近年、中小企業でも海外へ進出する企業が増えています。
製造拠点を海外へ設けたり、現地法人を設立したり、海外企業と取引を行ったりすることは、もはや一部の大企業だけの話ではありません。
こうした企業が事業承継を迎える場合、国内だけで事業を行う企業とは異なる課題が生じます。
今回は、海外子会社を持つ企業が事業承継で注意したいポイントについて考えてみます。
海外子会社があるだけで事業承継は複雑になる
国内だけで事業を行う企業であれば、株式や相続、税務の検討は日本法を中心に進めることができます。
しかし、海外子会社がある場合は、
- 現地法人の運営
- 海外の法制度
- 現地経営者との関係
- 国際税務
など、多くの要素を考慮しなければなりません。
後継者には、日本国内だけではなく海外事業全体を理解する力も求められるのです。
海外事業は人材への依存度が高い
海外子会社では、日本本社以上に「人」が重要になります。
現地責任者や駐在員との信頼関係が会社の業績を左右することも少なくありません。
もし事業承継によって、
「本社との方針が変わるのではないか」
「現地への支援が弱くなるのではないか」
という不安が生じれば、人材流出につながる可能性もあります。
そのため、後継者は早い段階から海外拠点を訪問し、現地スタッフとの信頼関係を築いておくことが重要です。
海外子会社の経営状況を正確に把握する
事業承継では、国内本社だけを見ていては十分ではありません。
海外子会社についても、
- 収益性
- 財務状況
- 将来性
- 現地での法令遵守
などを確認しておく必要があります。
海外事業は為替変動や政治情勢の影響も受けやすいため、後継者には国内以上に幅広い視点が求められます。
事業承継を機に、海外事業の役割を改めて見直すことも大切です。
制度も海外子会社への対応を検討している
中小企業庁が公表している今後の制度検討資料では、事業承継税制の論点の一つとして「海外子会社」が取り上げられています。
これは、中小企業でも海外展開が珍しくなくなり、従来の制度だけでは十分に対応できない場面が増えていることを示しています。
制度の詳細は今後の議論を待つ必要がありますが、海外事業を持つ企業への配慮も重要なテーマとして認識されていることが分かります。
つまり、事業承継制度も国内だけを前提としたものから、国際化に対応した制度へ進化しようとしているのです。
後継者にはグローバルな視点が求められる
これからの後継者には、
国内市場だけを見る経営ではなく、
世界全体を見渡す視点が求められます。
例えば、
海外市場の動向。
国際物流の変化。
為替リスク。
現地の人材育成。
こうしたテーマにも関心を持つことで、会社の成長機会は大きく広がります。
事業承継とは、国内事業を守るだけではなく、海外事業をさらに発展させるきっかけにもなり得るのです。
事業承継は海外戦略を見直す機会でもある
後継者が就任するタイミングは、会社全体の戦略を見直す好機でもあります。
現在の海外事業は会社の強みになっているのか。
新たな国へ進出すべきなのか。
あるいは事業を整理すべきなのか。
こうした判断を行うには、過去の成功体験だけではなく、将来の市場環境も見据える必要があります。
事業承継を契機に海外戦略を再構築することは、会社の持続的な成長にもつながるでしょう。
結論
海外子会社がある企業の事業承継では、株式承継や税務対策だけでは十分ではありません。
海外拠点の経営状況、人材との信頼関係、国際的な経営環境まで含めて考えることが重要になります。
今後は制度面でも海外子会社への対応がさらに検討されていく可能性があります。
だからこそ、後継者には国内だけでなく世界を見据えた経営感覚が求められます。
これからの事業承継は、「会社を引き継ぐこと」だけではありません。
国内と海外を一体で考えながら、会社を次の成長ステージへ導くことが、新しい時代の経営者に期待される役割なのです。
参考
北陸税理士会「事業承継税制(特例版)における実務上の論点整理」
中小企業庁「今後の検討の方向性について」