近年、相続税や贈与税の節税対策として、不動産を活用した株式評価の引下げスキームが問題視されています。国税庁は、こうした行き過ぎた節税策への対応を強化するため、取引相場のない株式の評価方法の見直しを進めています。
特に注目されているのが、法人が貸付用不動産を購入し、一定期間保有した後に株式を贈与・相続することで株式評価額を大幅に引き下げる手法です。従来のルールでは「3年」を超えて保有すれば取得価額ではなく相続税評価額で計算できるケースがありましたが、この制度の見直しが検討されています。
今回は、この制度の仕組みと見直しの背景について分かりやすく解説します。
非上場株式の純資産価額方式とは
非上場会社の株式は、市場価格が存在しないため、財産評価基本通達に基づいて評価します。
その代表的な方法が純資産価額方式です。
この方法では、会社が保有する資産や負債を時価ベースで評価し、その純資産額から1株当たりの価値を算定します。
会社が多額の不動産を保有している場合、その不動産の評価額が株価に直接影響するため、不動産の評価方法が株式評価の重要なポイントになります。
問題となった節税スキーム
国税庁が有識者会議で示した事例では、次のような流れになっています。
まず、資産管理会社(ホールディング会社)が金融機関から借入れを行い、貸付用不動産を取得します。
その後、不動産を4年6か月保有した時点で株式を子へ贈与します。
このとき、貸付用不動産は取得価額ではなく相続税評価額で評価されるため、会社の純資産額が大きく減少します。
結果として株式評価額が約5億4,000万円減少し、贈与税・相続税が約3億円軽減されるという試算が示されました。
国税庁は、このような評価方法の利用は制度趣旨を逸脱する租税回避に当たる可能性があると考えています。
「3年しばり」とは何か
財産評価基本通達185では、評価会社が課税時期前3年以内に取得した不動産については、通常の取引価額(時価)で評価することとされています。
これがいわゆる「3年しばり」です。
つまり、不動産を取得して3年以内であれば、取得価額に近い時価評価となるため、大幅な評価引下げはできません。
しかし、3年を超えると通常は相続税評価額で計算できるため、評価額が大きく下がる場合があります。
今回問題となった事例では4年6か月保有していたため、この3年しばりの対象外となりました。
なぜ3年間だったのか
この制度が導入された当時は、高金利時代でした。
借入金の利息負担が大きかったため、長期間保有しても節税効果は限定的と考えられていました。
また、当時は地価変動も現在とは異なり、3年間程度で取得価額と時価との差が縮小すると考えられていました。
そのため、「3年」という期間には一定の合理性がありました。
しかし現在は超低金利が続き、借入れコストが小さい一方で、不動産評価額との差額を利用した節税効果が長期間維持されやすくなっています。
このため、3年間では短すぎるのではないかという指摘が強まっています。
個人ではすでに見直しが進む
個人が取得した貸付用不動産については、令和8年度税制改正大綱で評価方法の見直しが決定されています。
令和9年1月以降は、被相続人等が課税時期前5年以内に取得または新築した一定の貸付用不動産について、通常の取引価額によって評価する制度が導入される予定です。
従来のように評価額を大幅に引き下げることが難しくなる見込みです。
法人への適用も検討へ
今回の有識者会議では、個人だけでなく法人についても同様の見直しを行う方向性が示されました。
今後は、
- 保有期間を延長するのか
- 取得価額評価の対象範囲を広げるのか
- 新たな判定基準を設けるのか
などが議論される可能性があります。
現時点では制度改正は決定していませんが、株式評価を利用した節税策は今後大きく変わる可能性があります。
資産管理会社を活用した相続対策を検討している方にとっては、今後の通達改正や評価ルールの動向を継続的に確認することが重要になるでしょう。
結論
国税庁は、法人が貸付用不動産を購入した後に株式を移転し、株式評価額を大幅に引き下げる節税スキームについて見直しを進めようとしています。
これまで利用されてきた「3年しばり」は、超低金利時代には十分な抑止効果を持たないとの指摘があり、制度改正の方向性が示されました。
個人についてはすでに5年ルールへの見直しが予定されており、法人についても同様の考え方が導入される可能性があります。
今後は、従来の評価手法を前提とした相続・事業承継対策が通用しなくなることも考えられるため、最新の制度改正の動向を踏まえた対策を検討することが重要です。
参考
税のしるべ
2026年8月3日
「法人が不動産を購入した後の株式の評価方法を見直しへ、『3年しばり』に短いの声」