老人ホームの費用が上昇するなか、比較的少ない負担で介護を受けながら生活できる施設として知られているのが特別養護老人ホームです。
一般に特養と呼ばれます。
東京都内の有料老人ホームでは、2026年1月時点の入居時費用の中央値が1001万円、月額費用の中央値も約30万円となりました。
一方、特養では有料老人ホームのように1000万円単位の入居一時金を支払うのが一般的ではありません。
さらに、所得や資産が一定以下の人については、食費や居住費を軽減する制度もあります。
そのため、費用面では有料老人ホームより利用しやすい場合があります。
ただし、希望すれば誰でもすぐに入れるわけではありません。
特養は、原則として要介護3以上の高齢者を対象とする施設であり、地域や施設によっては入所まで待つ必要があります。
特別養護老人ホームとは何か
特別養護老人ホームは、常時介護を必要とし、自宅で生活することが難しい高齢者が入所する施設です。
介護保険制度では介護老人福祉施設と呼ばれます。
食事や入浴、排せつなどの日常生活上の介護を受けながら生活します。
機能訓練や健康管理なども行われます。
民間企業が運営する有料老人ホームとは異なり、特養は社会福祉法人や地方公共団体などが運営する公的性格の強い介護施設です。
長期間生活することを前提としているため、介護が必要になった高齢者にとって終のすみかの一つとなっています。
原則として要介護3以上が対象になる
特養には、誰でも自由に入所できるわけではありません。
新たに入所する人については、原則として要介護3以上であることが必要です。
要介護3とは、日常生活の多くの場面で介護が必要となっている状態です。
例えば、立ち上がりや歩行、入浴、排せつなどについて介助を必要とするケースがあります。
要介護1や要介護2の人は、原則として新規入所の対象にはなりません。
これは、特養が特に介護の必要性が高い人を受け入れる施設として位置付けられているためです。
限られた施設や介護人材を、より介護の必要性が高い高齢者に重点的に利用してもらう考え方があります。
要介護1や2でも入れる場合がある
原則要介護3以上ですが、例外もあります。
要介護1または要介護2であっても、やむを得ない事情によって自宅での日常生活が著しく困難な場合には、特例的に入所が認められることがあります。
例えば認知症によって日常生活に大きな支障があり、家族による介護が難しい場合などが考えられます。
家族から深刻な虐待を受けている場合や、単身世帯などで地域の介護サービスだけでは生活を支えることが難しい場合もあります。
つまり、要介護度という数字だけではなく、本人の生活環境や家族の状況なども考慮される場合があります。
ただし、要介護1や2であれば希望すれば入れるという制度ではありません。
あくまで特別な事情がある場合の例外です。
有料老人ホームとは何が違うのか
特養と有料老人ホームでは、施設の目的や仕組みが異なります。
有料老人ホームは民間企業などが運営し、施設ごとに入居条件や料金、サービス内容が設定されています。
比較的元気な段階から入居できる施設もあります。
一方、特養は常時介護を必要とし、自宅での生活が難しくなった高齢者を主な対象とする介護保険施設です。
そのため、入所要件が厳しく設定されています。
また、有料老人ホームには高額な入居一時金を設定する施設がありますが、特養ではそのような料金体系とは基本的に異なります。
費用面では特養の方が負担を抑えやすい一方、入所するための条件があります。
なぜ特養は費用を抑えやすいのか
特養の費用を比較的抑えられる大きな理由は、介護保険制度の中に位置付けられた施設だからです。
入所者は、介護サービス費のうち所得に応じた自己負担分を支払います。
これに加えて、居住費や食費、日常生活費などを負担します。
有料老人ホームのように、施設側が市場環境に応じて高額な家賃や前払金を設定する料金体系とは性格が異なります。
さらに、所得や資産が一定以下の人には、居住費や食費について負担を軽減する制度があります。
そのため、年金収入がそれほど多くない高齢者でも利用しやすい仕組みになっています。
食費と居住費も必要になる
特養だから生活費がほとんどかからないわけではありません。
介護保険サービスの自己負担に加えて、食費と居住費が必要です。
さらに理美容費など、日常生活に必要な費用が発生することがあります。
居住費は部屋の種類によっても違います。
複数人で一つの部屋を利用する多床室があります。
個室もあります。
さらに、少人数を一つの生活単位として介護するユニット型個室もあります。
一般に居住環境が充実するほど、居住費の負担も大きくなる傾向があります。
特養の費用を比較するときには、月額の総額だけでなく、どのような居室を利用するのかも確認する必要があります。
所得が少ない人には負担軽減制度がある
特養の重要な特徴の一つが、所得や資産が一定以下の人に対する負担軽減制度です。
介護保険施設に入所すると、食費と居住費は原則として本人負担です。
しかし、所得の少ない人が高額な食費や居住費を負担すると、施設で生活することが難しくなります。
そこで一定の要件を満たす人については、負担限度額を設け、食費や居住費の負担を軽減する仕組みがあります。
本人や世帯の所得だけではなく、預貯金などの資産についても要件があります。
老後資金が少ない人にとっては、この制度を利用できるかどうかが毎月の負担に大きく影響します。
希望してもすぐ入れるとは限らない
特養には費用面で大きなメリットがあります。
そのため入所を希望する人も少なくありません。
しかし、申込みをした順番だけで機械的に入所できるとは限りません。
特養では、本人の要介護度や介護者の状況などを踏まえ、入所の必要性が高い人を優先する考え方が採られています。
例えば要介護度が高く、自宅で介護する家族がいない人と、家族による介護が可能な人では、入所の必要性が異なります。
地域によって施設数や高齢者人口も違うため、入所のしやすさには地域差があります。
希望する施設に空きがなければ、待機する必要があります。
特養だけを老後の住まいとして想定するリスク
老後資金を考えるとき、将来は特養に入れば費用を抑えられると考える人もいるかもしれません。
しかし、それだけを前提に資金計画を立てるのは注意が必要です。
まず、原則として要介護3以上にならなければ新規入所の対象になりません。
比較的元気な段階では利用できません。
さらに、要介護3以上になったとしても、希望する特養にすぐ入所できるとは限りません。
入所までの間、自宅で介護サービスを利用したり、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などで生活したりする可能性があります。
その期間の費用も準備する必要があります。
有料老人ホームとの二者択一ではない
高齢期の住まいは、有料老人ホームか特養かという二つだけではありません。
自宅で介護サービスを利用する方法があります。
サービス付き高齢者向け住宅があります。
住宅型有料老人ホームがあります。
介護付き有料老人ホームがあります。
認知症の場合にはグループホームが選択肢になることもあります。
そして介護の必要性が高くなれば、特養を検討することもできます。
高齢者の身体状況は時間とともに変化します。
そのため、一つの住まいで人生の最後まで暮らすことだけではなく、身体状態に応じて住まいを変える可能性も考えておく必要があります。
結論
特別養護老人ホームは、常時介護を必要とし、自宅で生活することが難しい高齢者のための介護保険施設です。
新規入所は原則として要介護3以上が対象になります。
有料老人ホームのように1000万円単位の入居一時金を必要とするのが一般的な施設ではなく、介護保険制度の中で介護サービスを受けながら生活します。
さらに、所得や資産が一定以下の人については、食費や居住費の負担を軽減する制度もあります。
そのため、有料老人ホームと比べて費用を抑えられる場合があります。
一方で、希望すればすぐに入れるとは限りません。
要介護度。
本人の身体状況。
家族による介護の状況。
施設の空き状況。
こうした事情によって入所まで時間がかかる可能性があります。
老後の住まいを考えるときには、将来は特養に入れば大丈夫と考えるだけでは十分ではありません。
自宅で暮らす期間。
介護が必要になった後の住まい。
特養に入るまでの期間。
それぞれに必要となる費用を考える必要があります。
老人ホームの費用が上昇する時代だからこそ、民間の有料老人ホームだけではなく、特養を含めた複数の選択肢を知っておくことが、終のすみかと老後資金を考えるうえで重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月19日朝刊 終のすみかの現実(上)老人ホーム 手届かぬ東京 入居費1000万円、4割上昇