政府は2027年度予算の概算要求基準を決定し、AIや経済安全保障など成長分野については、事実上シーリング(予算要求の上限)を設けない方針を示しました。一方で、同日に公表された2026年度の実質GDP成長率見通しは0.9%へ下方修正されています。
一見すると、予算編成と経済見通しは別々の話題のように思えます。しかし実際には、「景気の減速懸念があるからこそ成長投資を強化する」という政府の考え方でつながっています。
今回は、概算要求基準の大きな転換と成長率見通しの修正から、日本の財政運営がどのような局面を迎えているのかを考えてみます。
シーリングは財政規律の象徴だった
シーリングとは、各省庁が予算を要求する際の上限を定める仕組みです。
1960年代に導入され、その後は財政赤字の拡大を防ぐための重要なルールとして機能してきました。近年は例外措置が増え、以前ほど厳格な制度ではなくなっていましたが、それでも「要求額には一定の歯止めがある」という財政規律の象徴でした。
今回の概算要求基準では、AIや半導体、経済安全保障など国の成長戦略に関わる分野については要求額の上限を設けず、金額を示さない事項要求も認めています。
これは予算編成の考え方が大きく転換したことを意味しています。
成長投資を優先する時代へ
今回新設された「強く豊かな日本」投資枠では、AI、GX、防衛、宇宙など17の戦略分野への重点投資が想定されています。
人口減少が続く日本では、従来型の公共投資だけでは高い経済成長を維持することは難しくなっています。
そこで政府は、生産性向上や新産業育成につながる分野へ資源を集中し、潜在成長率そのものを高めようとしています。
補正予算に依存してきた政策を当初予算へ組み込み、中長期的な投資計画として進めようとしている点も今回の特徴です。
成長率見通しは下方修正された
積極的な投資方針とは対照的に、政府は2026年度の実質GDP成長率見通しを0.9%へ引き下げました。
主な理由は、中東情勢の悪化に伴う原油価格の上昇です。
エネルギー価格の高騰は企業のコスト増加につながり、家計の負担も重くなります。その結果、個人消費の回復が緩やかになり、日本経済全体の成長も鈍化すると見込まれています。
一方で設備投資は引き続き堅調とされており、企業の成長投資への期待は維持されています。
市場が注目するのは国債発行額
市場関係者が最も注目しているのは、予算総額そのものではありません。
問題となるのは、その財源です。
支出が増えれば、その分を税収で賄えるのか、それとも国債発行に頼るのかが問われます。
近年は長期金利が上昇しやすい環境となっており、財政悪化への懸念が強まれば国債利回りがさらに上昇する可能性があります。
政府が骨太の方針で「市場の信認確保」を明記した背景には、こうした市場の視線があります。
積極財政と財政規律は対立しない
積極財政という言葉から、「支出を増やすだけ」という印象を受ける人も少なくありません。
しかし本来重要なのは、どこへ投資するかです。
将来の成長や税収増加につながる投資であれば、短期的に財政支出が増えても、その後の経済成長によって回収できる可能性があります。
逆に、効果の低い事業へ予算を配分すれば、国債だけが積み上がることになります。
これからは予算の総額ではなく、投資の質や政策効果がこれまで以上に厳しく問われる時代になるでしょう。
税理士として感じること
企業経営では、将来につながる投資と不要な支出の削減を同時に進めることが求められます。
国の財政も同じ考え方です。
AIや経済安全保障への投資が新たな産業を育て、生産性向上につながれば、日本経済全体の成長力が高まり、結果として税収増加や財政健全化にもつながる可能性があります。
一方で、投資効果の検証を怠れば、財政負担だけが増えることになります。
だからこそ、積極財政と財政規律は対立する概念ではなく、「成果を生み出す投資を選び抜くこと」が重要なのだと感じます。
結論
2027年度予算の概算要求基準は、日本の予算編成が新たな局面へ入ったことを示しています。
成長分野への大胆な投資を進める一方で、市場は財政規律の維持を厳しく見守っています。また、政府自身も2026年度の成長率見通しを下方修正しており、日本経済を取り巻く環境は決して楽観できる状況ではありません。
今後は、どれだけ予算を増やすかではなく、その予算が日本経済の成長力向上に結び付くかどうかが、財政運営を評価する最大のポイントになっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月31日 朝刊 「概算要求、大幅膨張に危惧 財務相『もはやシーリングはない』 来年度予算、市場も注視」
日本経済新聞 2026年7月31日 朝刊 「実質成長率0.9%に下振れ 今年度、政府が見通し修正」