事業承継税制というと、「相続税や贈与税を軽減する制度」というイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし近年、その考え方は大きく変わりつつあります。
国が目指しているのは、単に会社を存続させることではありません。
事業承継をきっかけに企業が成長し、生産性を高め、地域経済を支える存在になってほしいという考え方が強まっています。
今回は、生産性向上と事業承継税制の関係について考えてみます。
事業承継は「維持」ではなく「成長」の機会
以前の事業承継は、「会社をそのまま引き継ぐこと」が大きな目的でした。
もちろん、会社を存続させることは重要です。
しかし、社会環境は大きく変化しています。
人口減少。
人手不足。
デジタル化。
物価上昇。
こうした変化の中では、今までと同じ経営を続けるだけでは会社の発展は難しくなります。
そのため、事業承継は会社を変革する絶好の機会でもあるのです。
生産性向上が求められる理由
中小企業は日本企業の大部分を占めています。
一方で、人手不足は年々深刻になっています。
人を増やすことが難しい時代だからこそ、
一人当たりの付加価値を高める経営、
つまり生産性向上が重要になります。
例えば、
DXを導入する。
業務を自動化する。
付加価値の高い商品を開発する。
利益率を改善する。
こうした取り組みは、会社の競争力を高めるだけでなく、社員の働きやすさにもつながります。
後継者だからこそ改革を進めやすい
創業者は会社をゼロから築き上げた経験があります。
そのため、長年続けてきたやり方を変えることに慎重になることがあります。
一方、後継者は新しい視点を持っています。
デジタル技術。
生成AI。
クラウドサービス。
新しい営業手法。
こうした新しい考え方を取り入れやすい立場にあります。
事業承継は、経営者が代わるだけではありません。
会社の経営スタイルを見直す絶好のタイミングでもあるのです。
制度も「成長する企業」を後押ししようとしている
中小企業庁の資料では、今後の事業承継税制の方向性として、生産性向上や地域への貢献などを制度へどう反映させるかについて議論が進められています。
また、
過去の実績を評価する仕組み。
企業活動の透明性。
成長を促す制度設計。
などについても検討されています。
これは、「承継しただけで終わり」ではなく、「承継後にどれだけ企業が成長したか」を重視する方向へ制度が発展しようとしていることを示しています。
生産性向上は社員のためでもある
生産性向上という言葉を聞くと、
「効率化」
「コスト削減」
というイメージを持つ方もいます。
しかし、本来の目的はそれだけではありません。
利益が増えれば、
社員へ十分な給与を支払える。
働きやすい職場を整えられる。
設備投資ができる。
新しい人材を採用できる。
会社全体が成長する好循環が生まれます。
つまり、生産性向上とは「人を減らすこと」ではなく、「人がより力を発揮できる会社をつくること」なのです。
事業承継は未来への経営改革である
講義資料では、事業承継とは単なる株式承継ではなく、「経営を承継すること」が本質であると示されています。
経営を承継する以上、会社も時代に合わせて進化しなければなりません。
後継者には、
会社を守る責任と、
会社を成長させる責任の、
両方があります。
だからこそ、事業承継は過去を引き継ぐだけではなく、未来をつくる経営改革でもあるのです。
結論
これからの事業承継税制は、単なる税負担の軽減制度ではなく、企業の成長を後押しする制度へと発展していく可能性があります。
後継者には、会社を守るだけではなく、生産性を高め、新しい価値を生み出す経営が求められています。
事業承継とは、社長が代わることではありません。
会社が次の時代へ進化するきっかけをつくることです。
その視点を持つことが、これからの中小企業経営においてますます重要になっていくでしょう。
参考
北陸税理士会「事業承継税制(特例版)における実務上の論点整理」
中小企業庁「今後の検討の方向性について」