事業所税の課税団体から外れるとどうなるのか 自治体の減収と企業の減税編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

人口減少によって事業所税の課税団体から外れる都市が現れています。

2026年には秋田市と福岡県久留米市が人口要件を満たさなくなり、課税団体の指定から外れました。

課税団体から外れるという制度変更は、自治体と企業に正反対の影響を与えます。

自治体にとっては、それまで得ていた事業所税という財源を失うことになります。

一方、その都市で一定規模以上の事業所を持つ企業にとっては、事業所税の負担がなくなることになります。

つまり、一つの人口減少という現象が、自治体には減収、企業には減税をもたらします。

さらに、税負担の変化は企業の立地判断にも影響する可能性があります。

事業所税は課税できる自治体が限定されている

事業所税は、全国すべての市町村が自由に課税できる税金ではありません。

東京都区部や政令指定都市、首都圏や近畿圏の特定の市、その他人口30万人以上の市のうち政令で指定されたものなどが課税団体となります。

人口要件については、国勢調査による人口や住民基本台帳人口などが関係します。

一定の要件を満たさなくなり、政令による指定から外れれば、それまで事業所税を課税していた都市でも課税団体ではなくなります。

人口減少が続く日本では、このような都市が今後増えていく可能性があります。

指定から外れれば事業所税という財源を失う

自治体側にとって最も直接的な影響は税収の減少です。

事業所税には、事業所床面積を基準とする資産割と、従業者給与総額を基準とする従業者割があります。

令和6年度決算額では、全国の税収は資産割が2807億円、従業者割が1298億円でした。

合計すると4105億円になります。

もちろん、一つの自治体がこの全額を得ているわけではありません。

しかし、課税団体となっている都市にとっては、道路や上下水道などの都市環境を整備するための貴重な財源です。

指定から外れれば、その財源を将来にわたって別の方法で補う必要が生じます。

人口が減っても都市インフラは残る

事業所税を失う問題を難しくするのが、人口とインフラ費用が同じようには減らないことです。

例えば、人口が31万人から29万人へ減少したとしても、道路が同じ割合で短くなるわけではありません。

上下水道の管路も残ります。

公共施設についても、人口が減ったからといって直ちにすべてを廃止することはできません。

むしろ、既存のインフラを少ない人口で支えることになれば、一人当たりの維持負担が重くなる可能性があります。

そのような状況で事業所税の課税団体から外れれば、自治体は財政面でさらに厳しい状況に置かれることがあります。

企業側から見れば事業所税の負担がなくなる

一方、企業側から見ると状況は逆になります。

その都市が事業所税の課税団体でなくなれば、原則としてその都市で事業を行うことを理由とする事業所税の負担はなくなります。

特に影響が大きいのは、大規模な事業所を持つ企業です。

資産割は事業所床面積1平方メートルにつき600円です。

例えば、課税対象となる床面積が1万平方メートルなら、単純計算で年間600万円です。

さらに従業者割が課税されていれば、その負担もあります。

課税団体から外れることで、企業にとっては相応のコスト削減になる場合があります。

赤字企業にとっても負担軽減になる

事業所税は企業利益を直接基準としていません。

そのため、赤字企業であっても一定規模以上の事業所を使用していれば課税されることがあります。

業績が悪化して法人税の所得に対する負担がなくなっても、大きな工場やオフィスを維持していれば資産割が発生する可能性があります。

多くの従業者を雇用して給与を支払っていれば、従業者割も関係します。

したがって、課税団体から外れることによる事業所税の負担減少は、利益が出ている企業だけのメリットではありません。

赤字企業にとっても固定的な負担が一つ減ることになります。

指定解除の時期と経過措置を確認する必要がある

課税団体の指定から外れたからといって、企業がニュースを見たその日から直ちに事業所税を一切考えなくてよいというわけではありません。

実務では、指定解除がいつから適用されるのかを確認する必要があります。

法人にはそれぞれ異なる事業年度があります。

また、制度変更に伴う経過措置が設けられる場合には、その内容も確認しなければなりません。

企業側では、自社の事業年度と指定解除の施行時期を照らし合わせ、どの事業年度まで申告納付が必要なのかを確認することが重要です。

自治体側にとっても、いつから税収がなくなるのかは予算編成に直接関係します。

税負担の差は企業立地にも影響する可能性がある

事業所税の有無は、企業が事業所を設置する際のコストの一つです。

例えば、隣接する二つの都市があり、一方では事業所税が課税され、もう一方では課税されないとします。

大規模な物流施設や工場、オフィスを建設する企業にとっては、年間の事業所税負担が立地コストの差になります。

もちろん、企業が立地を決める要因は税金だけではありません。

土地価格、賃料、交通網、労働力、取引先との距離、災害リスクなど、さまざまな条件があります。

それでも、条件が似ている地域を比較する場合には、事業所税の有無が判断材料の一つになる可能性があります。

指定解除が企業誘致にプラスになる可能性もある

自治体にとって事業所税を失うことは基本的には財源の減少です。

しかし、企業誘致という観点では別の見方もできます。

事業所税が課税されなくなれば、その都市で大規模な事業所を持つコストが低下します。

特に床面積の大きな工場や物流施設などでは、資産割の負担が無視できない場合があります。

そのため、事業所税がないことを企業立地上のメリットとして考えることもできます。

新しい企業が進出すれば、雇用が生まれ、法人住民税や固定資産税など別の税収につながる可能性があります。

事業所税の減収だけでなく、企業誘致による波及効果まで考える必要があります。

ただし人口減少そのものは企業誘致には逆風になる

一方で、課税団体から外れる原因が人口減少であることには注意が必要です。

事業所税がなくなることは企業にとってコスト削減ですが、人口減少は企業立地に必ずしも有利ではありません。

人口が減れば、地域で従業員を確保することが難しくなる可能性があります。

地域の消費市場も縮小する可能性があります。

公共交通や生活サービスの維持が難しくなれば、従業員が働きやすい環境にも影響します。

したがって、事業所税がなくなったから企業誘致が必ず進むとは限りません。

税負担の軽減と人口減少による経済基盤の縮小という二つの効果を考える必要があります。

自治体は代替財源を考える必要がある

事業所税を失った自治体では、都市インフラを維持するための財源を別の方法で確保する必要があります。

歳出を削減する方法もあります。

公共施設を統廃合したり、インフラの維持方法を見直したりすることも考えられます。

一方、人口減少によって住民税など他の税収も伸びにくくなれば、単純な財源振替は難しくなります。

国からの地方交付税や各種補助金との関係も含めて、地方財政全体で考える必要があります。

事業所税の課税団体から外れる問題は、一つの税収がなくなるだけではなく、人口減少都市がどのように行政サービスを維持するのかという問題につながっています。

課税団体に残る都市との税負担差も広がる

人口30万人前後の都市では、わずかな人口差によって事業所税の有無が分かれる可能性があります。

例えば、人口要件を満たして課税団体に残る都市と、人口減少によって指定から外れる都市が隣接していることも考えられます。

企業から見れば、同程度の都市規模であっても事業所税の負担が異なることになります。

人口が30万人を少し上回るか下回るかによって税負担に差が生じることが、人口減少時代にも合理的なのかという問題があります。

今後、課税団体から外れる都市が増えれば、この地域間の税負担差も制度見直しの論点になる可能性があります。

結論

事業所税の課税団体から外れることは、自治体と企業に正反対の影響を与えます。

自治体にとっては、道路や上下水道などの都市環境整備に利用してきた事業所税という財源を失うことになります。

しかも、人口が30万人を下回っても既存の都市インフラがなくなるわけではないため、財源減少とインフラ維持という二つの問題を抱えることになります。

一方、企業にとっては、資産割や従業者割の負担がなくなることで事業コストが低下します。

大規模な工場、物流施設、オフィスなどでは、その影響が大きくなる可能性があります。

事業所税がなくなることが企業誘致のプラス材料になる面もありますが、指定解除の原因となる人口減少そのものは、人材確保や地域市場の縮小という企業経営上の問題を伴います。

課税団体から外れることは、単純に自治体の損失、企業の利益だけでは捉えられません。

人口減少によって都市の規模が縮小するなかで、企業負担と自治体財源をどのように組み合わせて都市機能を維持するのかという問題につながっています。

参考

税のしるべ 2026年8月10日 事業所税の課税団体が減少、人口減で30万人以上の要件を満たせず

タイトルとURLをコピーしました