「配偶者には相続税がかからない。」
この言葉だけを聞くと、相続財産はできるだけ配偶者が受け取った方が得だと思うかもしれません。
実際、配偶者の税額軽減は相続税制度の中でも最も大きな優遇措置の一つです。この制度のおかげで、多くの家庭では一次相続の相続税が大幅に軽減され、場合によってはゼロになることもあります。
しかし、「税金がゼロになったから成功」と判断するのは早計です。
配偶者の税額軽減は、税金をなくす制度というより、「税金を先送りする制度」と考えた方が実態に近い場合があります。
今回は、この制度の仕組みと、利用する際に注意すべきポイントを解説します。
配偶者の税額軽減とはどのような制度か
配偶者の税額軽減は、残された配偶者の生活を守るために設けられた制度です。
夫婦で築いてきた財産を、配偶者が引き継ぐことは自然なことであり、その時点で多額の税負担が生じれば生活に支障をきたす可能性があります。
そこで、一定の範囲内であれば、配偶者が取得した財産について相続税が大幅に軽減されます。
この制度によって、一次相続では配偶者の納税額がゼロになるケースも少なくありません。
そのため、多くの人が「できるだけ配偶者へ相続させた方が得だ」と考えるのです。
一次相続だけを見ると最適に見える
例えば、父親が亡くなった場合を考えてみましょう。
財産を配偶者が多く取得すれば、配偶者の税額軽減によって一次相続の税額は小さくなります。
相続人にとっては、
「相続税が思ったより安かった」
「税金がかからずに済んだ」
という安心感があります。
この段階だけを見ると、配偶者へ多く相続させる方法は最善の選択に見えます。
しかし、本当の評価はここでは終わりません。
税金は将来へ繰り延べられているだけかもしれない
配偶者が取得した財産は、そのまま配偶者自身の財産になります。
その後、配偶者が亡くなると、その財産は子どもたちへ相続されます。
このときには、
配偶者の税額軽減は使えません。
さらに、法定相続人も減少しているため、基礎控除額も小さくなっています。
つまり、一次相続で軽減された税金が、二次相続でまとめて課税される可能性があるのです。
そのため、一次相続だけを見れば節税できたように見えても、夫婦全体で見れば税負担が増えるケースもあります。
財産を集中させるリスク
配偶者がすべての財産を取得すると、さまざまな問題が生じる可能性があります。
まず、二次相続の税負担が大きくなります。
さらに、財産が高齢の配偶者に集中するため、認知症などによって財産管理が難しくなる可能性もあります。
認知症になると、不動産の売却や資産の組み替えが容易ではなくなり、家族が思うように相続対策を進められないこともあります。
また、相続税の納税資金を準備する時間も限られてしまいます。
相続税対策は節税だけではなく、財産管理という視点からも考える必要があります。
相続全体で考えることが重要
講義資料では、一次相続だけではなく、二次相続まで含めた相続税総額を比較しています。
その結果、配偶者が法定相続分を取得した場合には一次相続の税負担は軽くなりますが、二次相続まで含めた税額を比較すると、財産の配分によって総額が変わることが示されています。
つまり、
「今いくら税金が安くなるか」
ではなく、
「夫婦二人の相続が終わるまでに合計いくら納税するか」
という視点で考えることが大切なのです。
配偶者にも十分な生活資金は必要
もちろん、節税だけを目的に配偶者の取得財産を減らすべきではありません。
老後の生活費。
介護費用。
医療費。
住宅の維持費。
こうした支出は、配偶者が一人になってからむしろ増えることもあります。
生活資金が不足すれば、節税どころではありません。
そのため、
生活に必要な資産は配偶者へ。
将来子どもへ承継する予定の資産は一次相続で分散。
というように、生活設計と節税を両立させることが重要になります。
家族ごとに最適解は異なる
相続対策には万能な答えはありません。
自宅しか財産がない家庭。
賃貸不動産を多く所有する家庭。
金融資産が中心の家庭。
事業を承継する家庭。
それぞれで最適な財産の分け方は違います。
また、子どもの人数や年齢、将来の生活環境によっても判断は変わります。
だからこそ、「配偶者が全部相続すれば安心」という考え方ではなく、自分の家庭に合った設計を考えることが大切なのです。
結論
配偶者の税額軽減は、相続税制度の中でも非常に有効な制度です。
しかし、それは一次相続だけを見た場合の話です。
二次相続まで含めて考えると、財産を配偶者へ集中させることが必ずしも最善とは限りません。
相続対策では、「今の節税」と「将来の税負担」、さらに「配偶者の生活」と「家族全体の資産承継」を総合的に考えることが重要です。
配偶者の税額軽減を上手に活用するためには、制度のメリットだけでなく、その先にある二次相続まで見据えた長期的な視点を持つことが、令和時代の相続対策には欠かせないのです。
参考
東京地方税理士会 令和の資産家の相続税対策 近年の税制改正をふまえて 江本尚浩 講義資料