ふるさと納税の返礼品は、肉や魚、米、果物など地域の特産品だけではありません。
ホテルや旅館の宿泊、レストランでの食事、アウトドアや観光施設の利用など、その地域を実際に訪れて楽しむ体験も返礼品になっています。
こうした返礼品を体験型返礼品と呼びます。
物品の返礼品なら商品を寄付者の自宅へ発送して関係が終わることもありますが、体験型返礼品では寄付者自身が地域を訪れます。
宿泊や食事だけでなく、交通、お土産、観光などの追加消費も期待できます。
ふるさと納税の経費率上限が2029年に40%まで引き下げられるなか、配送費を抑えながら地域内で消費を生み出せる体験型返礼品が注目されています。
体験型返礼品とは何か
体験型返礼品とは、商品を受け取るのではなく、その地域でサービスや体験を利用するタイプのふるさと納税の返礼品です。
代表的なのが宿泊券や食事券です。
そのほかにも温泉施設、ゴルフ場、アウトドア体験、観光施設など、地域の特色を生かしたさまざまなサービスを返礼品にできます。
寄付者は自治体へ寄付し、その対価として一定の範囲で利用できる券やクーポンなどを受け取ります。
そして実際に地域を訪れて利用します。
返礼品として地域の商品を外へ送り出すのではなく、寄付者を地域へ呼び込むところが大きな特徴です。
特産品の返礼品とは何が違うのか
物品型の返礼品と体験型返礼品では、お金と人の動きが異なります。
たとえば地方の自治体が肉を返礼品にしたとします。
寄付者は自宅から寄付します。
地域の事業者が肉を用意します。
宅配便で寄付者の自宅へ送ります。
寄付者は一度も地域を訪れなくても、ふるさと納税が完結します。
一方、宿泊券を返礼品にした場合、寄付者はその地域へ行かなければ利用できません。
ホテルに宿泊し、周辺の飲食店で食事をし、観光施設を訪れ、お土産を購入するかもしれません。
返礼品を入口として、地域との接点が増えるわけです。
宿泊券はどのような仕組みなのか
宿泊券では、寄付額に応じて一定額の宿泊代金に利用できる券やクーポンなどが提供されます。
たとえば3万円を寄付し、9000円相当の宿泊券を受け取ったとします。
寄付者が2万円の宿泊プランを利用すれば、9000円分を宿泊券で支払い、残りの1万1000円を自分で負担する形が考えられます。
ここが重要です。
返礼品として9000円分を提供しても、地域では2万円の宿泊消費が発生します。
さらに夕食や観光、お土産などにお金を使えば、地域全体で発生する消費額はさらに増えます。
返礼品の金額を超える経済効果が生まれる可能性があります。
食事券でも地域消費を増やせる
食事券も基本的な考え方は同じです。
寄付者は返礼品として受け取った食事券を使うために地域の飲食店を訪れます。
食事券の金額を超えた部分は自分で支払います。
家族や友人と一緒に訪れれば、同行者の消費も発生します。
食事の前後に買い物をする可能性もあります。
物品返礼品なら特定の生産者や事業者への経済効果が中心になりますが、体験型返礼品では周辺のさまざまな事業者へ消費が広がる可能性があります。
港区は食事券や宿泊券などに限定している
東京都港区では、ふるさと納税の返礼品を食事券や宿泊券など区内で利用する体験型の商品に限っています。
狙いは、単に返礼品を提供することではありません。
寄付者に実際に港区を訪れてもらい、区内で消費してもらうことです。
物品の場合、返礼品が自宅へ届けば寄付者と地域との関係は一度で終わる可能性があります。
体験型なら、地域そのものを知ってもらう機会になります。
一度訪れた飲食店を気に入れば、次回はふるさと納税とは関係なく利用するかもしれません。
宿泊をきっかけに、再び観光で訪れる可能性もあります。
一回の寄付を継続的な地域との関係につなげられることが体験型返礼品の強みです。
みなかみ町では町内190施設で使える
群馬県みなかみ町では、ふるさと納税の返礼感謝券であるミナカミハートチケットが人気を集めています。
記事では、3万円を寄付すると9000円分の感謝券を受け取る例が紹介されています。
感謝券は町内の飲食店、旅館やホテル、アウトドア体験、観光関連施設など約190施設で利用できます。
使える場所が多ければ、寄付者にとっても利便性が高くなります。
温泉旅館に泊まる。
飲食店を利用する。
アウトドアを楽しむ。
こうした地域の観光資源そのものを返礼品として活用できます。
みなかみ町は2025年度の経費率を39%に抑えながら、6億4000万円の寄付を集めました。
体験型なら配送費を抑えやすい
体験型返礼品には、自治体の経費面でもメリットがあります。
物品返礼品では商品の配送が必要です。
特に冷蔵や冷凍が必要な食品、大型の商品などでは送料が高くなる場合があります。
体験型返礼品を電子クーポンとして発行すれば、物理的な配送そのものが不要になります。
箱も梱包材も必要ありません。
宅配便を利用する必要もありません。
2029年にはふるさと納税の経費率上限が40%まで引き下げられる予定です。
自治体にとって、送料を削減できる体験型返礼品は経費率を改善する手段にもなります。
寄付者を観光客に変えられる
体験型返礼品の最大の特徴は、ふるさと納税の寄付者を観光客に変えられることです。
一般的な物品返礼品では、
寄付する
返礼品を受け取る
という二つの行動で終わります。
体験型返礼品なら、
寄付する
地域を訪れる
宿泊する
食事をする
観光する
買い物をする
という行動へ広がる可能性があります。
ふるさと納税を単なる財源確保策ではなく、観光客を呼び込む政策として利用できるわけです。
返礼品以上の消費が生まれる可能性がある
体験型返礼品の経済効果を考えるときには、返礼品の額だけを見てはいけません。
仮に9000円分の宿泊券を提供したとします。
寄付者が3万円のホテルに宿泊すれば、2万1000円を追加で支払います。
さらに飲食に1万円、お土産に5000円使えば、地域で発生する消費は合計4万5000円になります。
返礼品として提供した9000円をきっかけに、それを大きく上回る消費が発生する可能性があります。
もちろんすべての寄付者が追加消費をするわけではありません。
それでも物品を自宅へ発送する方式とは違った地域経済への波及効果が期待できます。
観光地ほど体験型返礼品を活用しやすい
一方、体験型返礼品はすべての自治体が同じように利用できるわけではありません。
有名な温泉地がある。
人気のホテルや旅館がある。
特色のある飲食店がある。
アウトドアや観光施設が充実している。
こうした自治体ほど体験型返礼品を作りやすくなります。
逆に観光客が少ない自治体では、宿泊券や食事券だけで全国から多くの寄付を集めることは難しい場合があります。
地域ごとに持っている資源が違うため、物品型と体験型を組み合わせることも重要になります。
地域事業者にもメリットがある
体験型返礼品は自治体だけでなく、地域の事業者にとっても新しい顧客を獲得する機会になります。
ふるさと納税がなければ訪れなかった人がホテルに泊まります。
知らなかった飲食店を利用します。
アウトドア施設を体験します。
そこで満足してもらえれば、次回から通常の顧客として訪れる可能性があります。
返礼品を一度提供して終わるのではなく、将来の観光需要につなげることができます。
自治体にとっても地域事業者にとっても、一回の寄付から長期的な関係を作ることが重要になります。
ふるさと納税が地域への入口になる
ふるさと納税制度には、寄付金を自治体へ移すという財政的な役割があります。
しかし体験型返礼品が広がれば、それだけではありません。
寄付をきっかけに初めて地域を訪れる。
地域の魅力を知る。
再び旅行する。
地域の商品を購入する。
さらに地域を継続的に応援する。
こうした流れを作ることができます。
返礼品を競うだけではなく、寄付者と地域との関係をどれだけ深められるかが、これからのふるさと納税では重要になります。
結論
体験型返礼品とは、肉や米などの商品を受け取るのではなく、宿泊、食事、観光、アウトドアなど、その地域でサービスや体験を利用するふるさと納税の返礼品です。
最大の特徴は、寄付者自身が地域を訪れることです。
宿泊券や食事券を利用するために地域へ来てもらえば、返礼品の金額を超える宿泊、飲食、観光、買い物などの消費が生まれる可能性があります。
電子クーポン化すれば配送費を抑えることもでき、2029年に経費率上限が40%へ引き下げられることへの対応策にもなります。
ふるさと納税は地域の商品を全国へ発送するだけの制度ではありません。
寄付者を地域へ呼び込み、観光客や将来のリピーターへ変える仕組みとして活用することで、寄付額以上の経済効果を地域にもたらす可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 ふるさと納税、経費を圧縮 40%以下は177自治体
日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 ふるさと納税の経費圧縮 世田谷区、独自サイト開設