事業承継税制を利用する際、多くの経営者が気にするのが「雇用確保要件」です。
「従業員を維持しなければ制度が使えないのではないか」
「人手不足の時代に要件を満たし続けられるだろうか」
このような不安を持つ方も少なくありません。
しかし、日本の雇用環境は大きく変化しています。
そのため、事業承継制度についても、現在の社会情勢に合わせた見直しが議論されています。
今回は、雇用確保要件の考え方と今後の方向性について考えてみます。
なぜ雇用確保が重視されるのか
事業承継税制は、単に株式を引き継ぐための制度ではありません。
制度の目的は、
会社を存続させ、
地域経済を支え、
雇用を守ることです。
もし事業承継後に大量の従業員が解雇されれば、地域社会への影響も大きくなります。
そのため、制度では「雇用を維持する」という考え方が重要視されてきました。
これは税制ではありますが、その背景には地域政策や産業政策という側面もあるのです。
時代は大きく変わっている
しかし現在、日本では深刻な人手不足が続いています。
以前は、
「従業員を維持できるか」
が課題でした。
現在は、
「従業員を採用できるか」
という課題へ変わっています。
つまり、雇用を減らしたいのではなく、採用したくても人が集まらない企業が増えているのです。
こうした社会環境の変化を考えると、従来と同じ考え方だけでは制度を運用しにくくなってきています。
重要なのは人数よりも会社の成長
これからの時代に重要なのは、単純な従業員数だけではありません。
例えば、
DXを導入する。
AIを活用する。
業務を効率化する。
付加価値を高める。
こうした取り組みによって、一人当たりの生産性が向上する企業もあります。
その結果、従業員数は大きく変わらなくても、
利益は増える。
給与は上がる。
働きやすさも改善する。
という企業も増えています。
つまり、会社の成長を人数だけで評価する時代ではなくなりつつあるのです。
制度も見直しが議論されている
中小企業庁が公表している検討資料では、雇用確保要件についても議論が行われています。
委員からは、
現在の雇用環境を踏まえる必要がある。
企業努力だけでは対応できない人手不足もある。
地域や業種による違いにも配慮すべきである。
といった意見が示されています。
これは、単純な人数だけでは企業の実態を十分に評価できないという認識が広がっていることを示しています。
今後は、より現実に即した制度へ見直される可能性があります。
後継者には人材戦略が求められる
制度がどう変わるとしても、人材が会社の最も重要な資産であることに変わりはありません。
後継者には、
採用力。
育成力。
定着率の向上。
働きやすい職場づくり。
こうした人材戦略が求められます。
給与だけではなく、
働きがい。
成長機会。
柔軟な働き方。
こうした環境づくりが、これからの企業競争力になります。
事業承継とは、人を引き継ぐことでもあるのです。
会社の価値は「人」がつくる
会社の設備は購入できます。
建物も建てられます。
しかし、経験豊富な社員は簡単には育ちません。
長年会社を支えてきた社員こそが、企業価値そのものです。
だからこそ、後継者には、
「社員を守る」
という視点だけではなく、
「社員が成長できる会社をつくる」
という視点が求められます。
社員が安心して働ける会社は、自然と顧客や地域からも信頼される企業になっていきます。
結論
雇用確保要件は、事業承継税制の重要な考え方の一つですが、その背景にある本当の目的は、地域経済と雇用を守ることです。
一方で、人手不足やDXの進展など、経営環境は大きく変化しています。
そのため、今後は従業員数だけではなく、生産性や企業の成長力なども含めた制度設計が検討される可能性があります。
事業承継で最も重要なのは、制度の要件を満たすことだけではありません。
社員が安心して働き、会社が成長し続けられる環境をつくることこそが、次の世代へ引き継ぐべき本当の財産なのです。
参考
北陸税理士会「事業承継税制(特例版)における実務上の論点整理」
中小企業庁「今後の検討の方向性について」