企業が成長を続けるためには、今の事業で利益を上げることが欠かせません。
しかし、それだけでは将来の成長は保証されません。
市場環境や技術は絶えず変化しており、現在の主力商品が数年後も競争力を維持しているとは限らないからです。
一方で、新規事業ばかりに資源を投入すれば、現在の収益基盤が弱くなり、経営そのものが不安定になります。
この難しい課題に対する考え方として注目されているのが、「両利きの経営」です。
今回は、企業が持続的に成長するための経営手法について考えてみます。
両利きの経営とは何か
両利きの経営とは、既存事業を磨き続ける「深化」と、新しい事業や市場へ挑戦する「探索」を同時に進める経営の考え方です。
人間が右手と左手を使い分けるように、企業も二つの役割を同時に果たす必要があるという意味から、この名前が付けられました。
「深化」は現在の強みをさらに高める活動です。
品質向上やコスト削減、生産性の改善などが代表例です。
一方、「探索」は未来の成長を生み出す活動です。
新技術の研究、新規事業への参入、新しい市場の開拓などがこれに当たります。
企業は、この二つをバランスよく進めることで、短期と長期の成長を両立できます。
既存事業だけでは成長を続けられない
多くの企業は、現在利益を生み出している事業を重視します。
当然のことですが、利益を確保しなければ社員の雇用や設備投資も維持できません。
しかし、成功している事業ほど、そのやり方に慣れ、変化を避ける傾向が生まれます。
その結果、新しい技術や市場への対応が遅れ、競争力を失ってしまうことがあります。
歴史を振り返ると、かつて世界をリードしていた企業が、新たな技術革新の波に乗り遅れて苦戦した例は少なくありません。
成功体験が、未来への挑戦を妨げることもあるのです。
新規事業だけを追い求めても危険
一方で、新しいことばかりに挑戦すればよいわけでもありません。
新規事業は成功する保証がなく、多くの時間や資金を必要とします。
十分な収益基盤がないまま新しい挑戦を続ければ、企業全体の経営が不安定になる恐れがあります。
だからこそ、既存事業で利益を確保しながら、その利益を未来への投資へ振り向けるという循環が重要になります。
現在の収益が未来への成長を支え、未来の成長が次の収益を生み出すという好循環が、企業を長く成長させるのです。
世界企業はどう実践しているのか
世界には、両利きの経営を実践している企業が数多くあります。
例えば、長年にわたり主力事業で安定した収益を確保しながら、その利益をAIやクラウドサービス、ヘルスケア、環境技術など新しい分野へ積極的に投資している企業があります。
こうした企業は、既存事業をおろそかにすることなく、新たな収益の柱を育てています。
重要なのは、新規事業を「本業の敵」と考えるのではなく、「次の本業を育てる活動」と位置付けている点です。
その発想が、長期的な競争力につながっています。
日本企業に求められる発想の転換
日本企業は品質改善や効率化を得意としています。
これは「深化」の面では大きな強みです。
一方で、「探索」への投資は慎重になりやすいと言われています。
失敗を避ける文化や短期的な収益への意識が、新しい挑戦を難しくしている面もあります。
しかし、AIやデジタル技術の進化が加速する現在では、現状維持そのものが最大のリスクになる可能性があります。
既存事業を守るだけではなく、未来を創る事業にも継続的に挑戦する姿勢が、企業価値を高める重要な要素となっています。
経営者に求められる役割
両利きの経営を実現するためには、経営者の役割が極めて重要です。
既存事業の責任者は、効率化や利益拡大を追求します。
一方で、新規事業の担当者は、失敗を前提に試行錯誤を繰り返します。
評価基準も求められる人材も異なるため、同じ方法で管理すると、新規事業は育ちません。
経営者には、それぞれの役割に応じた目標や評価制度を設計し、短期利益と長期成長の両方を支える組織づくりが求められます。
結論
両利きの経営とは、既存事業を強化する「深化」と、新しい成長機会を探る「探索」を同時に進める経営手法です。
どちらか一方だけでは、企業は持続的な成長を実現できません。現在の利益を守りながら未来への投資を続けることが、変化の激しい時代を生き抜くための鍵となります。
企業の競争力は、今日の成功だけでは決まりません。10年後、20年後の成長を見据えて挑戦を続けられるかどうかが、真の企業価値を左右します。両利きの経営は、そのための重要な考え方として、これからますます注目されていくでしょう。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年7月28日
経営が損なう 日本の競争力 #Deep Insight