業には、より大きな成長が期待されるようになります。

未上場市場と上場市場を一体として整備することが重要なのです。

結論

小粒上場とは、企業規模や時価総額がまだ小さい段階でIPOし、その後も十分な企業価値の成長を実現できない企業が増える問題を表す言葉です。

小さな企業がIPOすること自体が問題なのではありません。

上場後に大きく成長できれば、早期IPOが成功につながる場合もあります。

問題は、企業自身の成長段階ではなく、VCなど既存投資家の資金回収の必要性によってIPOを急ぐ構造です。

日本では未上場株の流動性が乏しく、VCのエグジットがIPOやM&Aに依存しやすい状況がありました。

VCファンドには運用期限があるため、企業がまだ成長途中でもIPOへの圧力が生じる可能性があります。

未上場株の2次流通市場が発達すれば、この関係を変えられます。

VCは保有株式を長期投資家へ売却して資金を回収します。

会社は未上場のまま成長を続けます。

そして十分な事業規模と成長力を備えた段階でIPOを選択できます。

東証グロース市場で時価総額100億円が重要な基準となる方向にあるなか、IPO前に企業をどこまで大きく育てられるかは一段と重要になります。

IPOを早く実現することではなく、IPO後も成長し続けられる会社をつくること。

未上場株の2次流通市場は、小粒上場を減らし、日本のスタートアップをより大きく育ててから公開市場へ送り出すための重要な仕組みになる可能性があるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

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