取引先が突然連絡が取れなくなったり、郵便物が返送されたりすると、「もう回収できない」と判断したくなるものです。しかし、税務上は、単に連絡が取れないという理由だけでは貸倒損失として損金算入することはできません。
貸倒損失は、債権が客観的に回収不能となったことが必要であり、十分な調査や回収努力を行ったことも重要な判断材料になります。
今回は、債務者と連絡が取れない場合の貸倒損失の考え方について解説します。
連絡不能と貸倒れは同じではない
会社が移転し、電話がつながらず、代表者とも連絡が取れないという状況は珍しくありません。
しかし、そのような状態であっても、会社が事業を継続していたり、資産を保有していたりする可能性があります。
税務上の貸倒損失は、「連絡が取れないこと」ではなく、「債権の回収が客観的に不可能であること」が要件となります。
そのため、連絡不能は貸倒れを疑う事情の一つではありますが、それだけでは貸倒損失を計上する根拠にはなりません。
まずはできる限りの調査を行う
貸倒処理を検討する前に、債権者として可能な範囲で調査を行うことが重要です。
例えば、
・法人登記の確認
・商業登記簿による本店所在地や代表者の確認
・現地訪問
・取引金融機関や主要取引先からの情報収集
・内容証明郵便の発送
などが考えられます。
また、破産手続開始決定や特別清算などの法的手続が行われていないかも確認しておく必要があります。
これらの調査記録は、後日の税務調査でも重要な証拠になります。
回収努力を行った記録を残す
税務署は、「本当に回収できなかったのか」だけでなく、「回収する努力を行ったのか」という点も確認します。
例えば、
・督促状の送付
・メールや電話での催告
・訪問記録
・弁護士への相談
などが残されていれば、回収努力を行ったことを説明しやすくなります。
逆に、何もせずに貸倒処理を行った場合には、損金算入が否認されるリスクが高まります。
税務調査では何を確認されるのか
税務調査では、貸倒損失について次のような点が確認されます。
まず、債務者が本当に事業を停止していたのか。
次に、財産や保証人など回収できる可能性は残っていなかったのか。
さらに、債権者として十分な回収努力を行ったのか。
そして、貸倒処理を行った時期は適切だったのか。
これらについて客観的な資料で説明できなければ、貸倒損失として認められないことがあります。
法律上の貸倒れとの違いも理解する
連絡不能だからといって法律上の権利が消滅するわけではありません。
債権そのものは残っており、後日、所在が判明すれば請求できる可能性もあります。
このため、税務上も「現在連絡が取れない」という事実だけでは、回収不能とは判断されません。
法的整理や消滅時効、債務免除など、債権の回収不能が客観的に認められる事情との区別を理解しておくことが大切です。
日頃から債権管理を徹底する
貸倒損失は、問題が発生してから慌てて対応するよりも、日頃から債権管理を適切に行っている企業ほど、税務上の説明もしやすくなります。
請求書や契約書、督促記録、取引履歴などを整理して保存しておけば、回収努力や貸倒れに至る経緯を客観的に示すことができます。
こうした基本的な管理体制が、税務調査への備えにもつながります。
結論
債務者と連絡が取れないという事実だけでは、税務上の貸倒損失は認められません。
重要なのは、十分な調査と回収努力を尽くした上で、客観的に回収不能であることを証明できるかどうかです。
貸倒損失は企業の損失を税務上反映する重要な制度ですが、その適用には厳格な要件があります。日頃から適切な債権管理と証拠保存を行うことが、円滑な税務対応につながるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年7月27日
連載「不良債権に係る税務上の取扱いの再確認」第4回/債権者集会などで協議決定等があった場合
法人税基本通達9−6−1
法人税法
国税庁 法人税基本通達