日本では少子高齢化によって働き手が減少し、介護、建設、農業、外食など幅広い分野で人材不足が深刻になっています。
こうした人手不足に対応するために設けられた在留資格が「特定技能」です。
特定技能制度では、一定の技能と日本語能力を持つ外国人が、日本国内の人材確保が難しい分野で働くことができます。
介護分野でも特定技能で働く外国人が増えており、日本の介護サービスを支える重要な存在になっています。
今回は、特定技能制度がどのような仕組みなのか、技能実習や在留資格「介護」と何が違うのかを分かりやすく解説します。
人手不足に対応するための在留資格
特定技能制度は、人材確保が特に難しい産業分野で、一定の専門性や技能を持つ外国人を受け入れる仕組みです。
制度が始まった背景には、日本の生産年齢人口の減少があります。
企業が省力化や待遇改善に取り組んでも、国内だけでは必要な人材を確保できない分野が増えてきました。
そこで、外国人に実際の働き手として活躍してもらうために設けられたのが特定技能です。
国際協力や技術移転を目的とする技能実習とは異なり、特定技能は人手不足分野における就労を制度の正面から認めています。
特定技能1号と特定技能2号
特定技能には、特定技能1号と特定技能2号があります。
特定技能1号は、対象分野で働くために必要な相当程度の知識や経験を持つ外国人を対象としています。
在留できる期間には通算で上限があり、原則として家族を日本へ帯同することはできません。
一方、特定技能2号は、より熟練した技能を持つ人を対象とする在留資格です。
更新を続けることで長期間日本に在留でき、一定の条件を満たせば配偶者や子どもを呼び寄せることもできます。
ただし、介護分野には特定技能2号がありません。
介護福祉士の国家資格を取得した外国人は、特定技能2号ではなく、在留資格「介護」へ移行できる仕組みがあるためです。
働くために必要な試験
特定技能1号で働くためには、原則として技能試験と日本語試験に合格する必要があります。
技能試験では、それぞれの分野で働くために必要な知識や実務能力が確認されます。
日本語試験では、仕事や日常生活に必要な基本的な日本語能力が求められます。
介護分野では、一般的な日本語試験に加え、介護現場で使われる言葉を理解するための試験も設けられています。
介護では利用者との会話や安全確認が欠かせないため、ほかの分野以上に日本語によるコミュニケーションが重要になるからです。
一定の技能実習を良好に修了した人については、関係する分野へ移行する際に試験が免除される場合があります。
介護分野で担当する仕事
特定技能の介護分野では、高齢者や障害のある人への身体介護を中心に担当します。
具体的には、入浴、食事、排せつ、移動などの介助です。
レクリエーションの実施や機能訓練の補助など、身体介護に付随する支援業務も行います。
以前は施設内での介護が中心で、利用者の自宅を訪問するサービスへの従事は原則として認められていませんでした。
しかし、介護人材不足が深刻化したことなどを背景に、2025年からは一定の研修や実務経験を持つ人について、受け入れ事業者が必要な支援体制を整えることを条件に、訪問介護などにも従事できるようになりました。
受け入れ企業にも支援責任がある
特定技能制度は、外国人を採用すれば終わりという仕組みではありません。
特定技能1号の外国人を受け入れる企業や施設には、仕事だけでなく、日本での生活を支援する責任があります。
入国前の説明、住居の確保、銀行口座や携帯電話の契約、行政手続き、日本語学習、相談対応など、幅広い支援が必要です。
受け入れ企業が自ら支援することもできますが、登録支援機関に支援業務を委託することもできます。
外国人が職場や地域で孤立しないようにすることは、制度の適正な運営だけでなく、長期定着のためにも重要です。
日本人と同等以上の待遇
特定技能外国人の報酬は、同じ仕事をする日本人と同等以上でなければなりません。
外国人であることを理由に、合理的な理由なく低い賃金を設定することは認められません。
労働基準法や最低賃金法、社会保険など、日本の労働関係法令も適用されます。
制度上は単なる安価な労働力として受け入れるものではなく、一定の能力を持つ働き手として適正に雇用することが前提です。
ただし、制度が整っていても、実際の職場で長時間労働や不十分な説明、孤立などが起きれば定着にはつながりません。
法律上の条件を守るだけでなく、安心して働ける職場づくりが求められます。
技能実習制度との違い
技能実習制度と特定技能制度は、外国人が日本で働くという点では似ていますが、制度上の目的が異なります。
技能実習制度は、日本で身につけた技能を母国へ移転する国際協力を目的としてきました。
これに対して特定技能制度は、日本国内の人手不足に対応することを目的としています。
特定技能では一定の条件を満たせば転職も可能です。
ただし、どのような仕事にも自由に転職できるわけではなく、在留資格で認められた分野や業務の範囲内で働く必要があります。
外国人本人に職場を選ぶ余地があるため、企業側には賃金や働き方、教育制度などを改善する努力が求められます。
介護福祉士へのキャリア形成
介護分野で特定技能1号として働ける期間には上限があります。
その後も日本で介護の仕事を続けるための重要な選択肢が、介護福祉士の国家資格を取得することです。
介護福祉士に合格すれば、在留資格「介護」への変更が可能になります。
在留資格「介護」には更新回数による一律の上限がなく、条件を満たし続ければ長期的に働くことができます。
外国人介護職員にとって、介護福祉士は技能を証明する資格であると同時に、日本で将来の生活を築くための重要な資格でもあります。
そのため、自治体や介護事業者による日本語教育、試験対策、学費支援などが重要になっています。
受け入れから定着への転換
外国人材の採用数を増やすだけでは、介護人材不足の根本的な解決にはなりません。
慣れない言語や文化の中で働く外国人にとって、職場の人間関係や生活面の不安は大きな負担になります。
将来の昇給や昇進の道筋が見えなければ、より条件の良い職場やほかの国へ移る可能性もあります。
企業には外国人を一時的な補充要員として扱うのではなく、資格取得や管理職への登用も含めたキャリアを示すことが求められます。
外国人材に選ばれる職場をつくることは、結果として日本人職員にとっても働きやすい職場づくりにつながります。
結論
特定技能制度は、深刻な人手不足に直面する分野で、一定の技能と日本語能力を持つ外国人に働いてもらうための制度です。
介護分野では特定技能1号の外国人が施設や一定の訪問系サービスで働き、日本の介護を支えています。
一方、在留期間には上限があり、長く働き続けるためには介護福祉士を取得し、在留資格「介護」へ移行することが重要になります。
これから必要なのは、外国人材を何人受け入れたかという発想から、何人が安心して定着し、成長できたかという発想への転換です。
制度を人手不足の穴埋めだけに使うのではなく、外国人が専門職として成長できる環境を整えることが、日本の介護を持続可能にするための重要な課題です。
参考
日本経済新聞(2026年7月23日 朝刊)
自治体・企業 介護の外国人材育成支援
外国人介護人材とは