ふるさと納税をするとき、多くの人は民間の仲介サイトを利用しています。
全国の返礼品を検索し、寄付金額やカテゴリーなどで比較し、そのまま申し込みや決済までできるためです。
しかし最近、こうした民間サイトだけに頼らず、自治体自身がふるさと納税の寄付を直接受け付ける「独自サイト」を設ける動きが注目されています。
背景にあるのが、ふるさと納税の経費規制の強化です。
仲介サイトを利用すると自治体には手数料が発生します。経費として使える割合が段階的に縮小するなか、この手数料を削減し、できるだけ多くの寄付金を地域に残したいというわけです。
ただし、独自サイトを作ればすべて解決するほど単純ではありません。
最大の問題となるのが集客力です。
独自サイトとは何か
ふるさと納税の独自サイトとは、自治体が自ら用意したウェブサイトなどを通じて寄付を受け付ける仕組みです。
大手仲介サイトを経由する場合、寄付者は仲介サイト上で自治体や返礼品を探し、申し込みや決済を行います。
これに対して独自サイトでは、寄付者が自治体の専用サイトを直接訪問します。
そこで返礼品を選択し、寄付の申し込みから決済まで行える仕組みを整えます。
自治体と寄付者が、仲介サイトを介さず直接つながる形です。
なぜ独自サイトが注目されているのか
最大の理由は経費削減です。
ふるさと納税では、返礼品の調達費だけでなく、送料、決済費用、事務費、仲介サイトへの手数料など多くの経費が発生します。
なかでも仲介サイト関連の費用は自治体にとって大きな負担です。
日本経済新聞の記事では、仲介サイトの手数料は寄付額の平均11.5%にのぼるとされています。
例えば10億円の寄付について単純に11.5%なら、1億1500万円に相当します。
この一部でも削減できれば、自治体に残る金額を増やせる可能性があります。
経費規制が厳しくなるほど、独自サイトの意味も大きくなるわけです。
仲介サイトを使わなければ手数料を削減できる
独自サイトの最大のメリットは、大手仲介サイトへの手数料を削減できることです。
例えば1万円の寄付について、仲介サイト関連費用として1000円程度が必要だったとします。
独自サイト経由なら、この費用の全部または一部を削減できる可能性があります。
その分を地域に残せれば、行政サービスなどに活用できる寄付金は増えます。
あるいは、制度上認められる範囲で返礼品事業者への支払いなどに回すことも考えられます。
寄付額が大きい自治体ほど、わずかな手数料率の差でも金額としては大きくなります。
独自サイトにも経費はかかる
ただし、独自サイトなら費用がゼロになるわけではありません。
サイトを作るためにはシステム開発費が必要です。
完成した後も、サーバーやセキュリティー、決済システム、保守管理などに費用がかかります。
返礼品情報の更新も必要です。
寄付者から問い合わせがあれば対応しなければなりません。
外部事業者に運営を委託すれば、その委託費も発生します。
したがって、
仲介サイト手数料がなくなる
イコール
ふるさと納税の運営費がなくなる
ということではありません。
重要なのは、独自サイトを運営した場合の総コストが仲介サイト経由より低くなるかどうかです。
最大の弱点は集客力
さらに大きな問題があります。
集客力です。
大手仲介サイトには、すでに多くのふるさと納税利用者が集まっています。
寄付者は最初から特定の自治体を決めているとは限りません。
肉が欲しい
米を探したい
果物が欲しい
旅行関連の返礼品を探したい
といった目的から検索し、その結果として自治体を知ることもあります。
仲介サイトに掲載されていれば、自治体を知らなかった人にも返礼品を見てもらえる可能性があります。
独自サイトでは、この偶然の出会いが起こりにくくなります。
寄付者に自治体のサイトまで直接来てもらわなければならないからです。
手数料を減らしても寄付が減れば意味がない
ここに独自サイトの難しさがあります。
例えば仲介サイトを通じて年間10億円の寄付を集めていた自治体を考えます。
仲介サイト関連費用を1億円支払っていたとします。
独自サイトへ移行して、この費用を5000万円まで削減できれば、5000万円の経費削減になります。
ところが、集客力が低下して寄付額が10億円から7億円になればどうでしょうか。
経費率は改善しても、自治体に残る金額そのものが減る可能性があります。
したがって、独自サイトの効果は、
手数料を何円削減したか
だけでは判断できません。
寄付額をどれだけ維持できたかも同時に見る必要があります。
仲介サイトと独自サイトの併用も考えられる
そのため、現実的には仲介サイトを完全にやめるのではなく、独自サイトと併用する方法が考えられます。
新しい寄付者との接点は大手仲介サイトで確保します。
一方、一度その自治体に寄付してくれた人には、翌年以降に独自サイトを利用してもらいます。
例えば、
初回の寄付は仲介サイト
翌年以降は独自サイト
という流れを作ることができれば、集客力を維持しながら手数料を削減できる可能性があります。
これは一般の企業が、大手インターネット通販サイトで新規顧客を獲得し、その後は自社サイトで購入してもらおうとする戦略にも似ています。
自治体ブランドが強いほど有利になる
独自サイトの成否を左右するのが自治体のブランド力です。
全国的に知名度の高い観光地や、強力な特産品を持つ自治体なら、寄付者が自治体名を直接検索してくれる可能性があります。
毎年同じ自治体へ寄付する固定的な寄付者が多ければ、独自サイトへ誘導することも比較的容易です。
逆に知名度の低い自治体では、仲介サイトから離れると寄付者との接点そのものを失う可能性があります。
経費規制の強化によって、自治体のブランド力がこれまで以上に重要になる可能性があります。
寄付者と直接つながれることもメリット
独自サイトには、経費削減とは別のメリットもあります。
寄付者との直接的な関係を作りやすいことです。
仲介サイトでは、寄付者は多数の自治体や返礼品の中から商品を選ぶ感覚になりやすい面があります。
一方、独自サイトなら自治体自身が、
寄付金を何に使うのか
地域がどのような課題を抱えているのか
寄付によって何が実現したのか
地域にはどのような企業や生産者がいるのか
といった情報を自由に発信できます。
返礼品だけではなく、自治体そのものを知ってもらう場として活用できます。
返礼品競争から関係づくりへ
これまでのふるさと納税は、返礼品の魅力によって寄付者を集める競争になりやすい仕組みでした。
しかし、ポイント付与が禁止され、経費規制も厳しくなれば、従来と同じ方法で寄付を増やし続けることは難しくなります。
そこで重要になるのが、寄付者との継続的な関係です。
一度寄付した人に翌年も寄付してもらう。
実際に地域を訪れてもらう。
地域の商品を通常の通販でも購入してもらう。
場合によっては移住や二地域居住などにつながる可能性もあります。
独自サイトは、単なる寄付受付サイトではなく、自治体と地域外の人を結びつける入り口として活用できる余地があります。
経費規制強化で独自サイトは増えるのか
今後、独自サイトを検討する自治体は増える可能性があります。
経費として使える割合が縮小すれば、自治体は従来以上に費用対効果を意識しなければならないからです。
特に寄付額が大きい自治体では、仲介サイトへの手数料を数%削減するだけでも大きな金額になります。
一方、すべての自治体が独自サイトで成功できるわけではありません。
サイトを作るだけでは寄付者は来ません。
検索対策、広報、地域ブランドの構築、既存寄付者との関係づくりなどが必要になります。
これまで仲介サイト側が担っていた「寄付者を集める仕事」を、自治体自身がどこまでできるかが問われます。
結論
ふるさと納税の独自サイトとは、自治体が民間の大手仲介サイトだけに依存せず、自らのサイトで寄付の申し込みや決済を受け付ける仕組みです。
最大のメリットは、仲介サイトへの手数料を削減し、寄付金をより多く地域に残せる可能性があることです。
一方、最大の弱点は集客力です。
大手仲介サイトには全国の寄付者が集まりますが、自治体の独自サイトには自分たちで寄付者を呼び込まなければなりません。
そのため今後は、仲介サイトを完全にやめるのではなく、新規寄付者の獲得には仲介サイトを利用し、継続的な寄付者を独自サイトへ誘導するような使い分けも重要になるでしょう。
経費規制が厳しくなるほど、自治体に問われるのは単純な寄付額ではなくなります。
どれだけ少ないコストで寄付者を獲得し、どれだけ多くのお金を地域に残し、さらに寄付者との関係を継続できるか。
独自サイトの広がりは、ふるさと納税が返礼品を巡る競争から自治体自身の魅力を競う制度へ変わっていく一つの象徴になるのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年8月14日 朝刊 ふるさと納税26年度 市区7割が「減少」の見方
日本経済新聞 2026年8月14日 朝刊 ふるさと納税、自治体が窮余の独自サイト