事業承継の相談でよく聞かれるのが、「自社株の評価額を下げる方法はありませんか」という質問です。
確かに、自社株の評価額が高くなるほど、相続税や贈与税の負担は大きくなる可能性があります。
しかし、自社株評価を下げることだけを目的にしてしまうと、会社の成長力まで失ってしまうことがあります。
事業承継で本当に大切なのは、税金を減らすことではなく、会社の価値を次の世代へ引き継ぐことです。
今回は、自社株評価を経営戦略と一体で考える重要性について解説します。
自社株評価が高くなるのは悪いことではない
自社株評価が高いと、多くの経営者は不安になります。
しかし、自社株評価が高いということは、
- 利益が安定している
- 純資産が充実している
- 会社の財務基盤が強い
という結果でもあります。
つまり、自社株評価が高いこと自体は、会社が順調に成長してきた証でもあるのです。
税負担だけを見て悲観する必要はありません。
まずは会社の成長を正しく評価することが大切です。
評価額だけを下げる発想には注意が必要
事業承継対策として、
「株価を下げたい」
という考え方だけが先行すると、本来必要な投資まで控えてしまうことがあります。
例えば、
利益を無理に減らす。
資産を安く売却する。
設備投資を見送る。
こうした方法で一時的に評価額が下がったとしても、会社の競争力まで低下してしまえば意味がありません。
会社の価値を守ることが、結果として後継者を守ることにもつながるのです。
経営計画と株価対策はセットで考える
自社株評価は、会社の経営状況によって変化します。
そのため、
- 売上計画
- 利益計画
- 設備投資
- 借入計画
- 配当政策
など、経営全体と切り離して考えることはできません。
講義資料でも、事業承継計画は株式承継だけでなく、利益計画や役員交代、生命保険の活用などを組み合わせた長期計画として示されています。
株価対策も、その一部として位置付けることが重要なのです。
後継者が困らない会社をつくることが目的
自社株評価を考える際に忘れてはいけないのが、「後継者の立場」です。
後継者が本当に望んでいるのは、
評価額が低い会社ではありません。
利益が出ない会社でもありません。
安心して経営できる会社です。
たとえ株価が高くても、
安定した利益がある。
優秀な社員がいる。
金融機関との信頼関係がある。
こうした会社のほうが、後継者にとってははるかに引き継ぎやすい会社といえるでしょう。
税制も長期的な経営を前提としている
事業承継税制は、自社株の承継を支援する制度ですが、その目的は株価を下げることではありません。
会社が継続して成長し、地域経済や雇用を守ることが制度の本来の目的です。
中小企業庁でも、今後の制度の方向性として、
- 生産性向上
- 後継者育成
- 地域への貢献
- 持続的な成長
を重視する考え方が示されています。
つまり、税制も「成長する会社」を支える制度へと発展しようとしているのです。
株価は経営の結果として考える
自社株評価は、経営の「結果」です。
そのため、
経営理念を明確にする。
利益を安定して確保する。
財務体質を強化する。
後継者を育成する。
こうした経営の積み重ねが、最終的に株価へ反映されます。
評価額だけを操作しようとするのではなく、健全な会社経営を続けることが最も重要な株価対策になるのです。
結論
自社株評価は、税金だけの問題ではありません。
会社の成長力や財務の健全性を映し出す指標でもあります。
そのため、評価額を下げることだけを目的にするのではなく、会社の将来を見据えた経営戦略と一体で考えることが重要です。
事業承継で本当に目指すべきなのは、「株価の低い会社」ではありません。
後継者が安心して経営できる「価値の高い会社」を次の世代へ引き継ぐことこそが、事業承継の本来の目的なのです。
参考
北陸税理士会「事業承継税制(特例版)における実務上の論点整理」
中小企業庁「今後の検討の方向性について」