これまで30回にわたり、事業承継税制や株式承継、後継者育成、相続対策、生産性向上などについて考えてきました。
シリーズ全体を通じて見えてきたことがあります。
それは、事業承継とは「株式を引き継ぐこと」でも、「税金を減らすこと」でもないということです。
本当に引き継ぐべきものは、会社そのものではなく、「経営」なのです。
今回はシリーズの締めくくりとして、人生100年時代に求められる新しい事業承継の考え方について整理します。
経営者の人生は長くなった
かつては60歳前後で事業承継を考える経営者が多くいました。
しかし人生100年時代となった現在では、70代、80代まで現役で活躍する経営者も珍しくありません。
一方で、経営期間が長くなったからこそ、
「いつ承継するのか」
という判断は以前より難しくなっています。
だからこそ重要なのは、「引退する時期」を考えることではなく、「後継者を育て始める時期」を考えることです。
事業承継は引退準備ではなく、未来への投資なのです。
会社の価値は株式だけではない
会社には、
設備があります。
商品があります。
技術があります。
しかし、本当に価値があるのは、
社員との信頼関係。
取引先との信用。
経営理念。
企業文化。
長年積み重ねてきた経験。
こうした目に見えない財産です。
これらは契約書だけでは引き継げません。
日々の仕事を通じて少しずつ受け継がれていくものです。
だからこそ、事業承継は時間をかけて行う必要があります。
後継者は未来を創る存在である
これからの後継者には、
会社を守ることだけではなく、
会社を進化させることが期待されています。
生成AI。
DX。
人口減少。
脱炭素。
国際化。
こうした新しい課題へ対応しながら、会社をさらに成長させていかなければなりません。
創業者と同じ経営をすることではなく、創業者の理念を受け継ぎながら、新しい時代に合わせた経営を行うことが後継者の役割です。
制度は経営を支えるためにある
シリーズの中では、事業承継税制についても詳しく見てきました。
制度は非常に重要です。
しかし、制度そのものが会社を成長させるわけではありません。
制度は、
経営を支えるための道具です。
後継者育成を支える仕組みです。
会社の未来を後押しする環境です。
制度を上手に活用する企業ほど、制度に依存するのではなく、自らの経営力を高め続けています。
地域社会の未来も事業承継にかかっている
中小企業は地域経済の中心です。
会社が存続すれば、
雇用が守られます。
技術が残ります。
地域企業との取引も続きます。
反対に、事業承継がうまくいかなければ、地域全体が大きな影響を受けることもあります。
だからこそ、事業承継は一企業だけの問題ではなく、日本全体の未来にも関わる重要なテーマなのです。
経営承継という考え方が重要になる
今回の講義資料全体を通じて最も強く感じたことは、
「事業承継」よりも「経営承継」という言葉のほうが本質を表しているということです。
株式だけを渡しても会社は成長しません。
税制だけでは会社は守れません。
後継者が、
理念を受け継ぎ、
社員を育て、
会社を成長させ、
地域へ貢献していく。
そこまで含めて初めて、本当の意味での承継が完成します。
結論
人生100年時代の事業承継は、「財産承継」の時代から「経営承継」の時代へと大きく変わろうとしています。
税制や制度は重要ですが、それ以上に大切なのは、人を育て、会社を育て、未来を育てることです。
事業承継とは、過去を守るための取り組みではありません。
次の世代がさらに成長できる会社を託すための、未来への経営戦略です。
30回にわたる本シリーズで取り上げてきたテーマは、それぞれ異なるように見えて、すべて「会社を未来へつなぐ」という一つの目的につながっています。
これから事業承継を考える経営者には、ぜひ「何を引き継ぐか」ではなく、「どのような未来を引き継ぐか」という視点を持っていただきたいと思います。
参考
北陸税理士会「事業承継税制(特例版)における実務上の論点整理」
中小企業庁「今後の検討の方向性について」