近年の政府の経済政策では、「責任ある積極財政」という言葉が使われるようになりました。
従来の積極財政と何が違うのか、単に財政支出を増やす政策なのかと疑問を持つ人も多いでしょう。
2027年度予算の概算要求基準では、AIや経済安全保障など成長分野への投資を大幅に拡充する一方で、「市場の信認を確保する」という方針も示されました。
これは、「必要な投資は大胆に行うが、財政規律も忘れない」という新しい考え方を表しています。
今回は、「責任ある積極財政」の考え方と、その背景について解説します。
積極財政とは何か
積極財政とは、政府が財政支出を増やすことで景気や経済成長を支えようとする政策です。
景気が低迷しているときには、公共投資や補助金、減税などを通じて需要を増やし、経済を活性化させることを目的とします。
世界各国でも景気後退局面では積極財政が採られることが多く、日本でもリーマン・ショックや新型コロナウイルス禍では大規模な財政出動が行われました。
「責任ある」が付いた理由
近年使われる「責任ある積極財政」は、従来の積極財政と少し考え方が異なります。
単に財政支出を増やすのではなく、その支出が将来の成長につながることを重視しています。
例えば、AIや半導体、GX、人材育成、防衛力強化などへの投資は、将来の生産性向上や経済成長を目的としています。
つまり、「今お金を使うこと」ではなく、「将来の経済力を高めること」が政策の中心になっているのです。
成長投資が重視される背景
日本では人口減少が進み、労働力だけで高い経済成長を実現することが難しくなっています。
そのため、生産性を高める投資が欠かせません。
AIやデジタル技術への投資、研究開発支援、スタートアップ育成などは、短期的には財政支出を増やします。
しかし、それによって企業の競争力が高まり、賃金や税収が増えれば、長期的には財政改善にもつながる可能性があります。
これが「投資によって成長を生み出す」という考え方です。
財政規律との両立
積極財政が成功するためには、市場からの信頼を維持することも重要です。
国債発行が急増し、将来の返済能力に不安が生じれば、長期金利が上昇し、政府だけでなく企業や家計にも影響が及びます。
そのため政府は、骨太の方針でも「市場の信認確保」を掲げています。
必要な投資は行う一方で、効果の低い支出を見直し、財政の持続可能性も確保することが求められています。
「責任ある」という言葉には、この財政規律への配慮が込められているのです。
従来との違い
従来の積極財政は、景気対策として公共事業や給付金などによって需要を増やすことに重点が置かれることが多くありました。
一方、責任ある積極財政では、景気対策だけでなく、日本経済の潜在成長率を高めることが大きな目的となっています。
また、政策効果の検証や成果の評価も重視されるようになっています。
限られた財源だからこそ、「どれだけ支出したか」ではなく、「どれだけ成果を生んだか」が問われる時代になってきたといえるでしょう。
税理士として感じること
企業でも、借入れをして設備投資を行うことがあります。
その借入れが新しい収益を生み出すのであれば、将来の利益によって返済することができます。
一方で、売上につながらない支出ばかりが増えれば、資金繰りは悪化します。
国の財政も同じではないでしょうか。
重要なのは、財政支出を増やすことではなく、その支出が将来の成長につながるかどうかです。
だからこそ、「責任ある積極財政」という考え方は、企業経営にも通じる視点だと感じます。
結論
責任ある積極財政とは、将来の成長につながる分野へ積極的に投資しながら、財政規律や市場からの信頼も維持しようとする新しい財政運営の考え方です。
従来の景気対策中心の積極財政とは異なり、生産性向上や潜在成長率の引き上げを重視している点が特徴です。
これからの日本では、人口減少や国際競争の激化が続く中で、限られた財源をどの分野へ投資するかがますます重要になります。
財政支出の規模ではなく、その投資が将来どれだけの価値を生み出すのかという視点で政策を見ることが、これからの経済ニュースを理解する鍵になるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月31日 朝刊「概算要求、大幅膨張に危惧 財務相『もはやシーリングはない』 来年度予算、市場も注視」