日本では高齢化の進展に伴い、医療費が増加し続けています。こうした状況を受け、国は後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用を促進し、公的医療保険制度を持続可能なものにするため、さまざまな制度改革を進めています。
その一つが「長期収載品の選定療養」です。
この制度では、後発医薬品があるにもかかわらず、患者が希望して先発医薬品を選ぶ場合には、通常の自己負担とは別に追加費用を支払うことになります。
今回は、長期収載品の選定療養の仕組みや導入の背景、対象となる薬、OTC類似薬制度との違いについて解説します。
長期収載品の選定療養とは何か
長期収載品とは、特許期間が終了した後も販売が続けられている先発医薬品のことです。
こうした薬には、同じ有効成分を持つ後発医薬品が販売されているケースが数多くあります。
長期収載品の選定療養とは、医療上の必要性がないにもかかわらず、患者自身の希望で先発医薬品を選択した場合、その費用の一部を追加で自己負担する制度です。
この制度は2024年度から導入されました。
制度創設の背景
制度が導入された背景には、医療費の増加があります。
日本では高齢化の進展により医療費が拡大しており、公的医療保険制度を維持するためには医療費の適正化が重要な課題となっています。
一方で、後発医薬品は先発医薬品と同じ有効成分を持ちながら価格が安く、多くの患者が利用することで医療費全体を抑える効果が期待されています。
しかし、後発医薬品が利用できるにもかかわらず、患者の希望だけで先発医薬品が選ばれるケースも少なくありませんでした。
そこで、医療上の必要性がない場合には、先発医薬品を希望する患者に一定の追加負担を求める制度が導入されました。
対象となる薬
制度の対象となるのは、後発医薬品が発売され、一定期間が経過している長期収載品です。
ただし、すべての先発医薬品が対象になるわけではありません。
例えば、
・後発医薬品が供給不足の場合
・医師が医学的な理由から先発医薬品を指定した場合
・後発医薬品への変更が適当でないと判断された場合
などは、追加負担の対象外となります。
制度は患者の自由な選択を完全に制限するものではなく、「希望による選択」に対して追加費用を求める仕組みです。
追加負担の仕組み
追加負担は、通常の医療保険の自己負担とは別に支払います。
具体的には、先発医薬品と後発医薬品の価格差の一定割合を患者が負担します。
つまり、
・通常の自己負担
・選定療養による追加負担
の二つを支払うことになります。
そのため、患者が先発医薬品を希望する場合には、従来よりも自己負担額が増える可能性があります。
OTC類似薬制度との違い
OTC類似薬の追加負担制度と混同されることがありますが、両者の目的や対象は異なります。
長期収載品の選定療養は、後発医薬品がある先発医薬品を患者の希望で選ぶ場合の制度です。
一方、OTC類似薬制度は、市販薬でも購入できる薬について、公的医療保険で処方を受ける場合に追加負担を求める制度です。
比較すると次のようになります。
- 長期収載品の選定療養:先発医薬品と後発医薬品の選択が対象
- OTC類似薬制度:医療用医薬品と市販薬に近い薬の利用が対象
どちらも医療費の適正化を目的としていますが、制度の対象や考え方は異なります。
患者が理解しておきたいポイント
制度が始まったことで、「先発医薬品は使えなくなる」と誤解されることがあります。
しかし、そのようなことはありません。
患者は引き続き先発医薬品を選択できます。
ただし、医学的な必要性ではなく本人の希望による場合には、追加費用が発生します。
また、医師が治療上必要と判断した場合には、追加負担が生じないケースもあります。
制度の内容を理解したうえで、自分に合った選択をすることが重要です。
今後の展望
国は後発医薬品の普及を進める一方で、近年は供給不足が課題となっています。
そのため、制度を円滑に運用するには、後発医薬品を安定的に供給できる体制の整備も欠かせません。
今後は品質の確保や安定供給を進めながら、患者が安心して後発医薬品を選択できる環境づくりが重要になるでしょう。
結論
長期収載品の選定療養は、後発医薬品がある先発医薬品を患者の希望で選択した場合に、通常の自己負担とは別に追加費用を求める制度です。
制度の目的は、後発医薬品の利用を促進し、医療費を適正化することで、公的医療保険制度を将来にわたって維持することにあります。
OTC類似薬の追加負担制度と同様に、限られた医療財源を有効に活用するための改革として、今後も制度の内容や運用が注目されるでしょう。
参考
厚生労働省「長期収載品の選定療養について」
厚生労働省「後発医薬品の使用促進について」
日本経済新聞 2026年8月6日 朝刊「OTC類似薬の追加負担案 湿布、重症患者は一部例外」