公売財産の評価とは何か 税務署は差押不動産の価格をどう決めるのか編

税理士
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税金を滞納すると、税務署などは滞納者の財産を差し押さえ、その財産を公売して滞納税金に充てることがあります。

では、公売する土地や建物の価格は、どのように決められるのでしょうか。

固定資産税評価額をそのまま使うのでしょうか。

それとも相続税の路線価を使うのでしょうか。

実際には、公売財産にはその財産の性質や取引事情などを踏まえた評価が必要になります。

今回のシリーズの出発点となった公表裁決では、この「公売財産の評価」が重要な意味を持ちました。

国税不服審判所は、国税徴収法39条の第二次納税義務における「受けた利益」の算定について、公売財産の評価に準じて算定するのが相当と判断したからです。

今回は、公売財産の評価とはどのようなものなのかを見ていきます。

公売とは何か

税金を滞納しても、直ちに財産が売却されるわけではありません。

まず税務署などが滞納者の財産を調査し、必要に応じて差押えを行います。

差押えの対象となる財産には、

土地

建物

自動車

有価証券

動産

その他の財産

などがあります。

差し押さえた財産について、滞納者が税金を納付しない場合などには、その財産を換価して滞納税金へ充当することがあります。

その代表的な方法が公売です。

公売は、国税徴収法に基づいて差押財産などを売却し、その代金を滞納国税へ充てるための手続きです。

なぜ公売する前に評価が必要なのか

例えば、税務署が滞納者の土地を差し押さえたとします。

その土地をいくらで公売するのかについて、何の基準もなく決めることはできません。

極端に低い価格で売却すれば、滞納者の財産が不当に安く処分されることになります。

一方、実際の価値を大幅に上回る価格を設定すれば、買い手が現れず、公売が成立しない可能性があります。

そこで、公売する財産について客観的な価値を把握する必要があります。

そのために行われるのが公売財産の評価です。

公売財産の評価は、単に税金を徴収する側だけの問題ではありません。

滞納者の財産を適正に換価するという意味でも重要な手続きなのです。

見積価額とは何か

公売では「見積価額」という言葉が重要になります。

見積価額とは、公売財産の客観的な交換価値を基礎として算定される、公売手続上の重要な価格です。

公売では、この見積価額を基礎として入札などが行われます。

一般的なオークションのように、どんな低い価格でも落札できるわけではありません。

適正な価格を確保するための基準が必要だからです。

そのため、公売財産についてどのような評価方法を用い、見積価額を算定するのかが重要になります。

固定資産税評価額をそのまま使うわけではない

土地や建物には固定資産税評価額があります。

そのため、

「固定資産税評価額をそのまま公売価格にすればよいのではないか」

と思うかもしれません。

しかし、固定資産税評価額は固定資産税などを課税するための評価額です。

公売財産の評価とは目的が異なります。

公売では、実際にその財産を換価することを前提として価格を把握する必要があります。

したがって、固定資産税評価額は参考資料の一つにはなり得ても、それだけで公売財産の価値が決まるとは限りません。

この点は、前回取り上げた「税務上の評価額と時価の違い」と共通します。

公売財産は時価を基礎として評価する

公売財産を評価する場合には、その財産の時価を把握することが基本になります。

ただし、時価といっても簡単ではありません。

例えば土地であれば、

所在地

面積

形状

接道状況

用途地域

建ぺい率

容積率

周辺環境

利用状況

賃貸借関係

法令上の規制

などによって価値が変わります。

農地であれば、農地法上の規制や利用状況なども重要になる可能性があります。

そのため、一つの公的評価額を機械的に当てはめるだけでは、適正な価格を把握できない場合があります。

取引事例比較法とは何か

不動産評価の代表的な方法の一つが取引事例比較法です。

これは、対象となる不動産と類似する不動産について実際に成立した取引価格を参考にしながら、対象不動産の価格を求める方法です。

例えば対象となる土地の近くで、

同じような用途

同程度の面積

似た道路条件

を持つ土地が最近売買されていれば、その取引価格は重要な参考になります。

ただし、不動産は一つ一つ条件が違います。

駅からの距離が違う。

土地の形が違う。

道路幅が違う。

面積が違う。

こうした違いを補正しながら対象土地の価格を求めます。

実際の市場取引を基礎とするため、不動産の時価を考えるうえで重要な方法です。

収益還元法とは何か

収益物件などでは、収益還元法が重要になります。

収益還元法とは、その不動産が将来生み出すと期待される収益を基礎として不動産価値を求める方法です。

例えば賃貸マンションや賃貸ビルであれば、

どれだけの賃料収入が得られるのか

管理費や修繕費などはいくらか

空室リスクはどの程度か

将来どれくらいの収益が期待できるのか

といった要素が価格に大きな影響を与えます。

投資家から見れば、不動産の価値は「その物件から将来いくら稼げるのか」と密接に関係します。

そのため収益不動産では、単に土地面積や建物面積だけでなく、収益力から価値を判断する方法が重要になります。

原価法とは何か

もう一つの代表的な評価方法が原価法です。

原価法では、対象となる不動産を現在新たに取得または建築するとした場合にどの程度の費用が必要なのかを考えます。

そこから、

建物の経年劣化

機能的な陳腐化

市場環境による価値低下

などを考慮して現在の価値を求めます。

建物などの評価で重要になる方法です。

不動産の種類や性質によって、どの評価方法が適しているのかは異なります。

そのため実際の評価では、複数の方法を検討しながら価格を求めることがあります。

価格形成要因を考慮することが重要になる

今回の公表裁決で審判所は、国税徴収法39条の「受けた利益」の算定について、公売財産の評価に準じるのが相当としました。

その際、対象となった各土地について、それぞれの特性に応じ、

取引事例比較法

収益還元法

原価法

その他の評価方法

を適切に用い、土地の価格を形成する要因を適切に考慮して、時価に相当する価額を求めるという考え方を示しています。

重要なのは、「固定資産税評価額に一定の倍率を掛ければ終了」という考え方ではないことです。

対象となる財産そのものの経済価値を把握する必要があります。

なぜ第二次納税義務で公売財産の評価を使うのか

ここで疑問になるのが、

「今回の土地は実際に公売されたわけではないのに、なぜ公売財産の評価方法を使うのか」

という点です。

今回問題となったのは、父親から長男へ贈与された土地について、長男が国税徴収法39条上どれだけの「利益を受けた」のかという問題でした。

ところが、徴収法39条や国税徴収法基本通達には、「受けた利益」の具体的な評価方法について直接の定めがありません。

そこで審判所は、同じ国税徴収法上の財産評価である公売財産の評価方法に準じるのが相当と判断しました。

つまり、公売そのものを行うためではなく、客観的な時価を求めるための評価方法として公売財産の評価の考え方を利用したわけです。

公売財産の評価と相続税評価は目的が違う

ここでも、評価目的の違いが重要になります。

相続税や贈与税では、財産評価基本通達によって大量の財産を統一的かつ公平に評価する必要があります。

そのため土地では路線価方式や倍率方式などが用いられます。

一方、公売では実際に差押財産を換価することを前提としています。

そのため、対象財産の市場における価値をより具体的に把握する必要があります。

第二次納税義務の「受けた利益」についても、第三者が無償譲渡等によって実際にどの程度の経済的利益を受けたのかを把握する必要があります。

この目的の違いが、評価方法の違いにつながっています。

公売特有の事情も考える必要がある

ただし、公売財産の評価では、通常の不動産売買とは異なる事情もあります。

一般の不動産売買では、売主が時間をかけて買主を探したり、条件交渉を行ったりできます。

これに対して公売は、滞納処分として行われる強制換価の手続きです。

また、財産によっては、

占有者がいる

権利関係が複雑である

内部を十分確認できない

買受後の明渡しが問題になる

など、公売特有の事情が存在することがあります。

こうした事情は、実際に公売する場合の価格にも影響を与える可能性があります。

したがって、「公売財産の評価」と「通常の市場で自由に売却した場合の価格」が常に完全に一致するという意味ではありません。

不動産鑑定士へ評価を依頼する場合がある

公売財産の評価では、必要に応じて専門家の意見を利用することがあります。

特に高額な不動産や評価が難しい財産では、不動産鑑定士による評価が重要になります。

不動産鑑定士は、対象不動産の特性や市場環境を分析し、専門的な評価手法を使って価格を判定します。

今回の公表裁決でも、請求人と原処分庁の評価額に10倍以上もの開差がありました。

そこで国税不服審判所は、対象となった農地の贈与時点における時価を求めるため、不動産鑑定士へ鑑定評価を依頼しました。

審判所は、その鑑定評価に不合理な点はないと判断しています。

20年以上前の時価を求める難しさ

今回の裁決には、もう一つ興味深い特徴があります。

問題となった贈与は平成14年に行われています。

一方、公表裁決は令和7年10月です。

つまり、20年以上前の土地の時価を改めて検証する必要がありました。

現在の土地価格を調べればよいわけではありません。

贈与が行われた当時の、

取引事例

地価水準

土地利用状況

法令上の規制

周辺環境

などを確認し、その時点にさかのぼって評価する必要があります。

財産評価を巡る税務争訟では、「いつの時点の時価なのか」が非常に重要です。

評価資料を残しておく意味は大きい

この裁決から得られる実務上の教訓の一つが、財産移転時の資料保存です。

不動産を親族間で贈与したり売買したりするときには、

当時の不動産会社の査定書

周辺の取引事例

公示価格などの資料

売買価格を決めた経緯

不動産鑑定評価書

契約書

などを残しておくことが重要です。

数十年後に当時の時価が問題になった場合、その時点の状況を後から再現するのは簡単ではありません。

特に多額の財産を親族間で移転する場合には、「申告が終わったから資料も不要」と考えないことが大切です。

結論

公売財産の評価とは、差し押さえた財産を適正に換価するため、その財産の客観的な価値を把握するための重要な手続きです。

土地や建物については、固定資産税評価額や相続税評価額を機械的に使用するのではなく、財産の特性に応じて取引事例比較法、収益還元法、原価法などの評価方法を適切に用い、さまざまな価格形成要因を考慮して評価することになります。

今回の公表裁決では、国税徴収法39条の「受けた利益」の具体的な算定方法について直接の定めがないことから、公売財産の評価に準じて算定するのが相当と判断されました。

そして対象となった農地について、不動産鑑定士による鑑定評価を実施し、その鑑定評価額を贈与時の時価と認定しています。

この裁決は、「税務上の評価額が存在するから、それをそのまま使えばよい」とは限らないことを改めて示しています。

財産評価では、何のために価格を求めるのかという目的が重要です。

そして、公売財産や第二次納税義務のように客観的な時価そのものが重要になる場面では、不動産鑑定の考え方が大きな役割を果たします。

次回は「不動産鑑定評価とは何か」として、取引事例比較法、収益還元法、原価法という三つの代表的な評価手法と、税務争訟で不動産鑑定士の評価が重要になる理由を詳しく見ていきます。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 【公表裁決】原処分庁の主張額は審判所依頼の鑑定評価額の範囲内、処分は適法

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